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マイうぇい!  作者: 綾式御人
第一章 噂は所詮噂……だよね?
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こっそりと学校内に侵入し自分のクラスに入ると、授業は終わっており、休み時間に入っていた。

 自分の席に座ると、前の席の友人が振り向き、声をかけてくる。

「おはよ~ござ~ま~す、新太く~ん。随分と遅いご到着ですね~」

「いや、まぁ……いろいろあったんだよ」

「変質者にでも追いかけられましたか~?」

 まぁそんなところだ。だいたい合ってるわな。追いかけられていたわけではなさそうだったが。

 彼は少し目線を下げ、僕の胸ポケットに視線を移す。そして、周囲を気にしながら小声で話しかけた。

「麻衣ちゃんもおはよ~」

「おはよっす、碧人あおとくん」

 友人の名は、坂上碧人さかがみあおと。なんともゆっくりとした話し方をするおっとり系男子だ。

 目がかなり細く、それじゃ全然見えないだろといつも思うのだが、本人曰く、よ~く見えるのだそうだ。……この世のものでは無いものまで。

 小学校に入学した時からの付き合いで、毎年同じクラスになっている言わば腐れ縁というやつだ、

 実は、麻衣のことは学園側には話しておらず、事情を知っているのは碧人と、僕の担任だけだ。

 理由は簡単。ただ僕が妹のことで大きく騒がれたくないからで、麻衣もそう思っているからだ。

 ただ、何かあった時のために大人の助けが必要になるだろうと、僕の担任だけには伝えた。僕の気持ちを汲んでくれて他の人には内密にしてくれると約束もしてくれた。

 普段はやる気のない雰囲気を醸し出してはいるが、こういう時は生徒のためを思って気遣ってくれる先生で、結構生徒からの信頼も厚い人だ。

 だが、仕事はテキトーで、授業中に関係ない雑談などに時間を使い、テスト範囲が終わらないということがしょっちゅうあるため、教師たちからの信頼は薄いのだとか。

 こんな状態の妹を学校に連れてきているのも理由がある。

 麻衣は僕と同じ高校二年生だからである。

 同じと言っても双子というわけではないのだが、僕は四月生まれ、麻衣は三月生まれなのだ。

 高校二年生……というか、正確には入学はしていないのだが、本人の希望もありどうしてもということで担任にだけは話してこっそりと授業を受けているのだ。

 それはそうと、例の転校生はどうしたのだろう? 転校生が来るとお決まりであるはずの群集ができていないのだが……

「あ~、てんこ~せ~はうちのクラスじゃなかったですよ~。C組だそうです~」

「――マイガッ!」

 なんということだ! この物語は僕が主人公じゃないのか!

 この世の理不尽さに嘆く新太くんでした。


 さりげなく四校時目の授業を受け終え、そのまま昼休みとなる。

「はぁ……ツイてない……」

「だから昨日も言ったじゃんかよ。アニキに主人公なんて無理なんだって。良くて脇役だぜ。あたしはヒロインだけど」

「ま~ま~、麻衣ちゃん。脇役ってけっこ~重要な役なんですよ~? だから新太君は良くてモブキャラじゃないかな~。脇役はぼくがいいな~」

 良くてモブキャラって……それ以下になったらもはや背景じゃね? お願いだから最低でもモブでありますように。モブもやだけど。

「ったく、変なことに付き合わせてんじゃないぜ。おかげで押しつぶされるわ振り回されるわで大変だったんだから……」

 そういえば、お角様でおっさんとぶつかったとき、ㇺ胸ポケットの中にいた麻衣もぶつかったことになるのか。

 そうなると必ずしもおっさんと愛し合うことになるわけではないかもしれない。

 噂では、ぶつかった二人だから。そう考えれば少し気が楽になるな。

 そんなことよりも、この小さきお姫様の機嫌を取らなければ……

 どうやら今朝の一件がずいぶんとお冠なようだ。さすがに少し良心が痛むので帰りにでもソフトクリームを買って行ってやろう。

 などなど、楽しく雑談をしながらお弁当を食べる僕たちだった。

 本当ならばC組に行き転校生の姿を拝みたかったのだが、これ以上下手な動きをすると麻衣が口も利いてくれなくなりそうなので自粛しよう。

 そういえば以前、一度だけあったっけな。

 僕と麻衣が自宅で『たい焼きは頭から食べるか? 尻尾から食べるか?』という議論を交わし、本気マジ喧嘩になり、それから一週間一言も話さなくなり、気が付くと一人でどこかに行ってしまったということが。

 それから我が家は大騒ぎ。

 足元に注意しながら麻衣を家じゅう探し回り、慌てふためいていた。

 警察にも言えないため、捜索届も出せないから家族だけで探さなければならなかったのでかなり骨が折れた。

 探し回って一時間後、窓の外で、いつの間にか外へ飛び出していた飼い猫のサンちゃんが窓ガラスをカリカリと引っ掻いていた。窓を開けて招き入れると、その背中には大泣きした麻衣の姿があったのだ。

 その後、麻衣から聞いた話によると、家を出たその日僕に対する怒りがピークに達してついに家出を決行。

 家を出た瞬間突風が吹き、一キロ程先の公園まで飛ばされる。着地が悪かったのか、足を挫いてしまい動けない状態のままでいると空が次第に暗くなり、ついに真っ暗になってしまい不安でいたところにサンちゃんが現れて家まで連れて行ってくれたのだそうだ。

 あのサンちゃんの活躍がなければ今頃麻衣はどうなっていたのかわからない。今ではサンちゃんは我が家の国宝状態なのだ。


 ところで、たい焼きは尻尾から食べるよね? いや、頭から食べるってありえなくない?

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