タイトル未定2025/12/21 05:54
次の日久美は、妹のますみのところに電話をした。
思った通り、ますみは喜んでいた。
ますみが由美子を早く連れて来いと急かすので、久美は夏休みが始まるのと同時に、由美子をますみの家に連れて行った。
いくつかの電車を乗り継いで、やっと目的の駅に到着した。
電車を降り、改札を抜けると由美子は、立ちつくしていた。
「何もない所だね」
「そうね。由美子は、都会育ちだから」
「お母さんは、此処でますみ叔母さんと、育ったの?」
「そうよ。此処に来るのは、何年振りかしら?何も変わってないわぁ」
「ふ~ん」
由美子は、つまらなそうに返事をした。
「あ、バスがきたわ」
バスが止まり、由美子と久美はバスに乗り込んだ。
バスはひどく揺れ、由美子は気分が悪くなってきた。バスを降りたときには、由美子の顔色は真っ青になっていた。
目の前の長い坂道を見て、由美子はげんなりした声を上げた。
「この坂道を歩くの?」
「そうよ。ますみの所は、初めてじゃないでしょ」
「覚えていない」
「さぁ、行きましょ」
久美は、どんどん歩きだした。
「お母さん、まってよ!」
由美子は、あわてて久美の後を追いかけた。
黙ったまま、二人で並んで坂道を歩く。午後の日差しが、二人を容赦なく襲う。
「暑いよ……疲れた……」
由美子は愚痴ったが、久美は相手にしなかった。
ようやく、坂道を登って山道を歩く。
山道は、木がたくさんあるので坂道を歩いているときよりは涼しい。
しかし、しょせん山道だ。
「やだ、スカートが汚れちゃう!」
由美子は、白いワンピースの裾を気にしながら歩いた。
「文句ばかりね」
さすがに、久美はあきれていた。
「だって……やだ!虫がいる!」
「もう少しだから、我慢しなさい」
山道を抜けると、広大な畑が見えてきた。
「ほら、あそこに見える家が、ますみの家よ。この畑もますみ夫婦の物なのよ」
「畑と山……ほんと、何もないとこなのね」
ますみの家に着くと、ますみは大喜びで二人を出迎えてくれた。
「姉さん久しぶり!元気だった?」
「元気よ。ますみも変わらないわね。今日から、一ヶ月お世話になります。ほら、由美子挨拶なさい」
「こんにちは。お世話になります」
由美子は、久美の後ろに隠れて挨拶をした。
「由美ちゃんこんにちは。喘息治るといいわね」
挨拶も終わり、リビングで久美がおみやげとして、買ってきたお菓子をみんなで食べた。
「そうそう姉さん。この村に、今年の春から出来た病院があるんだけど、これから行ってみる?けっこう評判の良い病院よ」
「そうね、預かってもらってる間に何かあったら、困るし。行ってみようかしら?」
「じゃ、車出すわ」
車の一言で、由美子はほっとした。また、あの山道を歩くのは、もう嫌だった。
車は山道を抜け、あの長い坂道を出た。
いくつかの家があり、その中に病院があった。
病院は白い建物で、とても綺麗だった。
受付を済ませ、待合室で待っていると、すぐ名前を呼ばれた。
母親の久美と一緒に由美子は、診察室に入った。
診察室には、若い医師が座っていた。
一通りの診察を終え、医師が言った。
「今は、落ち着いていますね。薬を出します。もし発作が出たら、すぐ来てください。夜中でも構いません」
医師のやさしい言葉に、久美は胸をなで下ろした。
由美子のカルテを見ていた医師は、少し驚いた声を出した。
「小学六年生。私の息子と一緒ですね」
「息子さんが、いらっしゃるんですか?」
久美も、驚きの声を上げた。
「仲良くしてあげてください」
医師はやさしく言った。
診察が終わり、薬を受け取ると由美子は久美と一緒に外に出た。
外に出ると、由美子と同じくらいの背の高さの男の子がいた。
男の子は人なつこく、初対面の由美子に挨拶をした。
「こんにちは」
由美子は、小さい声で返事を返した。
(そう言えば、小学六年生の息子がいるって、言ってたっけ。この子のことなんだ)
男の子は由美子の所に、
「僕、坂本博人きみは?」
「青葉由美子 」
由美子は、博人が背負っているランドセルを見ながら聞いた。
「まだ、学校なの?」
「うん。この辺は、雪が降るから夏休みが短いんだ」
「ふ~ん」
他に話すこともなく、由美子は退屈そうに山をながめた。
「引っ越してきたの?」
「喘息を治す為に、夏休みの間だけここに来たの」
「そうなんだ。ねぇ、今度遊ぼうよ。友達の今井武士を連れて遊びに行くよ。楽しい子だよ」
(何言ってんの?この子)
初対面なのに友達のように振る舞う博人に由美子は引いていた。
「由美子ぉ~」
「お母さん呼んでるから、私行くね」
由美子は、走り出した。
博人は、大きな声で言った。
「また会おうね!」
由美子は振り返らず、久美とますみのもとへ走って行った。
家に着くと、久美とますみは夕飯の準備をした。その間由美子はリビングの前にあるテラスに出て、風を浴びていた。
(博人君だっけ?)
由美子は、病院の前で会った博人のことを思い出していた。
(また会おうって、何考えてんだろ。あ~あそれにしても、ほんとに一ヶ月もこんな、なんにもない所にいるのぉ?早く、帰りたいよぉ!)
でも、いいこともあった。浴槽が広くて、思い切り身体を伸ばすことができ、温泉気分を味わうことができた。
お風呂から出て、ますみが用意してくれた部屋に入る。
窓を開け、由美子はベランダに出た。
「うわぁ~すごぉ~い!」
満天の星空に、由美子は感動の声を上げた。
都会育ちの由美子にとって、この星空は贅沢なものだった。




