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前世で埋めた宝を、現世の人に掘らせます。

作者: ねこてぃー
掲載日:2026/08/07

新しい作品です!ぜひ読んでみてください!

もし好評でしたら連載版も投稿しようかと思います!


「……はぁ、また、あの果てしない大海原の夢を見ちゃった。」


重い瞼をゆっくりと押し開けると、視界に飛び込んできたのは、見慣れすぎて何の新鮮味もない自分の部屋の白い天井だった。


カーテンの小さな隙間から眩しい朝の光が筋となって差し込む中、枕元に置いたスマートフォンが騒々しいアラーム音を部屋中に響かせ続けている。


「もう朝か……ふぅ……。」と、私は小さく深呼吸をしながら溜め息を漏らした。


どこにでもある制服に身を包み、日々テストや友だち関係に頭を悩ませている、どこにでもいるただの高校二年生だ。


表面上はごく普通の青春を送るどこにでもいる女子高生――誰もがそう信じて疑わないはずだった。


けれど、私の存在には、他のみんなとは決定的に異なる、あまりにも現実離れした一つだけの秘密があった。


それは、自分が生まれるより遥か昔に生きていた「前世」の記憶を、まるで昨日のことのように鮮明に覚えているということだ。




そして、そのあまりにも濃密で壮大な前世の正体は――


かつて全人類を震撼させ、世界のすべての海を支配した伝説の「海賊王」だったのだ。


フィクションの漫画や架空のテレビゲームの世界の話なんかじゃない。


荒れ狂う七つの海を我が物顔で統べ、数千隻にも及ぶ圧倒的な大艦隊を率いて、世界中から集めた数え切れないほどの財宝を掌中に収めた、まさに本物の伝説の覇者だったのだ。


眩しい輝きを放つ無数の古金貨。


吸い込まれそうなほど美しく光り輝く巨大な宝石たち。


滅び去った古代王国の王たちが頭に戴いていた重厚な王冠。


歴史の闇に葬り去られた、幻の古代文明が遺した言葉に尽くせぬ秘宝。


神聖な神殿の奥深くに奉納されていたという神秘的な神器。


かつて世界を統べた高度な魔法文明が生み出したとされる未知なる遺物。


私は前世の晩年、それらの莫大な価値を持つお宝をライバルや敵国に奪われることがないよう、世界中に点在する誰も訪れない無人島や暗闇の洞窟、冷たい海底、果てしない砂漠、そして人里離れた険しい山奥の底深くに隠し埋めて回ったのだった。


