タイトル未定2025/12/21 06:34
いつもの坂道を下ったところで由美子は、武士と博人をまっていた。
「おっす!」
博人がやってきた。
「あれ、武士君は?」
「ああ、夏休みの宿題がたまっているから、今日は外に出るなって、おばさんに言われたんだって」
「やだ、武士君らしい。今日はどこに行くの?」
「僕が、こっちに来たばっかの頃、武士と偶然見つけた場所に行くんだ。学校のすぐ近くだよ」
そう言うと、博人は歩きだした。由美子も博人に並んで歩き出す。
「怪我したんだって?お父さんから聞いたよ」
「先生には、お世話になりました」
由美子は、おどけて言った。
「もう大丈夫?」
「うん!もう平気!」
二人は、ゆるやかな坂道を歩いた。
学校を通り過ぎ、さらに奥の方へ歩いて行くと、広い野原が目の前に広がった。
「こんな場所があったんだ!」
由美子は、立ち止まって見回した。
「ひまわり畑もすごかったけど、此処もすごいね!」
野原には、大きな土管と、使われなくなったバスが一台置き去りにされていた。
バスの隣には、大きな木がひとつ立っていた。
由美子は、木の側に行って自分の頬を木にそっとあてた。
「あったかい」
「由美ちゃんが住んでいるとこには、こんなとこないもんな」
「うん。公園に木はあるけど、いつも人がいっぱいだった」
由美子は木に、背もたれた。
「静かで、気持ち良い」
「この村にいると、落ち着くよな」
「空が青い」
由美子は、空を見上げた。
「この村に引っ越して来たときは、何も知らなくて最初は嫌だったけど、武士が人懐っこく話しかけてきて。二人でいろんな所に行って、いつのまにかこの村に溶け込んでいた」
「何もない村だけど、とてもやさしいね」
由美子は、木から離れると大きな土管の所に行った。博人もついてきた。
「うわぁ~大きな土管!」
由美子は、土管の中を覗き込んだ。
「お~い!」
『お~い!』
由美子の声が反響して、跳ね返ってくる。
「山びこみたい!」
「武士~勉強してるか~い!」
『武士~勉強してるか~い!』
博人が言った言葉に、由美子は笑った。笑いを収めた時だった。
青空に、いつのまにか黒い雲が出始めた。
「つめたっ!」
博人は、手を顔にあてた。
「嘘っ」
見る間に雨が降り出した。
博人は由美子の手をつかむと、慌てて放置されたバスの中に入り並んで座席に座った。
博人は、窓から外を眺めた。
雲があるのは、この辺り一帯だけだった。
「通り雨だから、すぐやむよ。由美ちゃん?」
由美子は自分の体を抱え込み、ぶるぶる震えていた。
「寒い?」
由美子は、咳き込み始めた。
博人は、慌てて由美子の背中をさすった。
五分くらい咳が続き、ようやく治まった。
「大丈夫?」
心配そうに、博人が聞いてきた。
「ありがとう」
由美子は、力なく笑った。
「僕のお父さんに、診てもらおうか?」
「転んだ時先生に手当てしてもらったばかりだし、ますみ叔母さんに心配かけちゃう」
「そっか」
「家に帰ったら、薬飲むわ。それでも調子が悪かったら、ちゃんと先生に診てもらう」
「うん。わかった」
由美子は、窓の外を見た。
「雨やまないね」
しばらく黙ったまま座っていたが、由美子が博人に聞いた。
「カレーを、皆で作った時。博人君は将来のこと迷っているって言っていたけど。何を、迷っているの?」
しばらく黙っていた博人は、やがて由美子の問いに答えた。
「お父さんを見て育ったから、病院の先生になろうかなって。まだ、わかんないけど」
「凄い!ちゃんと、考えているじゃない。私なんて、なんにも考えていない」
「普通は、そうだよ」
博人は、笑いながら言った。
「博人君なら、先生みたいなやさしい医者に、なれそうだね」
「そうかな。由美ちゃんは、もうすぐこの村を出るんだよね」
博人が言った言葉を由美子は驚きながら聞き、黙ったままうなづいた。
「出ていかないでほしいな」
由美子はそっと、博人を見た。博人は、うつむいたままだった。
「ずっと、この村に、いてほしい。由美ちゃんと武士と、いつまでも三人でいたい」
気持ちは、由美子も同じだった。
あんなにたいくつで嫌だったこの村が、いつのまにか好きになっていた。
この村の風景が少しずつ、自分の中に溶け込んでいくのを由美子は感じとっていた。
「うん。ずっと三人でいたい」
博人は、そっと由美子の手をにぎってきた。
「私、二十日には帰るんだ」
不意に由美子が、ぽつりと言った。
博人はうつむいたまま、にぎった手に少しだけ力を入れた。
それに応えるように、由美子も言博人の手を握り返した。
雨は、いつしか小降りになっていた。
その夜。
由美子は、ますみと二人で夕飯の後片付けをしていた。
「ますみ叔母さんは、どうして守雄叔父さんと結婚したの?」
「由美ちゃんったら、突然どうしたの?」
「ちょっと、興味があったから」
「そうね。同級生同士だったから、いつのまにかこうなったって感じね」
「じゃ、守雄叔父さんが初恋の相手?」
「う~ん。そうでもないわね」
「えっ!違うの?」
「小学生の頃かな。新しく来た先生に、夢中になったわ。それが、初恋かしら」
「そうなんだ」
「初恋なんて、そんなもんでしょ」
由美子は答えず、お皿をふいていた。
「由美ちゃん、もしかして、好きな男の子いるの?」
「い、いません!好きな人なんて」




