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夕暮れの坂道  作者: kagari
15/15

タイトル未定2025/12/21 06:54

 ……パシャン!

 水の跳ねた音で、由美子は目を開けた。

 いつのまにか、眠っていたらしい。

 慣れない、長旅のせいだろう。

 辺りは、すっかり陽が傾きかけていた。

 (行こう!)

 由美子は心にそう決めると、立ち上がった。

 山道を下り、坂道に出た。

 坂道は夕陽に染まりオレンジ色になっていた。

 由美子は、一人ぽつりと立っていた。ひとっこひとりいない。

 駄目か。

 どだい、無理な話かもしれない。

 二十歳になったら、またこの坂道で再会しようなんて。

 みんな、それぞれの生活があるのだから。

 でも、楽しかった。

 まるで、夢の中にいたようだった。

 それでいい。

 由美子は、そう思うことにした。

 もう、帰ろう。

 此処にいても、しかたがない。

 由美子が、帰ろうとしたそのときだった。  背後で人がいる気配を感じたのは。

「由美……ちゃん?」

 その声に由美子が振り向くと、背の高い青年が立っていた。

「やっぱり、由美ちゃんだ!」

「……博人君?」

 青年は、笑顔になって由美子の側に駆けて来た。

 笑顔に、見覚えがあった。

 あの、病院の息子の博人だった。

「博人君ね!」

「びっくりしたよ!初めて会った時の、由美ちゃんかと思ったよ!」

「憎い演出でしょ」

 由美子は、この村に初めてきた時と同じような服装でいた。

 麦藁帽子に、白のワンピース。

「嬉しいな。博人君に初めて会った時の服装を、覚えてくれていたなんて」

「一度だって、忘れたことなかったよ。服も、今日の約束も。それにしても、変わってないな」

「そぉ?博人君は、背が高くなったね。あの頃は、私とそんなにかわらなかったのに」

「由美ちゃんは、今どうしてるの?」

「結婚したんだ。青葉由美子から、野村由美子になりました。主婦してます。博人君は?病院の先生になったの?」

「そんなすぐ、なれないよ。医大に行ってるんだ。勉強中だよ。由美ちゃんが、奥さんかぁ。青葉由美子から、野村由美子ね。旦那さんどんな人?」

「年が、離れてるせいかな。やさしい人よ。中学の教師をやってるわ」

「教師!」

「博人君は、彼女いるの?」

「僕も、結婚してるんだ」

「ほんとに!どんな人?」

 博人は携帯を出して、待ち受け画面を由美子に見せた。そこには、色白で目がくりっとした女性が一才くらいの可愛い赤ちゃんを抱いていた。

「博人君、パパなんだ。赤ちゃん、なんて名前?」

留美子(るみこ)。初恋の人の名前を、少し変えてつけたんだ」

 そう言うと、博人は由美子を見つめた。

「あの時、あの放置されたバスの中で由美ちゃんに告白したら、武士より僕を選んでた?」

 由美子は、黙ってしまった。

「ごめん!今頃こんな話されたって、困るよな」

「博人君、私ね。あの頃の私は、武士君も博人君も好きだったよ。どちらかを選べと言われても、選べなかった」

「そっか。今、幸せ?」

「ええ!博人君もでしょ」

「うん」

 あの頃の三人は、もう思い出の一つと、なっていた。

「遅いね、武士君」

 由美子の言葉に、博人がはっとした。

「本当だ。まさか、忘れたとか」

「そんなこと!」

 その時、二人の背後でクラクションの音がして、由美子と博人は振り返った。

「よう!わりぃ。またせたな!」

 日焼けした、体の大きい男性が、軽トラックから降りてきた。

「……武士君!やだ、ちっとも変わってない」

「そうか?由美子は、あいかわらず、やせっぽっちだな」

「武士、元気か?」

「おう!それしか、取柄がないもんな。博人、背が伸びたな」

「武士君、今何をしているの?」

「この村に残って、畑仕事をしているよ」

「結婚は?」

「ひとりもんだよ」

「そうんなんだ。私と博人君は、結婚したよ。博人君は、一児のパパ!」

「本当か!なんだよ、俺だけかよひとりもんは。博人の裏切りもん!」

「なんだよ、それ!」

 思わず三人は、笑いあった。 

 笑いが収まった後、由美子は武士に聞いた。

「武士君。お姉さんの、美鈴さん元気?」

「元気だよ。あの頃付き合ってた、拓也さんと結婚したよ。結婚してもしょっちゅう、家に来るけどな」

「結婚したんだ!じゃ、結婚しても、この村に残ったのね」

「一時は、別れ話が持ち上がっていたらしいけど、元のさやに収まったよ。姉ちゃん、今でも由美子のことを話すんだぜ。帰る前に、会ってやってくれよ」

「うん!私も、美鈴さんに会いたい!」

 由美子は、嬉しそうに答えた。

 それから、三人は携帯を出して、番号とアドレスを交換した。

 交換が終わると、写真をそれぞれ撮った。

「これで、どこに行ってもみんな一緒だね!」

 由美子の言葉に、武士は言った。

「携帯か……あの当時、こんなもんなかったもんな。あったら、泣かずにすんだのに」

「えっ、泣いたの?」

 由美子は、驚きの声をあげた。

「ち、ち、違う!泣いてなんかいない!」

 武士は真っ赤になって、否定した。

「博人だよ、泣いたの!」

「なに、言ってんだよ!」

「やだ、博人君も?二人して泣いたんだ!」

 武士と博人が揃って、声を合わせて否定した。

「違~う!」

 夕暮れの坂道に、三人の笑い声がいつまでも響いていた。


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