光差す心の先に
前話とは違い男性の立場からの気持ちを書きました。
もう二年か…。
S子と何度 密会しただろう…。
初めて 彼女と待ち合わせをしたのは、雨の降る日だった…。
自分からは、話そうとはせず、オレの問いかけに答えるだけの女だった…。
メールでのやり取りとは違い、
実際に逢ってみると
人妻とは言え、緊張しているのがハッキリと解った。
今まで出会い系では、何人かの女と会った。
でも、どの女もオレの求める理想像とは、どこかが違っていた…。
会話も弾む、体の相性も良い、そんな女も何人かいた。
しかし、その時だけで、
もう一度会おうと思える女は、一人も居なかった…。
出会い系で会う女は、皆 同じように感じ始めていた…。
メールのやり取りだけで、その女の性格の全てが判るはずも無く、出会い系サイトなんて単に遊び心を埋めるそんなものだと思いはじめていた。
あと一人と会って 同じなら、もう止めようと思っていた。
その最後の一人が、S子だった。
決して、美人では無い。
ごく普通の大人しい感じの女だった。
この女も、今まで会った女達と同じか…。
オレは、半ば諦める気持ちで、ホテルに向かった。
部屋に入り、彼女のか細い肩に掛かる上着に、手を掛けた時、
恥じらいながら伏し目がちに顔を背ける淋しげなその仕草に、
オレの若かりし日の記憶が、朧気に蘇った。
多分、初恋の相手をはじめて抱き寄せた時の様な…。
そんな記憶だろう…。
彼女のその仕草に、
大人の女の中に残る少女を、見た気がした。
初めて会ったこの女に、どこか懐かしさを感じた。
今までの女達とは、違う印象に戸惑う半面、
初恋を、思い出させてくれた彼女との出会いが、嬉しかった。
この女となら、恋が出来るかもしれない、
自分の歳でも、まだ恋が出来るかもしれない、
そう思うと、心も体も若返った様な気がした。
若い頃から、ずっと真面目に、働いて来た。
同僚からは、お前は時計のような男だと、何度も言われた…。
それが誉め言葉なのか、皮肉なのか…。
同じ方向にしか動かない、つまらない男、
オレには、
そう思えてならなかった…。
そんなオレの真面目さを見て、上司が見合いを薦めてくれた。
ただ、何となく見合いをした。
心から愛しては居ない女と何となく結婚して、
子供が生まれ、それなりの幸せも感じた。
しかし、いつも心の隅には陰が有った。
その陰が何なのか、
解らずに、何となく暮らして来た…。
新しい出会いがあれば、
陰が消えるかもしれない、
そんな思いでサイトを始めた…。
S子となら、恋が出来るかもしれない、
そう思った時、心に光が差し込んだ。
その光が、陰を消した。
光に向かって走り出したくなった。
自分でも、気付かぬうちに、走り出していたのかもしれない…。
無理にでも時間を作り、
S子と逢う事だけを、考える様になっていた。
人妻である事は、承知している。
けれど、この女を守ってあげたい。
せめて 逢っている時だけでも、
僅かな時間でも、幸せにしてあげたい。
素直な気持ちで、そう思えた。
密会を重ねる度に、その思いが強くなっていた。
結婚する前に、S子と出逢いたかった…。
S子となら、どんなに楽しく暮らせた事だろうか…。
10年も前に、女房と見合い結婚をして、
子供もいるのに…。
そんな馬鹿げた事ばかり考える自分に、
苦笑いする回数は、増えていた。
二年の月日の中で、
彼女は、変わった。
初めてS子を抱いた時は、受け身だけの女だった。
回を重ねるその度に、彼女の受け入れ方が、
少しずつ 変わっていくのが、わかった。
何か嫌な事から、逃れる様に、オレとの交わりを求めている様にも思えた。
ベッドの上で、彼女は、オレの要求に応えてくれた。
時には優しく、時には
激しく貪るように体を重ね合わせた。
我を忘れて、ただひたすら
彼女を悦ばせる事に夢中になっていた。
シーツの上の彼女は、弓なりにのけ反り
細い身体を抱き起こすと、オレに、しがみついて来た。
そんな彼女が、愛おしくて堪らなかった。
きしむほど強く彼女を、抱きしめた。
愛おしい身体を、何時までも離したくは無かった…。
S子を抱く度に、そう思った…。
オレが、彼女を変えている、
オレの理想に近い女に変えている
、
そう思うと、彼女の体だけは無く
、
心まで裸にしたい、
裸の心までも奪ってしまいたい、そんな衝動に、何度も駆られた。
この二年の間、
オレはその欲望を、抑え続けて来た…。
何もかも投げ出して、
彼女と二人で、
駆け落ちしても良い、
そこまで考える程に、
彼女の事を愛していた。
ひと月に、二回か三回
それも僅かな時間だけの密会が、
今の自分を支えている。
オレの中で、S子の存在は、
無くてはならないものに変わっていった…。
しかし、オレがS子を愛するほど、
もっとS子の事を、知ろうとするほど、
彼女のオレに対する態度が、
少しずつ変わり始めた。
最初は、気のせいかと思った…。
彼女のオレを避けるような態度が、
不安げな表情が、尚更
オレの心を、かき乱して居た…。
無理に抑えた欲望が、
自分の心を支配し始めて居る事に、
オレ自身は、まだ気付いては居なかった…。
次の投稿で最終話です。




