表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイうぇい!  作者: 綾式御人
第一章 噂は所詮噂……だよね?
3/25

 午後の授業も消化し、下校時刻となった。

 麻衣はというと、未だにプンプン状態だ。

 そういうことなので先ほどの計画を実行するとしよう。

 僕は町の商店街に足を運ぶ。 

 ここの商店街のアイス屋は地元の人にはかなり高い評価を得ていて、そこそこリッチな値段もする。地味に痛い出費なのだが、麻衣はここのアイスが大層お気に入りなようで、食べればたちまち笑顔が戻り、お兄ちゃん大好きー! と言ってくれるのだ。

「言わねーし」

 おっと、早くも機嫌が少し回復してきている様子だ。

 さっきまでは一言も声を発しなかったのにアイス屋の前に着いた途端喋り始めた。

「う、うっさいなー! あ、あたし、イチゴとチョコのダブルな。上がイチゴ、下がチョコだぜ?」

「はいはい……」

 僕に注文をすると、えへへ笑いながら頬を人差し指でこする麻衣。

 店内の客は殆どが女性で、正直僕がこういうところに来るのは場違いなんだろうし、少し恥ずかしい。そういうときこそ、この場を切り抜ける方法があるのだ。それは、

 彼女に買って来いって言われちゃったなー。しょうがないから買って行くかー。

 というシチュエーションを思い浮かべること。

 これで自分がこの場にいることに納得することができる。まぁ、あくまで気休め程度の効果だけどね。

 みんなも試してみてね!

 そんなこんなで、アイスを二つ、自分のと麻衣のを買って帰路を歩んだ。

「たっだいまー!」「ただいま、母さん」

「はい、おかえり。勉強頑張ってきた?」

「え、あ、あぁ……、うん、まぁね……」

 ……おっさんに追いかけられていたなんて言えない。言えるはずがない。

 麻衣がジト目でこちらを見ているが、ここでそれに反応したら母親に何かあったと悟られそうなので全力で無視した。

「夕ご飯もうちょっとでできるから先にお風呂入っちゃってなさいね。」

 はいはいと軽く返事をして一度自室に戻るため階段を上がる。

 一息入れるためにベッドに腰掛けたところでちょうどケータイの着信音が響く。

「碧人からだ……もしもし、どうした?」

「あ~、新太く~ん?今時間空いてますか~?」

「ん、大丈夫だけど?」

「あのですね~……あ、少し待ってもらえますか~? 今ちょっとアッチ系の人の泣き声が聞こえちゃってるので~」

「いきなり主題を話さず話の腰を折っちゃうのかよ……アッチ系というと、いつものアレか?」

 その……心霊的な……。

「ま~ね~。話聞いてあげなきゃいけないから三分くらいこのままでいてくださ~い。」


 そういうと碧人は真面目な口調で、それでいて優しい声で、人でないものと話をする。

 

 その間僕はというと、碧人の声を聞き流しながら机の上にいる麻衣とにらめっこしていた。いや、麻衣は顔を変えず、ただ呆れた顔をしていただけだったが。

 以前にも言った通り、碧人の目にはこの世のものでは無いものが映ってしまう。

 碧人の場合、それと遭遇するのは電話中が一番多いのだとか。

 僕はしょっちゅう現場に立たされているため、耐性がついてしまったし、元々霊感というものが全然ないから特に怯えたりしないからいいのだが、普段碧人と電話しない奴や、少しでも霊感がある奴が電話すると相手は無意識のうちに碧人と同調してしまって霊の声がはっきりと聞こえてしまうのだとか。

 実際に何度もそういう事例があり、学校でも問題として取り上げられたくらいだったり。

 そんなことを思い出して、窓から外を見上げながら苦笑しているといつの間にか麻衣の姿が見えなくなっていた。

 どうやら、机の上に置いてあるおもちゃの家に帰って行ったようだ。

 このおもちゃの家というのは、麻衣のとって第二の自宅のようなものである。ここが麻衣の拠点ということだ。

 ちなみに、ダイニング、バスルーム、トイレ、テレビ、エアコン、ソーラーパネル、床暖房付。オール電化。

 ついでに耐震性抜群。家ごと持ち運んだとしても家具は一切動きません! 最近地震とか多いし怖いからね。

 っていうかもはやおもちゃじゃないよね、これ。本物の我が家より設備いいし。うち、エアコンもソーラーパネルもないんだよな……。

「お待たせ~」

 話し合いが終わったのか、碧人が口調を変えて僕に会話を移してきた。

「ん、お疲れ様。で、どうした?」

「え~? なにが~?」

「いや、お前が電話してきたんだろ。何の用事なのか聞いてないぞ」

「……」

「……」

「なんでしたっけ~?」

「いや知らんし……」

「あ~……う~ん、忘れちゃいました~」

 これだ。

 碧人は幽霊に遭遇した後はいつも直前のことを忘れちしまうのだ。よほど疲れるそうだから、仕方ないといえばそうなのだが、その度に胸の中がもやもやする。もやもやするといっても恋ではない。

「まぁ、きょ~の内に思い出しとくから~、明日がっこ~で話しま~す。」

「……へいへい」

 と言って僕は電話を切った。

 さて、風呂に入ってしまおう。後味が悪くなってしまったのでさっさと気分転換をして飯食って早よ寝よ。

 と思ったところで、ふと麻衣の家を見るとちょうど麻衣も風呂に入ってるようだ。家から湯気が立ち上がっている。

 ところで今まで疑問に思ってなかったんだけど、麻衣の体格の倍以上はあるあのアイスは一体どうやって体の中に入っていったのだろうか。

 え? 食べるところを見てないのかって?

 いやいやだって、目を離したらいつの間にかなくなってるんだもん。見れないよ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