そして、時代の流れとともにそれらの存在が忘れ去られた今となっても――


私はそれらの財宝が眠っている正確な場所を、何一つ忘れることなく全て完璧に記憶しているのだ。


「あんなに広大な世界に隠したお宝が、今も誰にも見つけられずに全部そのまま残ってるなんてね……。」


脳裏に浮かぶそれらの光景について、最初は単なる脳の悪戯か、現実味を帯びすぎた妄想の夢に過ぎないと思い込もうとしていた。


けれど、どうしても胸の騒ぎを抑えきれなくなった私は、確かめるべく試しに一か所だけ記憶を頼りに足を運んでみることにしたのだ。


向かったのは、現代の一般的な地図には名前すら載っていないような、太平洋にぽつんと浮かぶ小さな無人島だった。


切り立った険しい崖の裏側に回り込む。


ゴツゴツとした巨大な岩塩の岩を三つ乗り越えた先にある、潮の香りが強く残るその場所。


スコップを握りしめ、冷や汗をかきながら地面を正確に深さ二メートルほど掘り進めていくと――


固い岩盤の隙間から、何百年もの時を経た重厚な装飾が施された木製の宝箱が、カチンと音を立てて本当に姿を現したのだ。


震える手で錆びついた鍵を壊して蓋を開けると、そこには眩い光を放つ金貨が隙間なくぎっしりと詰まっていた。


目の前の光景が紛れもない現実であると理解した瞬間、全身の鳥肌が立ち、身体がガクガクと震えた。


「嘘でしょう……あの遠い記憶も、この手の中にある金貨も、全部本物だったんだ……。」


しかし、歓喜に浸ったのも束の間、次の瞬間にあまりにも大きすぎる問題にぶち当たって頭を抱えることになった。


私が前世で隠した宝の場所は、世界中に一万箇所どころの騒ぎではないのだ。


十万箇所、いや、それすら遥かに凌駕するほどの途方もない数の宝を地球上のあちこちに埋め尽くしているのだから。


授業や部活動に追われる一人の女子高生である私にとって、その膨大な全ての場所を自分の足だけで巡り歩くことなんて到底不可能な話だった。


ベッドに横たわり、天井を見つめながら必死に知恵を絞っていた私は、ふと一つの斬新な解決策を思いついた。


「自分一人で掘れないなら、宝探しの楽しさを世界中のみんなにお裾分けして、代わりに掘り起こしてもらえばいいんじゃない?」


プログラミングを一から猛勉強し、睡眠時間を削って開発に没頭すること数か月後。


私は、自分の全情熱と前世の記憶を注ぎ込んだ前代未聞のスマートフォンアプリをついに完成させたのだった。


画面上で怪しく輝く、そのアプリの名前は――


リアル宝探しプラットフォーム――『Treasure Link』。


画面を開くと、正確な地球上の緯度経度を示す宝の座標、周辺の風景画像、正確に掘るべき地面の深さ、そして危険区域を避けるための安全に関する注意事項が克明に表示されるようになっている。


このアプリを使って実際にお宝を掘り当てた幸運な発見者には、二つの魅力的な選択肢が用意されている。


まず一つ目の選択肢。


私がアプリ内で直接管理・運営する公式オークションサイトへとそのまま出品してもらうルートだ。


世界中のコレクターに高値で競り落とされた場合、システム手数料や税金などを差し引いた純利益のなんと半分である五十%が、発見者の口座に直接支払われる。


そして二つ目の選択肢。


発見した宝を誰にも渡さず、自分自身のコレクションとして手元に所有するルートだ。


その場合でも、アプリ上で自動算出される適正な鑑定価格の五十%を運営へ支払うことで、現代の法的にも認められた正式な所有権を獲得できる仕組みだ。


まるで最新のオープンワールドRPGのイベントのような遊び心あふれる仕組み。


だけど画面の向こうに眠っているのは、ゲームのデータなどではなく、本物の歴史と価値を秘めた圧倒的な財宝なのだ。


私はスマートフォンの画面をじっと見つめ、少しだけ震える指で『アプリ一般公開』のボタンを力強くタップした。


「さてと……退屈なこの世界を、私の宝で思いっきり驚かせてあげようじゃない。」


こうして、一人の女子高生の手によって、人類の歴史上かつてない規模となる地球規模の大宝探し時代の幕が、今静かに切って落とされたのだった。


ついに迎えた、すべてが始まる運命のアプリ公開日。


時計の針が午後八時ちょうどを指し示したその時、私はリビングの柔らかいソファの上にだらしなく寝転がりながら、画面のバックライトが眩しく光るスマートフォンを両手でしっかりと握りしめていた。


画面に大きく表示されているのは、私が前世の記憶と全情熱を注ぎ込んで作り上げた『Treasure Link』の管理画面だった。


画面の中央で静かに主張している、青く輝く『公開』と書かれた運命のボタン。


「ふふっ……じゃあ、退屈な世界をひっくり返す壮大な実験を、そろそろ始めましょうか。」


私は胸の高鳴りを抑えながら、一切の迷いもなくそのボタンを力強く押し込んだ。


《アプリの一般公開処理が正常に完了しました。》


ボタンを押した次の瞬間、無機質な機械音が画面越しに完了の通知を告げた。


そのたった一瞬の出来事をきっかけにして、世界中のあらゆる国や地域のアプリストアで一斉に『Treasure Link』の配信が開始されたのだ。


そして同時に、記念すべき最初のお宝の記憶が世界に向けて開放された。


──────────────────


Treasure No.000001


【公開国・地域】

アメリカ合衆国・カリフォルニア州沿岸部


【予想価値】

約18万4,000ドル(日本円にしておよそ二千数千万円相当)


