Ⅴ
またもや来ました、アイス屋。
「あたしはいつものなー」
「私は……そうね、このチョコミントとストロベリーでお願い」
「じゃ~ぼくは~、バニラと~抹茶で~」
最後に聞こえた注文はスルーした。
「え~ひどいよ~う新太く~ん……」
うるさい。
元々お前には奢る約束はしてないし、四人分も払えるほどお金を持ち合わせていない。
ただでさえお高めの価格なんだから自分で払え。
店員にアイスを注文し、近くのベンチで雑談しながら食べる事にする。
今月、ピンチだな……
「ん~! 冷たくておいし~! やっぱここのアイスはダブルで食べないとね」
「そうだな。昔は彩歌のおじさんがしょっちゅう気前よくここのアイス買ってくれてたっけ」
「あ~、私の父さん、二人の事気に入ってたからね」
「そういえば、三人そろってここのアイス食べるのって、彩歌が引っ越す前日以来だっけか」
「そ~でしたね~。あの時もここのベンチで食べましたね~」
「そうそう、あの時は大変だったよな。彩歌なんか大泣きしだして、ついでにアイス落として僕のアイス食べだすし……泣くか食べるかどっちかにしろよ……」
「なっ! そんなとこ思い出さなくていいじゃない!」
「いででででででギブギブギブギブ! 腕を絞るな! なんも出ないから! いや、むしろなんか出そう!」
この暴力娘……手加減というものを知らないのだろうか。
やっとのことで手を放してもらい、涙目になりながらふと麻衣の方へ目をやると、とてもほほえましそうな表情をしていた。
もちろん、アイスなんてすでに食べ終わっていた。さっきまで麻衣の分を僕が持っていたはずなのに、いつの間にか消えている。
……不思議である。
「……太るぞ?」
「大丈夫だぜ。甘いものは別腹だからな」
いや、別腹どころの騒ぎじゃないと思うが……異空間に繋がっちゃってるレベルだろ、それ。
「いいからいいから。今日は三人で話してろって。久しぶりの再会なんだろ?」
「そうだけどそうじゃない! これからは麻衣ちゃんも混ざって四人メンバーになるんだから。一緒に楽しんでもらわないとダメだからね!」
隣で碧人と喋っていたいた彩歌がこちらの話に割って入ってきた。
いつもの上から目線な感じの雰囲気も、麻衣相手となるとお姉さんのような雰囲気へと変化する仕様のようだ。
彩歌が麻衣に対してこんな風に接してくれて、兄としてありがたい。
これからも仲良くしてもらいたいものである。
「だから、ほら! こっちにおいで~……。ほっぺスリスリしよ~?」
「お前、自分が楽しみたいだけだろ」
前言撤回。こいつはただの変態だった。
それと、手をそうやってワキワキさせるな。人がこっちを見てるだろう。
周りの人からしたら麻衣は、小さいし、顔以外はポケットの中だしであんま見えてないから僕に向かってワキワキさせてるように見えるんだ。
いろいろマズい。彩歌にとっても、僕にとっても。
楽しい時間というものは非情なもので、去ってしまうのが早い。もうすっかり日が暮れようとしていた。
「あ、もうこんな時間ね。そろそろ行かないと。お買い物して夕飯作んなきゃ。」
意外にも家庭的だった。
彩歌の両親は、仕事が忙しく、家にいないことが多いのだそうだ。
もうほとんど一人暮らしみたいな状態。
そのためこうやって学校の帰りに買い物しなければいけないらしい。
「買い物、手伝おうか?」
「別に、新太なんかいなくても一人でできますよ~だ」
「いや、そういう意味でいったんじゃなくてさ、大変そうだなと思ってさ。荷物持ちくらいするぞ?」
「ふ、ふん! 新太のクセに生意気だぞ~!?」
「どこのガキ大将だよ」
「と、とにかく、別に大丈夫だから! 今日はホントにありがとう。久しぶりに楽しかったよ! また明日ね!」
そういって彩歌は笑顔と共にスタスタと歩き去ってしまった。
まったく、素直なのか素直じゃないのかはっきりしてほしいものだ。
昔の僕はよくあんなのと付き合っていられたな。
まぁ、一緒にいて楽しい奴だけどさ。
「それじゃ~ぼくたちも帰りましょ~か~」
「そうだな。じゃあ碧人、また明日な」
「また明日な~」
「は~い、さよ~なら~」
お互い、手を振りながら帰宅する。
早く家に帰らないと母さんが心配してしまう。
まったく、僕も大人の仲間だというのに少々心配しすぎな母親である。
まぁ僕も母さんを心配させたくないから早急に帰るのだが。
「早く帰って晩ご飯だな!」
……さっきアイスを食べたばかりだというのにもう夕飯の事を考えるのかこの満腹少女は。
家に着き、玄関扉を開けると出迎えてくれたのは我が家の猫、サンちゃんだった。
「サンちゃん様~、ただいま帰りました~!」
そういってサンちゃんの背中に飛び移る麻衣。
ちょっと気持ちよさそうである。
僕も飛び乗りたいところだが、サンちゃんがかわいそうなのでやめておこう。
「あら、お帰りなさい。ご飯にする? お風呂にする? それとも……」
「あぁ、風呂入る」
なんで母親と新婚夫婦を演じなきゃならんのだ。
確かに母さんは若い身なりをしているが本当は……
「それはいけない」
「え?」
「それは言わない約束でしょ? 新太クン」
……なんか、笑顔の裏の顔を見てしまった気がする。
声に出したつもりはないのにどうして僕の考えが読まれたのだろうか。読心術か? いつの間に修得したんだ?
とにかく、もう母さんの年齢の話をするのはやめておこう。
マンガだったら背景に「ゴゴゴ」という文字が浮かんでいそうなほど凄みを帯びていた。
これは危険だ。早く風呂入ろ。