タイトル未定2025/12/21 06:08
数日後、武士は博人を連れて由美子に会いに来た。
ますみはとても喜んで、由美子を呼んだ。
「由美ちゃん!たけぼうと博人君よ!」
リビングから、由美子が出てきた。
「わざわざ、迎えに来てくれたのよ」
ますみに後押しをされながら、由美子は家を出た。
家を出た三人は、畑を抜け山道を歩いた。
今日も良く晴れていて、セミの鳴き声が聞こえる。
「ばあちゃんも、かあちゃんも。由美子が来るの楽しみにしてるんだよ」
武士の言葉を、距離をおいて歩いていた由美子は黙ったまま聞いていた。
武士と博人ばかりがしゃべっていて、由美子は会話の中に入らなかった。
しばらくすると、武士が不意に立ち止まり、由美子に言った。
「歩くの、遅いな」
「だって、スカートが汚れちゃう」
「こんな山道を歩くのに、そんな服着てるから!」
由美子は、薄桃色のスカートをはいていた。
「武士は、女心がわからない奴だな」
博人が、あきれて言った。
「なにぃ~」
武士はムキになって、博人をにらんだ。
「本当のことだろ」
「おまえ、生意気だぞ!」
声を荒げた武士を、慌てて博人が制した。
「やめろ。由美ちゃんが、びっくりしているだろ」
山道を抜け、坂道を下り、さらに歩いた場所に武士の家があった。
家は平屋で、とても広い家だった。
「田舎の家だ」
思わず、由美子はつぶやいた。
「武士、帰ってきたのかえ?」
家の前の畑から声がした。由美子が振り返ると、小さいと言う感じの老婆がいた。
「ただいま、ば~ちゃん。前に言った、青葉由美子だよ」
武士の祖母は、由美子を見た。
「おお、野口さんとこの。ますみちゃんは、元気かね?」
「はい」
「そうかい、そうかい。ゆっくりしてって、ちょうだいよ」
「ありがとうございます」
武士の言われるまま、由美子と博人は家の中に入っていった。
由美子と、博人は母屋に通された。家の中は、風通しが良く気持ち良かった。
武士が、大きなおぼんをもってやってきた。おぼんには、すいかが乗ってあった。
「かあちゃんが、用意してくれたんだ。食えよ」
すいかは真っ赤でよく冷えていて、みるからに美味しそうだった。
三人は、スイカを食べ始めた。
スイカは冷たく甘く、乾いた喉を潤した。
すいかを食べ終えた頃、武士が言い出した。
「博人、由美子もあの計画に、入れてやりたいんだけど」
「僕も、そう思っていたよ」
「あの、計画って?」
何がなんだかわからない由美子は、博人に聞いた。
「山道を歩く途中に、川が流れてるだろ。そこで、お昼カレーでも作って食べようって、計画」
「カレーを?」
「うん。本当は、テント張ってキャンプしようって、計画だったんだけど。子供たちだけじゃ、危ないって、親に止められちゃって」
「それで、カレーになったのね」
由美子と博人が話している間武士は、食べ終えたスイカを片付け台所に行き、戻ってきたときはノートと鉛筆を持っていた。
「俺の姉ちゃんと姉ちゃんの彼氏もついて行くって、条件付きだけどな」
武士は、不満そうに言った。
「お姉さん、何年生?」
「高一。彼氏は、高三」
「お姉さんと、年が離れているのね。お姉さん、やさしいでしょ」
「別に。いつまでも、ガキ扱いしやがるんだ」
「だって、ガキじゃん」
博人が、からかった。
「うるせえなぁ!」
「すぐ、怒るところがガキなんだよ」
「てめぇ!」
「ちょっと、やめてよ」
由美子は、慌てて仲裁に入った。武士と博人の言い合いは収まったが、顔はそっぽを向いたままだった。
博人が、由美子に聞いてきた。
「由美ちゃんも、来るだろ?」
「急に、言われても」
「一緒に、カレー食おうぜ!」
武士も言った。
「ますみ叔母さんに、聞いてからにするわ」
「わかった。じゃ、行けるなら俺のとこに電話してくれ。番号は、おばさんが知ってるから」
「うん」
「よし、誰が何を持ってくのか、決めよう」
博人は、少し考えてから言った。
「そうだな……米に、野菜に、肉に、カレールーに、あと飲み物」
「鍋、庖丁、まな板、飯ごう」
そっぽを向いていた武士と博人だったが、いつの間にか顔を見合わせ、意見交換をしていた。
武士は持ってきたノートに、持ち物を書いていく。
(さっきまであんなに、睨み合っていたのに……本当に、仲がいいんだ)
そんなことを思いながら、由美子は二人を見つめていた。
「おっす、博人!」
その声に三人は、顔を上げた。武士が、声を上げる。
「あっ、姉ちゃん!」
「こんにちは、おじゃましてます」
博人が言った後に、慌てて由美子も挨拶をした
「……こんにちは」
武士の姉は、由美子を見ながら言った。
「ん、この子は、初めて見る顔だね」
「野口のおばさんとこの子だよ。青葉由美子。夏休みの間、いるんだって」
武士が、由美子を紹介する。
「青葉由美子です」
「かあちゃんが、話してた子ね。可愛いじゃん。武士の姉の、今井美鈴よ。
こいつ、バカだけどいい奴だから、由美ちゃん仲良くしてね」
美鈴にバカにされた武士は、怒った。