【封印された内容物】

17世紀大航海時代に鋳造された、非常に保存状態の良いスペイン王国の真正な古金貨および古銀貨群


【発掘難易度】

★(特別な道具を必要とせず、誰でも安全に到達可能な場所)


【ヒント】

潮風が心地よく吹き抜ける、太平洋を一望できる海沿いの緩やかな丘の上。

周囲の風景の中でただ一際大きく聳え立っている、樹齢数百年の巨大な一本の樫の木。

その力強い大木の幹からまっすぐ北の方角へ向かって、大人の足取りで正確に十三歩進んだ地点。

足元に転がっている、苔むした大きな平たい岩のちょうど左側。

地面を真っ直ぐ下に向かって、およそ一・二メートルほど深く掘り進めた土の中。


【探索制限時間】

幸運な最初の発見者によって実際に掘り出されるまで無期限。


──────────────────


アプリの一般公開を開始してから、まだほんの十分しか経っていない初期の段階。


管理画面に刻まれた累計ダウンロード数のカウンターは、わずか――143件という控えめな数字を示しているだけだった。


しかし、公開から一時間が経過した頃には、その数値は勢いを増して二万件へと急速に膨れ上がっていった。


さらに三時間が過ぎる頃には、サーバーの負荷とともにカウンターの数字は一気に十八万件という大台を突破していた。


「あら……私が思っていたよりもずっと早いスピードで広がっているみたいね。」


私は画面の数字を確認すると、満足げな息を漏らしながらスマートフォンをそっと脇のテーブルの上に置いた。


けれど、これだけ多くの人々にダウンロードされているにもかかわらず、現時点ではまだ世界中の誰もこのアプリが提示している情報の真実性を信じてはいなかった。


『どうせまたSNSのバズ狙いで作られた、中身のスカスカな嘘企画に決まってるだろ。』


『ユーザーの個人情報を集めたり、鬱陶しい動画広告を見せつけたりするためだけの典型的な釣りのクソアプリだな。』


『数年おきに定期的にネットで流行っては消えていく、よくある宝探し詐欺の新しいパターンじゃないの?』


アプリのレビュー欄やSNSのタイムラインを開けば、そこには新手の詐欺や悪質なジョークだと決めつける懐疑的で冷ややかなコメントばかりがズラリと並んでいた。


スマートフォンの画面越しにそれらの辛辣な書き込みを目にした私は、怒るどころか思わずくすりと口元を緩めて笑ってしまった。


「まあ、前触れもなく急にこんな夢みたいな話が飛び出してきたら、最初は誰だって眉に唾をつけて疑ってかかるのが当然よね。」


でも、私にははっきりと分かっていた。


あとほんの少しの時間の問題で、人類がこれまで当然のように信じ込んできた退屈な常識のすべてが、根底から鮮やかに覆されることになるということを。


広大な地球のどこかで、偶然ヒントの場所を訪れたたった一人の勇敢なチャレンジャーが、土の中から本物の17世紀の金貨を実際に掘り当てたその瞬間に。


そしてまさにその歴史的な一日を界にして、『Treasure Link』という一冊のアプリは、地球上の全人類を巻き込む人類史上最大のリアル宝探しイベントへとその姿を変えていくことになるのだ。


