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第一話 その4 「蒼の弾丸」

「ご協力。感謝致します。まさかここで連続強盗犯を捕まえられるとは助かりました」

 男の手に包帯を巻き、ロープでその両手を縛ると衛兵の一人が立ち上がり感謝してきた。

 やはりあの男、何件か強盗や強盗未遂の犯罪を犯していたらしい。

「いえ、たまたま居合わせただけですから。それに捕まえたのは、そこの女の子の方ですよ」

「そうでしたか! いやぁ。お美しい上にお強いお方なのですね。度重ね申し上げますが、この度は本当にありがとうございました」

「いえいえ! そんな。私は大したことなんて」

 深々と礼をする衛兵にアリサは戸惑いながらも照れくさそうに両手を振っていた。

「では、こいつを牢にブチ込む仕事がまだ残っていますゆえ、失礼いたします」

 衛兵3人に連れられて男は連行されていく。何はともあれ、今回一般の人間にけが人が出なかったのは幸いだった。

「助かった。サンキュなアリサ」

「えっ!?」

 俺に礼を言われたのがよほど意外だったのか衛兵の時以上にアリサは驚いてた

「そのジュウ。お前にやる」

「そんな。これアンタのじゃ……」

「俺は、あそこまで上手く扱えないからな。最も、隠し持っているのは、それだけじゃないし」

 オーレリアル・アーツには、俺たちの世界で使う武器や道具。ひいてはマジックアイテムよりも便利なものがある。

 使い方を理解するのが難しいモノや、使用するのに条件付きのモノもあるので、積極的には使ってはいないが。

「他にも銃があるの?」

「似たものはあるな。全部が全部同じ機構ではないみたいだが……」

「弾はどうやって手に入れてるのよ。無限に湧いてくるものじゃないでしょ?」

 アリサが手渡したジュウというその武器は、小さな金属の塊を火薬の力で飛ばして攻撃しているため、使いきりの武器である。

「タマは行きつけの道具屋に作ってもらってる。後は、特定の遺跡に行くとごくまれに落ちてることもある」

「遺跡に落ちてる?」

「ああ。異界の遺跡には不思議な力があるらしくてな。その遺跡に関係のある世界のオーレリアル・アーツが落ちている。潜る度に何かあるわけじゃないが。突然ある日、今までなかったオーレリアル・アーツが落ちている。なんてことがあるんだよ」

 故に、その異界の道具や兵器などの管理や調査のために、幾度と同じ遺跡に潜ることになる。

 更に面倒なことに、遺跡の内部構造自体が変化することも稀にある。アリサが遺跡の奥から現れたように、新たな道が切り開かれるような場合もあれば、全く別物の部屋や通路が現れたり、変化したりすることもある。

