タイトル未定2025/12/21 05:43
「もう少しだ!もう少しだからな!」
隣で由美子の父親、雅俊がハンドルを握り締めながら叫んだ。
本当にもう少しなのだが、小学六年生の由美子にとって、病院への道のりは、果てしなく遠かった。
あともう少しで夏休み。
そんなある夜のことだった。
それまで、落ち着いていた由美子の喘息が、出てしまったのだ。
夜中に由美子の体を、喘息の発作が襲う。
顔見知りの医師の所に電話すると、夜中にもかかわらず診てくれると言う。
由美子は、雅俊の運転する車に乗って、病院に向かっていた。
病院に着き、すぐ吸入を始めた。
なんとか発作はおさまり、雅俊は安堵のため息をもらした。
医師に何度も礼を言い、病院を後にした。
帰りの車の中、雅俊は医師が言っていた言葉を思い出していた。
「空気がきれいな所に住むのが、一番なんですよね」
(空気が、きれいな所か)
玄関を開けると、由美子の母親の久美が、リビングから出てきた。
「お帰りなさい!由美子は、大丈夫?」
「ああ、今吸入をしてきたとこだよ。発作は大分おさまったよ。」
「よかった」
久美は、胸をなでおろした。
由美子をベッドの中に寝かせると、由美子はすぐ寝てしまった。
久美はそっと由美子の部屋を出て、リビングに行った。
リビングでは、雅俊がソファーに座っていた。
「由美子、寝たわ」
「そうか。医者が、どこか空気の綺麗なところに住めればと言っていた」
「空気の綺麗なところね」
「そんなこと、いきなり言われてもな」
「だったら、ますみのとこに、行けばいいわ!」
「妹さんの所か?しかし……」
「あそこなら、周りは山で空気は綺麗だし。夏休みの間だけでも、ねっ!」
「一ヶ月も?ますみさんに迷惑じゃないか?」
「大丈夫!あの家は、ますみとご主人の守雄さんしか、住んでないもの。昼間は、守雄さん役場の仕事に行って、いないし。ますみが、畑仕事をしてるだけだし。明日、ますみに電話をしてみるわ」