それは、誰もが幼い頃に一度は胸を躍らせて夢見た「本物の宝探し」というおとぎ話が、残酷なまでにリアルな現実として目の前に突きつけられる運命の瞬間だった。


太陽が傾き始めたアメリカ合衆国・カリフォルニア州の太平洋沿岸部。


長閑な風が吹き抜ける午後三時四十二分。


「おいおい、またネット上で妙に胡散臭くて面白そうなアプリが話題になってるじゃないか。」


イーサン・ウォーカーは、運転席の脇でスマートフォンの画面をスクロールしながら、どこか面白がるような笑みを浮かべた。


彼は今年で三十二歳。


かつて軍隊で鍛え上げた強靭な肉体と冷静な判断力を武器に、現在は世界中のあらゆる秘境や都市伝説を調査する「宝探し専門のプロ動画配信者」として、世界的動画プラットフォームで圧倒的な人気を誇っている男だ。


彼のチャンネル登録者数は優に三百万人を超えており、その鋭い洞察力とエンターテインメント性で常にネット界の注目を集めていた。


この日のSNSのタイムラインは、朝から彗星のごとく現れた謎多きアプリ『Treasure Link』の噂でもっぱら持ちきりだったのだ。


「どうせ視聴者の目を引くためだけの完成度の低い偽物企画だろうが、不評を検証してバッサリ斬るだけでも絶好の動画のネタにはなるはずだ。」


彼は手際よく現場スタッフの二人と合流すると、大型の撮影機材や高精度な金属探知機、プロ仕様のスコップ類を大型SUVの広いトランクへ手際よく積み込み、アプリの座標が示す目的地に向かってエンジンを吹かせた。


カリフォルニアの抜けるような青空の下を走り続けること、およそ四十分後。


車は潮風が優しく頬を撫でる、目の前に太平洋の大海原が広がる美しい海沿いの丘へと到着した。


車を降りて小高い丘を見上げた三人の視界に真っ先に飛び込んできたのは、まさにアプリの詳細画面に書かれていた通りの、ただ一際大きく佇む圧倒的な存在感を持った一本の樫の大木だった。


「おいおいマジかよ……ヒントにあった特徴的な景色が、本当にそのまま存在しているぞ……。」


イーサンは少しだけ半信半疑だった表情を引き締めると、スマートフォンの画面に表示されたヒントの文章を一つひとつ念を押すように確認していった。


『大きな樫の木の幹から、北の方角へ正確に十三歩。』


『足元に転がる大きな平たい岩の、ちょうど左側。』


『地面を真っ直ぐ下へ、深さ約一・二メートル。』


「よし、とりあえず言われた通りにこの場所を掘ってみるとするか。」


彼の合図とともにカメラレンズのカバーが外され、赤い録画マークが点滅し始めて撮影がスタートした。


イーサンは足元にスコップの先端を力強く突き立て、勢いよく土を掘り返し始める。


作業を開始してから、十分。


額から滴る汗を拭いながら掘り進めて、二十分。


掘り起こされた土の山が高くなり、黙々と作業を続けて三十路が過ぎた頃。


「はぁ……はぁ……、やっぱり都市伝説の域を出ないただの悪ふざけか――」


疲労感を滲ませたイーサンが諦めかけたその時、地面の底深くからガツンッ!と硬い金属質の固形物に激しくぶつかる重厚な音が周囲に響き渡った。


「全員、手をとめろ!」


イーサンは大声でスタッフを制すと、スコップを置いてその場にひざまずき、素手で慎重に湿った土を払いのけていった。


やがて深く掘られた穴の底からゆっくりと姿を現したのは、精巧な鉄製の金具によってしっかりと補強された、重厚感溢れる古めかしい木箱だった。


「……嘘だろ、まじで何か埋まってやがる……。」


息をのむスタッフが見守る中、イーサンは微かに震える両手を木箱の冷たい蓋へと静かに掛けた。


「よし、今から開けるぞ……。」


ギィ……


何百年もの間、冷たい土の中で静かに眠り続けていたとは思えないほど、木箱の重い蓋は滑らかな手応えとともにゆっくりと開かれていった。


すると次の瞬間、西日に照らされた箱の内部から、目を眩ませるほどの黄金の眩い輝きが溢れ出してきたのだ。


その場にいた全員が息を呑み、言葉を完全に失ってただ立ち尽くすしかなかった。


木箱の中に隙間なくぎっしりと敷き詰められた、無数の古金貨。


重厚な光沢を放つ大量の古銀貨。


そして、太陽の光を反射して色鮮やかな虹色の光を放つ宝石たち。


ハリウッド映画の撮影で使われるような安価な小道具などでは絶対に再現できるはずもない、何百年という途方もない歴史を生き抜いてきた本物だけが纏う、圧巻で圧倒的な存在感がそこには存在していた。