「セレスさんから聞いたんだけどさ」

「ん?」

「ユーリは、その異界屋の仕事。小さい頃からやってるんだって?」

「ああ。そうだな。この仕事に就いたのは俺が9の頃からだから、今年で7年になるな」

 7年。実際一人でこの仕事をこなせるようになったのは3年前から。俺はもっとあの人から沢山のことを学んで一人前になるはずだった。

 だが、俺は強制的に独り立ちさせられたのだ。3年前の、あの日から……

「その、怖くないの? 街の外にはモンスターも沢山いるって聞いたんだけど」

「確かに怖いって思うことは結構あるな。でも、仕事しだいじゃ、結構な額の金も貰えるしな。それに、不思議と昔は怖いと思っていたことに、段々慣れ初めてきてる」

「そうなんだ……」

 彼女に取って、俺の仕事は身近にも感じられないだろう。いや、記憶を失っている彼女にとっては、この世界そのものが異端で異常なモノに感じられるのかもしれない。

 記憶はある意味、自らの心の拠り所の1つと言っても過言ではないだろう。良いことも、悪いことも、自ら歩んできた人生の軌跡なのだ。

 自分が自分であることが証明できるたった一つの存在。他人は信じなくても、自分自身は間違いなく信じられるもの。

 記憶が無いというのは、相当きついものだろう。不効か幸いか、そういう経験をしたことはない。

 なので、真の意味で彼女のことを理解してあげられないし、手助けできる有効な手段も持っていない。だが、ある程度はイメージできる。

前も後ろも分からず、自分が何者かも分からない恐怖。それは、他人から受けるどんな仕打ちよりも自らの心を蝕んでいく耐え難い苦痛。

もがけばもがくほど、奈落の底へと落ちていく底なし沼のようなもの。

 それを計らってセレスが市場なんかにアリサを連れて行かせたのではないだろうか。俺は、今になってセレスの計らいが分かった気がした。

「仕事の報酬。払わないといけないな」

「報酬?」

「ああ。仕事をこなしたんだ。報酬を貰う権利がある」

 俺はアリサの手を握り、市場の方へと向かって歩いていく。少々強引かもしれないが、俺の性分的にこっちのほうがあっていた。

「ちょ、ちょっと! どこ行くのよッ!?」

 市場の端に店を構えていたアクセサリー店の前で立ち止まる。以前、フェンリアが俺に進めてきた露天商で、その場でアクセサリーを作っている店らしい。

「フェンリアのオススメの店だ。何かいいものがあると思うぞ」

「フェンリアさんの?」

 へぇっといった感じにアリサは店に置かれているモノを見回す。小さな店だが、様々なアクセサリーの材料がところ狭しと並べられている。

「フェンリア様のお知り合いですかな?」

「あ、はい。まぁそんな感じです」

 俺の答えに店の主人は感慨深そうに目を閉じながら頷いた。

「ウチはオリジナルのアクセサリーを作っております。ここに置かれていないものでもアクセサリーを作れます。何かアクセサリーにしたいものなんかございますかな?」

「え? えーっと……」

 アリサはスカートのポケットに手を突っ込むと何かをゴソゴソと取り出した。

「これでお願いしたいんですが」

 アリサの右手に握られていたのは、先ほどアリサに手渡した拳銃の弾だった。もっとも、さっきアリサが撃った後の弾で、本来ならあるはずの先端がなくなっていた。

「これを、こんな感じにして欲しいんですけど。大丈夫ですか?」

 アリサはまだ撃っていない方の弾の先を店主に見せながらそういった。

「先端を付ければいいのですかな?」

「はい」

「お安い御用です。少々お待ちくださいね。先端はこれでも良いですかな?」

 店主が店の奥から取り出してきた箱に入っていたのは、青く澄んだ小さなクリスタルだった。

「え?」

「お嬢さんにぴったりだと思うのですが、余計なお世話でしたかな?」

 アリサの瞳のような青く澄んだクリスタル。

「いいんじゃないか?」

「え? でも高いんじゃ……」

 確かにアリサの言う通り値段のことを聞いていなかったな。でも、ここまできて値段のこときにしていては無粋だしなと俺が思った時だった。

「お代はお気になさらずともいいですよ。フェンリア様のおかげで私も随分繁盛させていただきましたので」

 ニコニコと微笑みながら店主はそう答えた。ここは店主の好意に甘えさせてもらおう。しかし、フェンリアさまさまだな。

 この街ではセレスに続いて絶大な人気を誇る妖魔なだけはある。

店主がアリサから預かった発砲後の弾にクリスタルを削って弾にはめ込む。

「へぇ。うまいものだな」

 マジックアイテムなのだろうか? 小さな工作機械を自由自在に使って、あっと言う間に本物の弾のように作り直されたクリスタルの弾丸に銀色のチェーンが通されてネックレスになった。

「あ、ありがとうございます」

「いや。私としても良い仕事をさせていただきました」

 アリサの首に通されて、その胸元で光る蒼い弾丸のネックレスを見て店主は満足そうに頷いた。

「よかったな」

「うんッ!」

 蒼い弾丸を手のひらにおいて眺めながらアリサは満面の笑みで俺と店主に微笑みかけた。

「ッ!」

「ほう」

 笑顔が似合いそうだと思っていたが、ぱあっと咲いたその一輪の可憐な花に俺は一瞬目をそらしてしまった。

 店主もアリサの笑顔に少し驚いたようなようだ。

 顔が妙に熱く感じる。きっと今の俺の顔は赤く染まっているに違いない。

「ユーリ? どうしたの?」

「い、いや。なんでもない」

 アリサに背を向けて自らの心を落ち着かせる。今まで見てきたどんな女性よりも眩しい笑顔。不意だったとは言え、まさかあんなに可愛いとは。

 いや、俺は何を考えてるんだ?

「へんな奴」

俺の後ろでアリサのその言葉が聞こえてきた。どうやら俺の現状には気づいていないらしい。

「め、飯がまだだったな。飯、飯食いに行くぞッ!」

 未だに紅いであろう俺の顔を彼女に見られたくなかったので、俺はアリサに背を向けたまま歩き出す。

「ちょ! ちょっと待ちなさいよ! あ、おじさんありがとうございました!」

「なになに。お気になさらず。お似合いですよ。お二人とも」

「お二人とも?」

「早くしないと行くぞ」

 何か察したのか、店主が間違いなく勘違いを起こしているに違いない。俺は、さっきまでアリサの顔を避けてそっぽを向いていたが、今回ばかりは振り向いてアリサに呼びかける。

「だ、だから。待ちなさいよッ!」

 ぷうっといった感じに頬を膨らませるアリサに、ニコニコと笑みを浮かべる店主。

 絶対あの店主間違った認識をしているな。 そう思ったが俺は変に墓穴を掘りたくなかったので構わず歩き始める。

 一刻も早くこの場を離れたかったのだ。

「もう。なんなんのよ!」

 何も気づいていないアリサは、店主に一礼すると俺の方へと駆けてくる。全く、女の子と言う生き物は卑怯だ。

 この日、俺はそう思った。

 アリサのあの屈託のない笑顔をまた見たいなんて心のどこかで思いながら、足早に市場を離れていくのだった。


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