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「まさかの二回目の召還。本当早く還りたい」

短編『乙女ゲーム的世界に喚ばれた弟を迎えに行きます』の続きになります。今回の主役は弟の方です。一応。

 キラキラとしたエフェクトを幻視した。


 俺たちが立っていたのは白亜の神殿の中に設えられた祭壇の上だった。ここは現実見が無い程きらびやかで、塵ひとつ落ちていない。甘い香りに視線を巡らせば、周囲は今が盛りと咲き誇る色とりどりの薔薇に囲まれていた。

 俺の隣にいるのは、制服姿の女子高生で、突然の事態に困惑をその整った愛らしい顔に浮かべている。


 え? 何これ?


 デジャビュ?

 ……いや、現実逃避するな。自分。


 少女が不安そうに俺を見上げて、声を掛けようとした時

「よくお出で下さりました。『東雲の姫巫女』」

 よく響くバリトンが彼女に向けられた。

 それすら既視感が拭えない。と、すればこの声の主は、召還を司る神殿の司祭だろう。その予想通りにいつの間に現れていたのか……祭壇に至る階段の下に、純白に金糸の縫いとりで彩られた法衣姿の美丈夫が静かに進み出ていた。

「……東雲の……姫、巫女?」

 震える声で少女が呟く。

 聞き覚えのある名称だ。人に仇なす魔のモノを生み出し、その力を増す『混沌の渦』この『世界』のあちこちに点在するそれを、鎮め封じることの出来る唯一の存在。何故か異世界の少女でなければ負うことの出来ない役割。


 巫女には数人の護衛が付けられ、魔のモノの脅威の中、『混沌の渦』を封じて回る旅に出る……


 うん。知ってる。

 俺は以前全く同じ状況に陥った事がある。

 まさかの二回目ですか。



 俺は高校生だった頃、当時ちょっと意識していたクラスメートと共にこの『世界』に喚ばれた。

 俺は俺なりに、彼女と共に元の『世界』に還ろうと全力を尽くした。その途中で実の兄にフラグが心ごと折られたりもしたのだが、彼女を護りきり全ての『混沌の渦』を封じた。

 だが、彼女はこの『世界』に残る事を選んだ。

 共に戦った、心許した者達と同じ『世界』で生きるのだと。

 --俺は彼女と別れ、独りで『日常』に帰還した。

 と、前回のあらすじといった物ははこんな感じだろうか。


 兄とは言っても一卵性の双子なので、普段はそういう兄弟としての上下関係の意識は無い。ただ、俺は昔から道を覚えるということをどうしても苦手にしていた。兄の薫がそういうことを得意にしている質で、物心付く前からその背中に付いて行くのが習慣化してしまったせいでは無いかと思っている。

 我が家で、いつの頃からか決まっていたルール。

 それは俺が迷子になった時は、薫が迎えに来るというものだ。

 俺が幼心にも、肩身が狭く何とも申し訳ない気分になっているのに気付いていたからか。薫はその時ばかりはことさらに「兄である」事を主張するのだ。

 前回の召還時……『異世界』なんてスケールのでかい規模の迷い子になった俺を迎えに来たのも薫だった。支援物資片手に俺の前に現れた薫は、この異常事態に色々と『浮かれていた』俺に、客観的な視点もまた残して、あっさり還って行った。

 心配してくれた事も、支援物資にも本当に感謝している。

 うん、それでも言いたい。動画は消してくれ。今の今まで後生大事に取って置かないでくれ。


 少々現実逃避をしている間に、司祭が語っていたのは、俺の推測通りの状況のようだった。隣にいる少女に「この世界を救ってくれ」と滔々と訴えている。

 ……前回の召喚から、二百年近くたっているらしい。

 以前の召喚時の俺の事を知る者もいないだろう。……それは、幸いと言って良いのだろうか。

 二百年もたっているというのに、この『世界』は同じ事を繰り返しているのか。自ら成長することを放棄して。

 腹の奥に『あの頃』から残る、苦い物を感じた。


 あの頃から見れば、俺はあの時の倍以上の時間を生きている。

 ならば、一角の大人として、今の俺に出来ることは、この子を元の『世界』に連れ還ることだろう。

 もう、あんな苦い思いはしたくはない。


 司祭の耳に届かぬように、彼女に耳打ちする。

 この『世界』の者に、心を許すな。俺が守るから、必ず元の『世界』に還ろう。

「た、高遠……先生……?」

 彼女は顔を赤らめて、俺をそう呼んだ。

 ん……? 俺は教師ではない。なんで『先生』って? あ、あぁっ! この子、薫の学校の生徒かっ! 俺を薫と勘違いしてっ……

 あ、れ?

 ナンデ、コンナニ、カオ、チカイノカナー?


 ……なんで俺は、わざわざ名前も知らない女の子。抱き寄せたり、してるんですかね?

 注意を引いて、小さい声で警告するつもりが、抱きしめて囁いちゃったりするんですかね!?

 セクハラで訴えられたら勝てないよ!? 痴漢の現行犯って言われても言い訳できないよ!?

 背中をだらだらと、嫌な汗が伝う。


 偉大なるご先祖さまは、異世界トリップ・トラブル体質となった、後世の子孫に加護を遺して下さいました。

 子孫達に「チートだろう」と称されるご先祖さまの加護は強力で、ウチの一族が『異世界トリップ』なんていう超常のトラブルを、宴会の話題程度の気楽な物に変えてくれている。

 簡潔に言えば、『異世界への適応力』……例を上げれば、ウチの一族の人間は、どんな『異世界』でも言語に困らない。話言葉も文字も、『トリップ先の異世界』に限っては、扱うことに不便は無いのだ。

 他にも、RPG風に言えば、経験値upのスキルが常時かかっているとも言えば良いのか……俺に限って言っても、授業の剣道経験位しかなかった俺が、数度の訓練のみで、戦いの訓練を受けてきていた旅の同行者たちと並んで『魔のモノ』と戦えたことなんかがそうだろう。この『世界』特有の魔法も覚えたが、それだって、この『世界』の教育を受けていない俺が扱えるようになったさまに、当時の司祭や魔法使いどもは絶句していた位だ。

 ……感謝、しています。ご先祖さま。

 でも、曾祖父さん? もしかしたら、この状態って、『適応』しちゃっているんですかね、俺?


 このやたらキラキラした甘い甘い『世界』に。


 思い返せば、前回の時も、歯の浮く台詞を羅列していた、のも……


 うわあぁぁぁあぁっ!!

 嫌だぁぁっ! この歳になって、黒歴史の上塗りなんてどんな拷問だぁっ!?


 ……拝啓、兄貴。不肖の弟は、再び異世界の地におります。

 至急、迎えに来て頂けることを、切に、切に願っております。


全話書き終えているので、サクサク進んでいきます。全13話となりますので、最後までおつきあい頂ければ幸いです。

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