「これ……本当に本物の埋蔵金なのか……?」


イーサンはまるで夢でも見ているかのように、震える指先で木箱の中から一枚の重厚な金貨をそっと持ち上げた。


その歴史的瞬間と同時に、ポケットの中で彼のスマートフォンが激しい振動とともにメッセージを告げた。


《GPS情報および内蔵センサーにより、Treasure No.000001の発見をリアルタイムで検知しました。》


「……え、アプリが自動で反応した……?」


イーサンが驚きつつ画面に目を落とすと、そこには次々と鮮やかなシステム通知が表示されていった。


《これより発見者認証シークエンスを開始します。》


《発見した宝箱全体の完璧な状態と、その内容物が明確に確認できる写真を撮影してください。》


《現時点での高精度な位置情報を運営サーバーへ送信してください。》


イーサンは画面に指示されるがまま、困惑しながらも宝箱の鮮明な写真を撮影し、確定した位置情報をシステムへ送信した。


送信からわずか数秒の処理時間を挟み――


《発見者認証が正常に完了しました。》


《おめでとうございます! あなたこそが歴史的なTreasure No.000001の記念すべき『正式な第一発見者』です。》


《これより、発掘された財宝に関する権利の選択を行ってください。》


【公式オークションへ出品し、落札額の50%の報酬を受け取る】

【予想価格の50%を運営に支払い、すべての所有権を獲得する】

【全ての権利を自ら放棄する】


スマートフォンの画面に浮かび上がる選択肢を見つめながら、イーサンは呆れたような、しかし最高の興奮を抑えきれない笑みを浮かべた。


「……ハハッ、とんでもないぞ……何もかも冗談なんかじゃなかったんだ。」


その地球の歴史が塗り替わった衝撃的な一瞬のすべてを、回され続けていたカメラのレンズは漏らすことなく鮮明に記録していた。


そして、編集されたこのたった一本の衝撃的な検証動画がインターネット上に一般公開されたその日。


世界中の全人類が、新たな時代の幕開けを告げる『Treasure Link』という伝説のアプリの名を、永遠に脳裏に焼き付けることになるのだった。


イーサンが海岸線で深さ1メートルを超える土を掘り起こし、古めかしい宝箱を実際に発見してから、わずか数時間後のことだった。


ひとつの検証動画が、全世界の主要なプラットフォーム上で一斉に公開された。


【動画タイトル】

『今ネットで話題沸騰中の宝探しアプリを実際に試してみた結果……本当に数百年前の本物の宝を発見してしまいました』


【投稿者アカウント】

イーサン・ウォーカー(世界中に数百万人のフォロワーを抱える、トップクラスの冒険系動画配信者)


