タイトル未定2025/12/21 06:41
夏祭り当日。
由美子はさそっく、ますみにゆかたを着付けてもらった。
鏡の前に立った由美子は、思い立っていつも下ろしている長い髪の毛を、両手で持ち上げポニーテールにした。
赤い帯をしているので、同じ色の赤いゴムで髪の毛をしばった。
「あら、いいじゃない!」
ますみの言葉に、由美子は照れた。
「じゃ、行きましょうか」
由美子はますみが運転する車に乗って、武士の家に出かけた。
武士の家に着くと、すでに博人も来ていた。
「いらっしゃい」
武士の母親が、出迎えてくれた。
「こんばんは」
由美子は、武志の母親に挨拶をする。
「まぁ、ゆかた姿可愛いわね」
そこへ、武士の祖母もやってきた。
「ますみさん。上手に出来たじゃない」
武士の祖母は、ますみが作ったゆかたをほめた。
「おばあちゃん、生地をありがとう。由美ちゃんに、ゆかたを着せることが出来たわ」
「うん、うん。かわいいのう。たけぼうの、お嫁さんになるかい?」
武士は怒鳴り声を上げた。
「何言ってやがる!」
「あれ、あれ照れてるよ!」
笑い声が、どっと上がった。
笑い声が収まると、武士は面白くないと言った感じで言った。
「祭りに行くよ!」
そう言うと武士は、立ち上がって靴を履いた。
「行ってきます」
由美子と、博人は立ち上がって言った。
「たけぼうの家まで、迎えに行くからね!」
ますみの声に由美子は、大きく手を振った。
神社は、武士の家の裏山にあった。
村から、人々がやってきた。
「まずは、射的だよな!」
武士が言うと、武士と博人は射的の店に行き、射的を始めた。
景品を狙う二人に、由美子は声を上げた。
「いけぇ~おしい!」
射的が終わり、歩いているとお面を売っている店があった。
「ひょっとこのお面におかめのお面だ!」
由美子がお面を見つけ、面白い顔をしたお面に三人は大笑いをした。
「ね、これ買おう!」
博人が言い出し、由美子と武士は顔を見合わせたが、すぐ博人の提案に乗った。
武士と博人は、ひょっとこのお面。
由美子はおかめのお面を、それぞれ買った。
三人はさっそく、お面を顔につけた。
お互いの顔を見て、笑いあった。
それから、それぞれが好きな物を食べ、食べ終わると武士が言った。
「こっち、来いよ」
武士の後を、由美子と博人は付いて行った。
「静かにな」
武士は、そっと言った。
目の前には、たくさんの蛍が飛んでいた。暗闇の中を緑色に光り、それはまるで幻想の世界にいるようだった。
「きれい」
由美子はそっと、言った。
しばらくすると、打ち上げ花火の上がる音がした。三人は名残惜しそうにその場を離れ、神社の境内に戻った。
夜空には、何本もの花火が咲いた。三人は、黙ったまま夜空を見上げた。
「私、二十日に帰るんだ」
突然由美子が、つぶやくように言った。
あまりにも突然の由美子の言葉に、武士も博人も声が出ない。
「今まで、ありがとう。武士君と博人君のおかげで、楽しい夏休みをこの村で過ごせた」
「僕、将来医者を目指すよ」
不意に、博人が言った。
「だから、私立中学を合格したら、僕もこの村を出る」
「そんなこと、言うなよ。今年の春来たばかりなのに」
武士が、不満の声をもらした。
「この村に来る前から、医者になるかどうかずっと、迷っていたんだ。でも、由美ちゃんの喘息を見て、やっと決心がついたんだ」
「ちぇっ、みんな俺を置いて、どこへでも行きやがれ!」
毒ずく武士の肩を、博人はそっと抱いた。
あんなにはしゃいでいたのに帰り道、誰も何もしゃべらなかった。




