第一話 その5 「信念」
俺とアリサがセレス邸に帰ったのは、日ももう傾き始めた頃だった。アリサを案内しているうちにいつの間にかに色々なところに俺のほうが付き合わされていた。
真っ赤に輝く太陽を背に体の片隅に疲労感を押しやるとセレスの家の門をくぐった。
「あら? 随分楽しめたようね」
玉座で足を組みながら座る小さな少女。もちろんフェンリアは既に帰ったらしく。部屋にはセレスと執事の爺さんしかいなかった。
「ああ。でも収穫はあった」
俺は、昼のできごとを初めからセレスに話した。強盗を捕まえたこと。そして、アリサが異界のモノである銃の使い方を知っていたこと。
「そのジュウというモノの使い方を知っているの人間は、そうそういないのよね?」
俺の話を興味深そうに聞いていたセレスが口を開いた。セレスも長く生きているが、異界のモノに関しては通常の人間より少し詳しいぐらいらしい。
「ああ。存在自体を知っているのは異界屋の人間か。あるいはその異界屋専門の道具屋。一部の研究家ぐらいじゃないか? 最も、構造を知っていたもうまく扱える人間はもっと少ない。扱い慣れているやつか、相当運がいいやつぐらいだろうな」
「アリサはそのジュウというやつに見覚えはあるのか?」
「見覚えもあるし使い方も知っているんです。でも、この知識をどこで知ったのか。なんで自分が銃を使えるのかは……」
「無理に思い出すことはないわ。これも、何かの縁なのかも知れないわね……」
まるで遠くを見るように目を細めたセレスは、ゆっくりと窓の外に広がる街の夜景へと目を向けた。
「異界のモノに触れれば、また何か思い出すかも知れないわね」
「どういうことだ?」
「オーレリアル・アーツに触れられる機会なんて異界屋以外に無いということよ。ましてや、その異界の道具を使い慣れているというならならアリサは異界屋だった可能性が高いってことうよ」
セレスの言うことは最もなことだった。セーシャル諸島には幾人の異界屋がいる。一つの都市に2、3人いることも珍しくない。
「セレス。俺以外にアクアレムリアで異界屋がいたのか?」
小さい頃から異界屋という仕事に接してきた俺だがここ周辺で同業者にあったことなどない。そして、異界屋という稼業は誰でもなることができる職ではない。
正規の異界屋は領主から授かる仕事で、その選定は厳しく、故に異界屋になれるものなどほとんどいないと言われるほどだ。
「アクアレムリアで異界屋はユーリ。あなただけよ。私が認めた異界屋はこの街にあなた以外にいない」
「じゃあ、闇ギルド……」
「滅多なことはいうものじゃないわ。可愛い女の子の前じゃ尚更よ」
聞きなれない単語とはいえ、いい意味ではないという事を察したのかアリサの顔色に曇が出ていた。
「……すまん」
「何はともあれ、アリサの記憶の断片探しで異界の道具は、大いに道しるべになってくれるかも知れないわ。アリサ。あなたに異界屋になってみない?」
「なっ!?」
とんでもないことをセレスは告げた。異界屋になってみないかだと!? 異界屋はそう簡単になれる職業ではないのはセレスとてよく知っている。しかも、そんな危なっかしくてよく分からん職にアリサがなるわけが――。
「やります! 自分が何者なのか知るためならなんだってやりますッ!!」
アリサの目は、はっきりとセレスを見ていた。あの目は決意が決まっている人間の目だ。決して折れることのない本気の目。
蒼い瞳の奥にその確固たる信念が確かにあった。
「では、異界屋試験を行いましょう。試験官はユーリ。あなたがやりなさい」
「俺が?」
「そうよ。試験の監督とアリサの最低限の補佐。もしも、試験続行が不可能な状況に陥るようであれば、ユーリ。あなたがきっちりと補佐してあげること。もちろんその場合は試験失格とする。依存はないわね。アリサ?」
「もちろんです」
少しの間の後にはっきりとアリサは答えた。自らの手を握り締めて
「試験内容を発表する。試験内容は――」