動画が公開された直後の段階では、タイムラインに流れてきたサムネイルを目にした画面の前の多くの人々は、どこか鼻で笑いながら画面をタップしていたのだった。


「どうせまた視聴者の目を引くためだけに作られた、よくあるネットのヤラセ企画だろう」


「事前にスタッフが仕込んでおいた小道具を白々しく掘り起こすだけの、安易な動画に決まってる」


「そもそも、今の時代に現実の宝探しアプリなんてものを本気で信じる奴なんて存在するのか?」


最初の数分間は、誰も彼もが冷ややかな視線を注ぎ、誰一人としてこの展開を本気にしていなかった。


しかし。


動画の再生時間が進むにつれて、リアルタイムで書き込まれるコメント欄の空気感が徐々に、そして決定的に異様な熱を帯びて変わり始めていく。


画面の中で、イーサンはGPSが示すスマートフォンのアプリの指示に忠実に従いながら、潮風が吹き抜ける未知の場所を探し求めていた。


視界の先で力強く枝葉を広げる、巨大な一本の樫の木。


足元を確かめながら一歩ずつ踏みしめる、正確な十三歩の距離。


苔むした静けさの中に佇む、大きな平たい岩。


そして――湿った地面の中から鈍い音とともに現れる、何世紀もの時を経た重厚な木枠の宝箱。


「……え? まさか、マジで何か埋まってたのか……?」


画面を見つめていた数百万の視聴者たちは、予想だにしなかった光景を前にして完全に言葉を失ってしまった。


そして、カメラが極限まで寄る中で、固く閉ざされていた宝箱の蓋がゆっくりと開かれる。


箱の奥底から眩いばかりに溢れ出す、途方もない量の古金貨。


重厚な光沢を放ちながら敷き詰められた、無数の古銀貨。


そして、色鮮やかな輝きを放ちながら転がる、希少な装飾品の数々。


その衝撃的な瞬間、動画のコメント欄は世界中からの書き込みの嵐によって爆発的な勢いで埋め尽くされていったのだった。


『待ってくれ、これ映画の小道具とかじゃなくて完全に本物のアンティークじゃないか!?』


『画面越しでも重厚感が伝わってくるし、到底安易な作り物には見えないぞ……』


『カメラが寄った時のイーサンの強張った表情と、言葉を失ったリアクションがガチすぎる』


『頼むから誰か今すぐ歴史学や古銭の専門家を現場に呼んで鑑定してくれ!』


衝撃と混乱を伴ったその動画は、SNSの拡散波に乗って瞬く間に世界中へと広がっていった。


公開から、わずか一時間。


再生回数のカウンターは、瞬く間に十万再生を突破した。


三時間が経過した頃には、その数値は勢いを増して百万再生の領域へ到達。


そして半日が経過する頃には、世界中の大手ニュースサイトや主要なメディアが一斉にトップニュースとして取り上げ始める事態へと発展したのだ。


しかし、これほどの世界的な大騒動に発展したにもかかわらず、『Treasure Link』の運営事務局側は極めて素っ気ないたった一つの公式発表のみを行ったのだった。