「なんてこと、言うんだよ!向こう行け!」
しかし美鈴は座り込み、ノートの中を見る。
「へーちゃくちゃくと、準備してるのね」
「持ち物は、こんなもので、良いかな?」
博人が、美鈴に聞いてきた。
「うん、こんなんでいいんじゃない。後は、誰が何を持っていくかだね。重いものは、武士にもたせりゃいいわよ」
「姉ちゃん!」
武士は怒鳴り声を上げたが、美鈴は無視して由美子に言った。
「由美ちゃんも、来るんでしょ?」
「今、聞いたばかりだから。ますみ叔母さんに聞いてみないと」
「大丈夫だよ!」
武士が言い、美鈴も言った。
「私、女一人だから、由美ちゃんが来てくれたら嬉しいな」
「女だったんだ」
「うるさい!」
武士の言葉に、美鈴は武士の頭をたたいた。
「じゃ、ごゆっくり!」
美鈴はそう言い残すと立ち上がり、母屋を出た。遠ざかって行く美鈴の後ろ姿を見て、由美子は武士に言った。
「綺麗なお姉さんね」
「そうか?」
「背が高くて、足が長くて」
「口は、悪いけどな」
それまで、黙っていた博人が言った。
「由美ちゃんだって、背が高いじゃん。今に、武士のお姉さんみたくなるよ」
博人の言葉に、由美子は顔を伏せた。
思い出したように、武士が言った。
「水も、持って行かなくちゃだよな」
「そうだった。武士んとこの井戸水良いか?」
「井戸水?」
由美子が聞いてきて、武士はびっくりする。
「井戸水知らないのか?」
由美子は黙ったまま、武志を見つめていた。
「こっち、来いよ!」
そう言いながら、武士は立ち上がり、三人は外に出た。
畑のそばに、ポンプ式の井戸水があった。
武士が、両手でポンプを上げたり下げたりを繰り返すと下のほうから、井戸水が出てきた。
「さわれよ」
「うん」
由美子は、両手で水をすくった。
「冷たい!」
「飲んでもいいぞ」
武士に言われるまま、由美子はすくった水を飲んだ。
「冷たくて、美味しい」
「だろ!」
「この水を、持ってくんだ」
それから、由美子と博人は武士の家を出て、由美子は博人と肩を並べて歩いた。
やがて、博人の父親が経営をしている病院に着き由美子は博人と別れた。
由美子がひとり歩き出そうとしたとき、自分を呼ぶ声が聞こえ振り返った。
「由美ちゃ~ん!」
「美鈴さん」
先程、武士の家で会った武士の姉の美鈴が自転車に乗って由美子の側まで来た。
「今日は、来てくれてありがとう」
由美子は小さく頷き、美鈴に聞いた。
「お出かけですか?」
「うん、ちょっと彼氏と会うんだ。由美ちゃんは、都会育ちなんだよね」
「はい」
「いいなぁ。この村を出て、都会にすみたいなぁ!ねぇ、由美ちゃんが、住んでるとこって、どんな感じ?」
「家の近くに広い公園があって、電車で行った所には、ビルやお店がたくさんあります」
「いいなぁ~私もそんな生活あこがれちゃう!高校卒業したら、この村出ようかな 」
「出るんですか?」
「まだ、わかんない。でも、ふとそう思う時があるんだ」
話しをしながら歩いていると、長い坂道に出た。夕陽が、坂道をオレンジ色に染めている。
「じゃ、私向こうだから」
美鈴は、まっすぐ指をさした。指をさした方に隣村が見える。
「今度の土曜日。カレー作りだよ!ちゃんと、来るんだよ。待ってるからね!」
自転車にまたがった美鈴は、由美子にそう言った。
「じゃあね!」
美鈴は、自転車に乗って真っ直ぐ、走って行った。美鈴が小さくなると、由美子は坂道を登りだした。
夕飯の時間。この日は珍しく、叔父の守雄もいた。
夕飯の席で由美子は、今度の土曜日のカレー作りの話をした。
守雄もますみも、行くことに大賛成だった。
「由美ちゃんの喘息落ち着いているし、いいんじゃないか」
守雄が言うと、ますみも同調する。
「そうね。美鈴ちゃんや拓也君がついて行くなら、安心だわ」
「美鈴さんの彼氏って、拓也君って言うんですか?」
「そうよ。何度か、一緒にいるとこみたけど、とてもよさそうな子ね」
「なぁ、家にアウトドア用のテーブルとイスのセットがあったんじゃないか?」
守雄の言葉にますみは、思い出しながら言った。
「そうね。姉さんが、まだ小さかった由美ちゃんを連れてここに来た時、バーベキューをしたわね。その時、使ったのがあるわ」
「土曜日までに、出してやろう。当日は叔父さんが、車出してやるよ。荷物がいっぱいだろ」
「叔父さんありがとう。私、武士君に電話しなくちゃ」
「たけぼうのとこの電話番号、そこに書いてあるよ」
ますみが教え、由美子は武士の家に電話をかけた。
由美子が、土曜日カレー作りに参加をすることを伝えると武士は凄く喜び、また会う約束をした。
電話をかけ終えた由美子は、守雄とますみにーえた。
「テーブルセットと、車のことを話したら凄く、喜んでいたわ。叔父さんもカレーどうぞって」
「嬉しいが、用が済んだら帰るよ。せかっく子供たちだけでやるんだ。叔父さんがいたら迷惑だよ」
守雄は、あっさり辞退した。
由美子はいつのまにか、カレー作りを心待ちにしている自分に気が付いた。




