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マイうぇい!  作者: 綾式御人
第一章 噂は所詮噂……だよね?
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「ふぅ……」

 湯船につかり、本日の疲れを落とす。

 と、ここでふと考え事をする。

 麻衣の胃袋の話じゃない。それはもう……愚問である。

 考え事というのは彩歌の話だ。

 正直に言うと、僕と彩歌が付き合っていた時間というのを、僕は覚えていない。

 いや、付き合っていた、という状況は覚えているのだ。

 ただ、具体的に二人で何をしていたか、何を思い、何を話していたか、という記憶がない。

 碧人も混ざって、三人でいるときのことは鮮明に覚えている。二人でいたときの時間だけがぽっかりと空白になっている感じだ。

 どうして覚えていないのかなんて分からない。

 いや、覚えていない、という表現も正しいのかわからない。なんというか、そこの部分だけ取り除かれた感じ。

 遠距離状態になったとき、メールをしたという行為は覚えている。だけど内容は思い出せない。

 だから僕たちがまだ付き合っているのか、ということも知らないのだ。

 かといって、彩歌に「僕たちはまだ付き合ってるのか」なんて聞けるわけない。

 さすがの僕でもそれが失礼な行為だということは分かる。

 こういうことがあって、実を言うと彩歌に再会してからずっと錯乱状態だった。

 それでも何とか誤魔化そうと励んでみたけど、やっぱりこうやって時間が空くと考えてしまった。

 だけど、だからといって彩歌と距離を置いてみようなんて思わない。

 せっかく帰ってきたんだ。

 余計な感情は介入させないで、昔通り楽しくやっていきたい。

 付き合っているかどうか以前に、僕たちは友達だ。

 元々の三人の中に麻衣が加わり、友情はより一層堅いものとなった。

 それでいいじゃないか。

 楽しければ問題ないはずだ。

 うん、そうだ。このことは忘れてしまおう。

 もし僕たちがまだ付き合っているのだとしたら彩歌が「デートに連れてけ」とか言ってくるだろうしそんなに深く考え込まなくても大丈夫だろう。

「アニキ~? ちょっといいか?」

 浴室に隣接している洗面所から麻衣が声をかけてきた。

「どうした?」

「ケータイ鳴ってるんだけど~?」

 電話か? いったい誰からだろうか。

 湯船から上がり体を拭き浴室から出ようとする。

「あ……切れた」

 あらら……。

 しょうかない。どうせだから一旦入浴は切り上げて部屋に戻って履歴を確認するとしよう。

「あ! ちょっと待って。アタシが出てからに……」

「え?」

 もう遅かった。


「噛みつくことないじゃないか」

「アニキが無頓着だからだろ~。アタシだって女の子なんだからそういうの意識してくれよ!」

「別に兄妹なんだから僕の裸くらいいじゃんか」

「やだ。今度裸でアタシの前に来たらサンちゃん様にズタズタにしてもらうんだからな」

「う……それはご勘弁」

 さすがの僕でもその仕打ちは耐えられない。

 あ、いやでも、身体に傷ってちょっとカッコよくない?

「いっちゃってください、サンちゃん様」

「わぁ~! ちょっと待ってくださいごめんなさいもうしませんから」

「……ったく」

 下手なことは言わない方がいいな。こりゃ。

「そうそう。電話来てたんだって。見なくていいのか?」

 そうだった。急いで確認する。

 発信者は……彩歌?

 何かあったのか?

 とりあえず掛け直してみる。

 二、三回コールをした後に彩歌が電話に出る。

「もしもし、彩歌? どうしたんだ?」

「あ、新太、今時間大丈夫? 大丈夫じゃなくても話すけどね」

 だったら確認取んなくていいだろ。

「……生憎あいにく、今は暇で仕方がない。要件はなんだ」

「あら、随分な言い様ね。もっとちゃんとした言い方があるんじゃない?」

「切るぞ」

「あ、ちょっと待ってよ! 冗談だから怒んないでって~」

 声の様子から相当慌てふためいているようだ。なんかおもしろい。

「それで、用事は?」

「あ、そうそう。碧人とのことなんだけどさ」

「碧人となんかあったのか?」

「いや、私はないわよ。新太がなんかあったんじゃないの?」

「……」

「ねぇ、どうしたのよ? 私には新太が碧人に対して気を使ってるように見えるけど。他の人じゃわかんないかも知んないけど、碧人との接し方が昔と変わってたわよ」

「歳を重ねていけば変わってくることもあるよ。それに、気を使ったりしてない。まったく、彩歌は心配性だなぁ。」

「それ。何か自分に都合の悪いときはすぐはぐらかそうとする。何も考えないようにする。やっぱり何かあったんじゃない」

「大丈夫だって。彩歌が気にすることじゃない」

「……もしかして、私が原因だったりするの?」

「そんなことないから! 大丈夫だって言ってるだろ?」

「……わかった。じゃあ私、二人が昔みたいな仲になるようにおまじないしとくね」

「別に仲が悪いわけじゃないけど……まぁいいか。ありがとな、心配してくれて。でもホントに大丈夫だから。自分たちで解決できるから」

「じゃあ、陰から支えてあげる。がんばってね! おやすみ~」

 といったところで電話が切れた。

 さて、今日のところはもう寝ようかな。ちょっと疲れた。

「アニキ~。なんの話してたんだ~?」

「兄ちゃんもう疲れたわ~。おやすみ~」

「え~……おやすみ~」

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