《Treasure No.000001の第一発見者による現地での発掘確認を正式に検知しました》


《なお、発見された財宝の詳細な所有権の帰属や市場価値について、『Treasure Link』運営側が何らかの保証や査定を行うものではありません》


《該当財宝の学術的・金銭的価値の確認を強く希望される場合は、公的な専門機関への個別の調査依頼、あるいはアプリ内の公式オークション機能への出品をご検討ください》


画面に表示されたのは、拍子抜けするほど淡々とした事務的な通知テキストだけだった。


それを見た人々は、運営側のあまりにもあっさりとした対応に対して大きな驚きを隠せなかった。


「えっ!? 運営側が直接宝の鑑定をして価値を決めてくれないのか?」


「宝の場所を教えておきながら、運営自身がその公式な価値を保証しないなんてどういうことだ?」


しかし、この突き放したかのような一見冷淡なシステムにこそ、深い理由が隠されていたのだ。


『Treasure Link』というアプリが果たすべき唯一の役割とは――


世界中の人々に、自分の手で本物の宝を見つけ出すための『機会』と『夢』を提供すること。


本当にただそれ以上でも、それ以下でもなかったのだから。


掘り起こされた奇跡の宝をどのように扱い、どのような価値を見出していくのかは、すべて苦労してそれを掘り当てた発見者自身の意志に委ねられているのだ。



自室に戻ったイーサンは、静かな部屋の中でスマートフォンの画面をじっと眺めていた。


画面に表示されているのは、発見者だけにアクセスが許された特別な管理ページだった。


《Treasure No.000001》

《第一発見者認証完了:イーサン・ウォーカー》

《以下より希望する選択肢を選択してください》

・獲得した財宝を自身の手元で永久に保管する

・運営が用意する公式オークションへ出品する

・発見した財宝に関するすべての権利を放棄する


「なるほどな……そういう設計になっているわけか……。」


画面上の選択肢を見つめながら、イーサンは感心したようにふっと口元を緩めて笑った。


普通であれば、こうしたアプリの運営側が主導権を握り、すべての財宝を独占的に管理・回収しようと考えるのが当然の成り行きだろう。


だが、このアプリはどこまでも徹底して、最後の土壇場まで発見者個人にすべての選択と運命を委ねてくるのだ。


「どこまでも面白く、そして徹底的に夢のある仕組みじゃないか。」


彼は部屋のテーブルの上に置かれた、夕日に照らされて黄金の輝きを放つ古めかしい宝箱へと視線を向けた。


そして、胸の中でひとつの確固たる決断を下したのだった。


「この素晴らしい歴史の断片は……迷うことなく公式オークションへと出品することにしよう。」


自分一人だけで所有して部屋に閉じ込めておくのではなく、世界中の熱狂的な人々がこの本物の輝きを目にし、競い合う大舞台へと送り出すべきだと彼は心から強く感じたのだった。



一方その頃、日本の自室において。


私は手元にあるスマートフォンの画面を静かに見つめながら、世界中で巻き起こっている熱狂の渦を観察していた。


SNSのトレンド、ニュース動画の再生数、掲示板の書き込み、それらすべての反応は、私が当初描いていた予測を遥かに上回る規模で膨れ上がっていた。


「……ふふっ、まずは最初のステップとして大成功、といったところかしら。」


私がこのアプリを通じて達成したかった第一の目的は、決してお金を稼ぐことなどではなかったのだから。


『Treasure Link』というプラットフォームが紛れもない本物として現実に存在しているのだと世界に知らしめること。


そして、かつて前世の私が心から愛した「未知の宝を探し出す」という最高の冒険体験を、現代の地球上のすべての人々へと届けること。


その真の目的を果たすために、記念すべき最初の一箇所目の宝には、あえて誰でも安全に到達できて発掘しやすい、比較的小さな規模のものを厳選して選んだのだった。


私は前世の壮大な記憶のデータベースへとアクセスし、次なる開放候補となる莫大なリストへと視線を滑らせていく。


頭の中に鮮明に残された、数十万箇所にも及ぶ膨大な秘宝の記憶。


その果てしない選択肢の中から、私は次なる挑戦の舞台となる一箇所を指先で選択する。


「よし……記念すべき次の舞台は、私たちが住むこの日本に設定しましょうか。」


スマートフォンの画面上にくっきりと表示された、次なる目標の所在地。


【日本国・沖縄県近海にひっそりと浮かぶ、小さな孤立した無人島】


そこに静かに眠っている宝もまた、前世の海賊王としての私が残した途途方もない総資産から見れば、まだまだ目を見張るような巨大な財宝というわけではない。


けれど、特別な機材や訓練を持たない普通の人であっても、少しの勇気と行動力さえあれば十分にアプローチできる絶妙な難易度に設定されている。


「うん、次の宝もたくさんのチャレンジャーたちに心から楽しんでもらえそうね。」


私はスマートフォンの画面上で、次なる座標が全世界へ一斉に送信される運命の公開時間をシステムへとセットした。


今夜の時計の針がぴったりと指し示す、午後八時ちょうどに。



そして、世界中でスマートフォンの画面をじっと見つめている数千万人もの挑戦者たちは、この時まだ誰一人として知る由もなかったのだ。


今回カリフォルニアの地で劇的に発見され、世界中を激震させたあの黄金の宝箱すらも――


かつて世界の海を統べた伝説の海賊王が地球上に残してきた果てしない財宝の全体像から見れば、ほんの手始めに過ぎない、ごくごく小さな一部に過ぎないという真実を。

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