タイトル未定2025/12/21 06:48
由美子の帰る日が明日と、迫っていた。由美子は、部屋で荷支度をしていた。
やっと終わり、窓の側に立ち外の景色をながめた。
長いようで短い村での生活が、終わろうとしていた。
由美子は部屋を出て、リビングにいたますみのところに行った。
「荷造り、もう終わった?」
ソファーに座っていた、ますみが聞いてきた。
「うん、今終わったとこ」
「じゃ、行きましょうか」
由美子とますみは、博人の父親の病院へ車を走らせた。
病院に着き、由美子とますみは病院の裏口に回り博人の父親を呼んでもらった。
少しまっていると、博人の父親が白衣姿で出て来た。
「こんにちは、お忙しいところすみません。いろいろお世話になりました。由美ちゃん、明日帰ります」
「そうなんですか。こちらこそ、ありがとうございました。由美ちゃんが居なくなったら、博人はがっかりするなぁ」
「たけぼうと博人君と三人、いつも一緒だったから」
博人の父親は、由美子の方を向いて言った。
「博人と、仲良くしてくれてありがとう」
由美子は黙ったまま、小さく頷いた。
病院を出ると、武士の家に向かった。武士の母親と武士の祖母が、由美子とますみを暖かく迎えてくれた。
一通りの挨拶をして、雑談をした。
「武士ねぇ、由美ちゃんがこの村からいなくなっちゃうから、機嫌が悪いのよ」
武士の母親が言った。
「由美ちゃんには、よう仲良くしてもらったもんなぁ」
ぽつりと祖母が言った。
「由美ちゃんも、武士君達のおかげで良い思い出ができたね」
ますみの言葉に由美子は頷き、武士の母親に尋ねた。
「あの、美鈴さん元気ですか?」
あのカレー作り以来、美鈴とは会っていない。
「美鈴ね、由美ちゃんのこと可愛い可愛いって、妹のように思っていたのよ」
そこまで言うとため息をつき、続けて言った。
「美鈴も最近、元気がないのよ。何があったのかしら?」
彼氏の拓也とうまくいっていないのか、由美子は気になった。
由美子とますみは、武士の家をあとにした。
家に帰ってきた由美子とますみは、リビングのソファーに座り、お茶を飲んでいた。
すると電話が鳴り、ますみが出た。
電話の話はすぐ終わり、ますみは由美子に言った。
「お母さんがもうすぐ、駅に着くそうよ。今から迎えに行くけど、一緒に行く?」
「ううん。待ってる」
「そう。じゃ、留守番お願いね」
そう言うとますみは、家を出て行った。
ますみは、すぐ戻って来ると思っていたのに、なかなか戻ってこなかった。
由美子がぼんやりしていると、電話が鳴った。
電話に出ると、電話の相手は武士だった。
「由美子、これから出られるか」
「これから?今、留守番をしているの」
「じゃ、おばさんが帰ってきたら、坂の上まで来てくれ。博人と待ってるから」
「うん、わかった」
電話を切り、由美子は窓の側に行った。
外は、夕陽が空をオレンジ色に染めていた。
「遅くなってごめんね!」
ますみの声がして、由美子は玄関まで走って行った。
ますみの後ろには、久しぶりに見る母、久美の顔があった。
「まぁ、見ない内にすっかり、日焼けして。なんだか、たくましくなったみたい」
由美子の顔を見て久美は言ったが、由美子の耳には届いていなかった。
「ますみ叔母さん!」
「えっ?」
突然言われ、ますみは、驚く。
「ちょっと、行ってきます!」
「由美ちゃん、どこに行くの!」
しかし由美子は、ますみの言葉が終わらないうちに、外へ飛び出した。
広い畑を走り、山道を駆け抜け、由美子はやっと坂道にたどり着いた。
坂道の上では、武士と博人が座り込んでいた。
「おそ~い」
「来ないと思ったよ」
武士と博人が言った。
「……ごめん」
肩で息をしながら、由美子は言った。
武士と、博人は由美子の側に行った。
三人は、山に沈む夕焼けを眺めた。
「この景色、三人でこうやって肩を並べて見るのもこれが最後だね」
由美子が言った。
「最後じゃないよ。いつの日かまた、見れる時がくるよ」
博人の言葉に、由美子は大きく頷いた。
「うん、そうだね!」
「じゃ~ん!」
不意に武士が、大きな声を出して由美子と博人の前に出た。
「あ、それ!夏祭りの時買ったお面!」
武士はひょっとこのお面をかぶって、由美子と博人の前に出た。
「博人も、かぶれよ!」
「ああ、うん」
武士に言われ、博人は慌てて、持っていたお面をかぶった。
ひょっとこのお面が二つ由美子の前に並び、由美子は笑い転げた。
「おかしい~いぃ!私も、もってくれば、良かった。おかめのお面!」
博人は、お面から顔を出して言った。
「やっと、笑ってくれた!」
何かを考えていた由美子は、武士と博人に聞いた。
「二人とも、誕生日っていつ?」
「俺は、四月」
武士が答え、続けて博人も答える。
「五月だよ」
「私も、五月。三人とも、二十歳になった八月二十日に、またこの坂道の上で再会しない?」
あまりに突然の言葉に、武士と博人は顔を見合わせた。由美子は夕陽を見ながら続けた。
「無理かもしれない。みんな、それぞれ変わっていくだろうし、忘れてしまうかもしれないし。でも今は、約束したい。二十歳になった八月二十日に、みんなと会いたい。大人になったみんなと会えるって、今は信じたい」
しばらくの沈黙の後、博人が言った。
「いいね、そう言うの。僕は会えるって、信じるよ」
「ありがとう!」
由美子は、そう言いながら博人の両手を握り、そして博人が頭につけていたお面を顔にかぶせた。
「わかったよ!俺もその約束に、のるよ!」
「ありがとう!武士君」
もう一度三人で、夕陽を見つめる。
「私、そろそろ帰らなくっちゃ」
「明日の朝にはもう、帰っちゃうんだよね」
博人の言葉に、由美子は黙ったままうなづいた。武士が、明るく言った。
「博人、家まで送ってやろうぜ!」
「ありがとう。でも、いい。一人で帰る。これ以上みんなといたら私……」
由美子は、顔をあげて明るく言った。
「最後は、笑顔で別れたいから、さよならは言わないよ!」
由美子は、大きく息を吸ってから言った。
「武士君、博人君。本当にありがとう!またね!」
由美子は、夕暮れの坂道を走り出した。
「またなぁ~ちゃんと戻ってこいよぉ~」
「まってるよぉ~また、会おうね~」
お面をかぶった、武士と博人は。由美子の姿が見えなくなるまで、いつまでも手を振っていた。
そして……。
「行ったな」
「行っちゃったね」
武士と博人は、かぶっていたお面を同時に取った。
二人の目には、大粒の涙が流れていた。




