Ⅰ
今朝も相変わらず陽気な天気である。
おもちゃの家もカーテンが開いた。どうやら麻衣も起床したようだ。
「あ~、麻衣ちゃ~ん、おはよ~ございま~す」
「ん? あ、碧人くんのモノマネ? 似てる似てる!」
そういって喜んでくれる麻衣。
だけど僕は碧人のモノマネなんてしたつもりはなかった。
完全に無意識的に、元からそうやって話していたかのように言葉が出てしまった。
そのことに気付いた僕は驚きの表情を隠せなかったようだ。
「どうしたんだ?」
「……いや、なんでもない」
なんだろ、疲れてんのかな。それともまだ夢だったりするのかな?
もう一度寝てみよう。
「おーい、遅刻するって、アニキ~。寝ぼけてんなよ~」
麻衣が僕の上で飛び跳ねている。
かすかだが麻衣が僕を踏みつけている感触がある。
夢ではないようだ。
学校に遅刻するわけにもいかないため(この前のは仕方がない)登校の準備をする。
そんじゃ、いってきまーす。
ぱっと移動してきた。
「なんの話だ?」
こっちの話だ。気にするな
とにかく学校に着いたのだ。
「碧人、おはよ」
「あ、新太、おはよ」
………………ん?
僕は碧人に話しかけてるよな? 現に返答したのは碧人だ。
だけど……
「誰だお前」
「え、どうした」
「どうしたじゃないだろ。明らかに話し方変わってるし」
「……」
「……」
「な~んて、じょ~だんですよ~。イッツアジョ~クで~す」
まったく、いつも碧人がしないような雰囲気を醸し出すからびっくりしたじゃないか。なんだそれは、新しいキャラなのか。
突然、麻衣が唸りだした。
「どうした?」
「アニキと碧人君が同じようなボケをしている……それ、今流行ってるのか?」
「え~? ど~ゆ~ことですか~?」
「何か今の碧人君、アニキっぽかったぜ」
「そうか?」
「そうだって。疑問を抱いてる時の表情のマヌケさがそれだったぞ」
マヌケって……そんなマヌケ面なのか、僕は。
「そりゃあもう、目が点になってるくらい」
そうなのか。よく見てるな、麻衣は。
「ふ、ふん。毎日見てんだから当たり前だぜ」
赤く染まった頬を擦りながらそう話す麻衣。
いやもう、ホントかわいいな、うちの妹。
……シスコンじゃないぞ。断じて違うぞ。
「ところで麻衣ちゃ~ん」
「ん? なんだ?」
「新太くんと同じボケってど~ゆ~ことですか~?」
「あぁ、それね。なんかな、今朝アニキがいきなり碧人君のモノマネやってきてさ。ちなみに結構似てたと思うぞ」
「へ~……そ~なんですか~……」
ほんとに、あの感覚は何だったのだろうか。
自分の意識が停止し、代わりに碧人の意識が流れてくるようだった。
少しだけ、碧人の気持ちになれそうな気がしたところで自分の意識が帰ってきた。
初めての感覚……これが恋か!?
「そんなわけあるか」
麻衣に変な目で見られた。
碧人はなんか苦笑いしてた。
昼休み。いつもの三人で昼食をとっていると、彩歌が颯爽と現れて僕たちの輪に混ざってきた。
「おーっす! 元気にしてる?」
こいつ、クラスにちゃんと溶け込めているのだろうか。不安だ。
「大丈夫よ。たぶん」
たぶんかよ……
「それより……」
そういうと、彩歌は僕に耳打ちをする。
「おまじない、ちゃんと効いたかな? 碧人と仲良くできてる?」
「だから、大丈夫って言ってるだろ? 心配すんなって」
僕も彩歌に耳打ちし返す。
まったく、昨日のこと、まだ言ってやがる。
あのことは正直忘れてほしいのだが。
「二人で何話してるんですか~? 隠し事はズルイですよ~」
放置状態になった碧人が会話に割って入ってきた。
「彩歌が便所行きたいんだってさ」
「なっ! そんなこと言ってないでしょうが」
「いででででででででで! 耳を引っ張るな! とれる! とれる!」
どうしてわざわざ攻撃されるような言葉を選んでるんだ、僕は。
ついに目覚めてしまったのだろうか。