表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夕暮れの坂道  作者: kagari
14/15

タイトル未定2025/12/21 06:48

 由美子の帰る日が明日と、迫っていた。由美子は、部屋で荷支度をしていた。

 やっと終わり、窓の側に立ち外の景色をながめた。

 長いようで短い村での生活が、終わろうとしていた。

 由美子は部屋を出て、リビングにいたますみのところに行った。

「荷造り、もう終わった?」

 ソファーに座っていた、ますみが聞いてきた。 

「うん、今終わったとこ」

「じゃ、行きましょうか」


 由美子とますみは、博人の父親の病院へ車を走らせた。

 病院に着き、由美子とますみは病院の裏口に回り博人の父親を呼んでもらった。

 少しまっていると、博人の父親が白衣姿で出て来た。

「こんにちは、お忙しいところすみません。いろいろお世話になりました。由美ちゃん、明日帰ります」

「そうなんですか。こちらこそ、ありがとうございました。由美ちゃんが居なくなったら、博人はがっかりするなぁ」

「たけぼうと博人君と三人、いつも一緒だったから」

 博人の父親は、由美子の方を向いて言った。

「博人と、仲良くしてくれてありがとう」

 由美子は黙ったまま、小さく頷いた。


 病院を出ると、武士の家に向かった。武士の母親と武士の祖母が、由美子とますみを暖かく迎えてくれた。

 一通りの挨拶をして、雑談をした。

「武士ねぇ、由美ちゃんがこの村からいなくなっちゃうから、機嫌が悪いのよ」

武士の母親が言った。

「由美ちゃんには、よう仲良くしてもらったもんなぁ」

 ぽつりと祖母が言った。

「由美ちゃんも、武士君達のおかげで良い思い出ができたね」

 ますみの言葉に由美子は頷き、武士の母親に尋ねた。

「あの、美鈴さん元気ですか?」

 あのカレー作り以来、美鈴とは会っていない。

「美鈴ね、由美ちゃんのこと可愛い可愛いって、妹のように思っていたのよ」

 そこまで言うとため息をつき、続けて言った。

「美鈴も最近、元気がないのよ。何があったのかしら?」

 彼氏の拓也とうまくいっていないのか、由美子は気になった。


 由美子とますみは、武士の家をあとにした。

 家に帰ってきた由美子とますみは、リビングのソファーに座り、お茶を飲んでいた。

 すると電話が鳴り、ますみが出た。 

 電話の話はすぐ終わり、ますみは由美子に言った。

「お母さんがもうすぐ、駅に着くそうよ。今から迎えに行くけど、一緒に行く?」

「ううん。待ってる」

「そう。じゃ、留守番お願いね」

 そう言うとますみは、家を出て行った。


 ますみは、すぐ戻って来ると思っていたのに、なかなか戻ってこなかった。

 由美子がぼんやりしていると、電話が鳴った。

 電話に出ると、電話の相手は武士だった。

「由美子、これから出られるか」

「これから?今、留守番をしているの」

「じゃ、おばさんが帰ってきたら、坂の上まで来てくれ。博人と待ってるから」

「うん、わかった」

 電話を切り、由美子は窓の側に行った。

 外は、夕陽が空をオレンジ色に染めていた。


「遅くなってごめんね!」

 ますみの声がして、由美子は玄関まで走って行った。

 ますみの後ろには、久しぶりに見る母、久美の顔があった。

「まぁ、見ない内にすっかり、日焼けして。なんだか、たくましくなったみたい」

 由美子の顔を見て久美は言ったが、由美子の耳には届いていなかった。

「ますみ叔母さん!」

「えっ?」

 突然言われ、ますみは、驚く。

「ちょっと、行ってきます!」

「由美ちゃん、どこに行くの!」

 しかし由美子は、ますみの言葉が終わらないうちに、外へ飛び出した。


 広い畑を走り、山道を駆け抜け、由美子はやっと坂道にたどり着いた。

 坂道の上では、武士と博人が座り込んでいた。

「おそ~い」

「来ないと思ったよ」

 武士と博人が言った。

「……ごめん」

 肩で息をしながら、由美子は言った。

 武士と、博人は由美子の側に行った。

 三人は、山に沈む夕焼けを眺めた。

「この景色、三人でこうやって肩を並べて見るのもこれが最後だね」

 由美子が言った。

「最後じゃないよ。いつの日かまた、見れる時がくるよ」

 博人の言葉に、由美子は大きく頷いた。

「うん、そうだね!」

「じゃ~ん!」

 不意に武士が、大きな声を出して由美子と博人の前に出た。

「あ、それ!夏祭りの時買ったお面!」

 武士はひょっとこのお面をかぶって、由美子と博人の前に出た。

「博人も、かぶれよ!」

「ああ、うん」

 武士に言われ、博人は慌てて、持っていたお面をかぶった。

 ひょっとこのお面が二つ由美子の前に並び、由美子は笑い転げた。

「おかしい~いぃ!私も、もってくれば、良かった。おかめのお面!」

 博人は、お面から顔を出して言った。

「やっと、笑ってくれた!」

 何かを考えていた由美子は、武士と博人に聞いた。

「二人とも、誕生日っていつ?」

「俺は、四月」

 武士が答え、続けて博人も答える。

「五月だよ」

「私も、五月。三人とも、二十歳になった八月二十日に、またこの坂道の上で再会しない?」

 あまりに突然の言葉に、武士と博人は顔を見合わせた。由美子は夕陽を見ながら続けた。

「無理かもしれない。みんな、それぞれ変わっていくだろうし、忘れてしまうかもしれないし。でも今は、約束したい。二十歳になった八月二十日に、みんなと会いたい。大人になったみんなと会えるって、今は信じたい」

 しばらくの沈黙の後、博人が言った。

「いいね、そう言うの。僕は会えるって、信じるよ」

「ありがとう!」

 由美子は、そう言いながら博人の両手を握り、そして博人が頭につけていたお面を顔にかぶせた。

「わかったよ!俺もその約束に、のるよ!」

「ありがとう!武士君」

 もう一度三人で、夕陽を見つめる。

「私、そろそろ帰らなくっちゃ」

「明日の朝にはもう、帰っちゃうんだよね」

 博人の言葉に、由美子は黙ったままうなづいた。武士が、明るく言った。

「博人、家まで送ってやろうぜ!」

「ありがとう。でも、いい。一人で帰る。これ以上みんなといたら私……」

 由美子は、顔をあげて明るく言った。

「最後は、笑顔で別れたいから、さよならは言わないよ!」

 由美子は、大きく息を吸ってから言った。

「武士君、博人君。本当にありがとう!またね!」

 由美子は、夕暮れの坂道を走り出した。

「またなぁ~ちゃんと戻ってこいよぉ~」

「まってるよぉ~また、会おうね~」

 お面をかぶった、武士と博人は。由美子の姿が見えなくなるまで、いつまでも手を振っていた。

 そして……。

「行ったな」

「行っちゃったね」

 武士と博人は、かぶっていたお面を同時に取った。

 二人の目には、大粒の涙が流れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