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夕暮れの坂道  作者: kagari
5/15

タイトル未定2025/12/21 05:54

 次の日久美は、妹のますみのところに電話をした。

思った通り、ますみは喜んでいた。

ますみが由美子を早く連れて来いと急かすので、久美は夏休みが始まるのと同時に、由美子をますみの家に連れて行った。


 いくつかの電車を乗り継いで、やっと目的の駅に到着した。

 電車を降り、改札を抜けると由美子は、立ちつくしていた。

「何もない所だね」

「そうね。由美子は、都会育ちだから」

「お母さんは、此処でますみ叔母さんと、育ったの?」

「そうよ。此処に来るのは、何年振りかしら?何も変わってないわぁ」

「ふ~ん」

 由美子は、つまらなそうに返事をした。

「あ、バスがきたわ」

 バスが止まり、由美子と久美はバスに乗り込んだ。

 バスはひどく揺れ、由美子は気分が悪くなってきた。バスを降りたときには、由美子の顔色は真っ青になっていた。

 目の前の長い坂道を見て、由美子はげんなりした声を上げた。

「この坂道を歩くの?」

「そうよ。ますみの所は、初めてじゃないでしょ」

「覚えていない」

「さぁ、行きましょ」

 久美は、どんどん歩きだした。

「お母さん、まってよ!」

 由美子は、あわてて久美の後を追いかけた。

 黙ったまま、二人で並んで坂道を歩く。午後の日差しが、二人を容赦なく襲う。

「暑いよ……疲れた……」

 由美子は愚痴ったが、久美は相手にしなかった。

 ようやく、坂道を登って山道を歩く。

 山道は、木がたくさんあるので坂道を歩いているときよりは涼しい。

 しかし、しょせん山道だ。

「やだ、スカートが汚れちゃう!」

 由美子は、白いワンピースの裾を気にしながら歩いた。

「文句ばかりね」

 さすがに、久美はあきれていた。

「だって……やだ!虫がいる!」

「もう少しだから、我慢しなさい」

 山道を抜けると、広大な畑が見えてきた。

「ほら、あそこに見える家が、ますみの家よ。この畑もますみ夫婦の物なのよ」

「畑と山……ほんと、何もないとこなのね」

 ますみの家に着くと、ますみは大喜びで二人を出迎えてくれた。

「姉さん久しぶり!元気だった?」

「元気よ。ますみも変わらないわね。今日から、一ヶ月お世話になります。ほら、由美子挨拶なさい」

「こんにちは。お世話になります」

由美子は、久美の後ろに隠れて挨拶をした。

「由美ちゃんこんにちは。喘息治るといいわね」

 挨拶も終わり、リビングで久美がおみやげとして、買ってきたお菓子をみんなで食べた。

「そうそう姉さん。この村に、今年の春から出来た病院があるんだけど、これから行ってみる?けっこう評判の良い病院よ」

「そうね、預かってもらってる間に何かあったら、困るし。行ってみようかしら?」

「じゃ、車出すわ」

 車の一言で、由美子はほっとした。また、あの山道を歩くのは、もう嫌だった。


 車は山道を抜け、あの長い坂道を出た。

 いくつかの家があり、その中に病院があった。

 病院は白い建物で、とても綺麗だった。

 受付を済ませ、待合室で待っていると、すぐ名前を呼ばれた。

 母親の久美と一緒に由美子は、診察室に入った。

 診察室には、若い医師が座っていた。

一通りの診察を終え、医師が言った。

「今は、落ち着いていますね。薬を出します。もし発作が出たら、すぐ来てください。夜中でも構いません」

 医師のやさしい言葉に、久美は胸をなで下ろした。

 由美子のカルテを見ていた医師は、少し驚いた声を出した。

「小学六年生。私の息子と一緒ですね」

「息子さんが、いらっしゃるんですか?」

久美も、驚きの声を上げた。

「仲良くしてあげてください」

 医師はやさしく言った。


 診察が終わり、薬を受け取ると由美子は久美と一緒に外に出た。

 外に出ると、由美子と同じくらいの背の高さの男の子がいた。

 男の子は人なつこく、初対面の由美子に挨拶をした。

「こんにちは」

 由美子は、小さい声で返事を返した。

(そう言えば、小学六年生の息子がいるって、言ってたっけ。この子のことなんだ)

 男の子は由美子の所に、

「僕、坂本博人(さかもとひろと)きみは?」

「青葉由美子 」

 由美子は、博人が背負っているランドセルを見ながら聞いた。

「まだ、学校なの?」

「うん。この辺は、雪が降るから夏休みが短いんだ」

「ふ~ん」

 他に話すこともなく、由美子は退屈そうに山をながめた。

「引っ越してきたの?」

「喘息を治す為に、夏休みの間だけここに来たの」

「そうなんだ。ねぇ、今度遊ぼうよ。友達の今井武士(いまいたけし)を連れて遊びに行くよ。楽しい子だよ」

(何言ってんの?この子)

 初対面なのに友達のように振る舞う博人に由美子は引いていた。

「由美子ぉ~」

「お母さん呼んでるから、私行くね」

 由美子は、走り出した。

 博人は、大きな声で言った。

「また会おうね!」

 由美子は振り返らず、久美とますみのもとへ走って行った。


 家に着くと、久美とますみは夕飯の準備をした。その間由美子はリビングの前にあるテラスに出て、風を浴びていた。

(博人君だっけ?)

 由美子は、病院の前で会った博人のことを思い出していた。

(また会おうって、何考えてんだろ。あ~あそれにしても、ほんとに一ヶ月もこんな、なんにもない所にいるのぉ?早く、帰りたいよぉ!)

 でも、いいこともあった。浴槽が広くて、思い切り身体を伸ばすことができ、温泉気分を味わうことができた。

 お風呂から出て、ますみが用意してくれた部屋に入る。

 窓を開け、由美子はベランダに出た。

「うわぁ~すごぉ~い!」

 満天の星空に、由美子は感動の声を上げた。

 都会育ちの由美子にとって、この星空は贅沢なものだった。

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