表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夕暮れの坂道  作者: kagari
10/15

タイトル未定2025/12/21 06:25

 ある日の午後。

 由美子は、ますみと車で駅の近くのスーパーへ買い物に行った。

 帰りの車の中で、ますみは言った。

「由美ちゃん、日焼けしたわね」

 武士が、歩いているのが見えた。

「あら、たけぼうだ」

 ますみは、車を止め武士を呼んだ。

「あ、おばさん」

「一人?どうしたの?」

「水やりの当番。学校に、行くんだ」

「学校に、行くの?」

 武志と博人が通う学校に関心があった由美子は、思わず声をあげた。

「一緒に、行くか?」

 由美子は笑顔で、大きくうなづいた。

「ますみ叔母さん、行ってくるね」

「きをつけてね。たけぼう、頼んだよ」

「うん!」

 由美子は車から降りると、武志と並んで歩いた。

「美鈴さん元気?」

「そう言えば、あのカレーの時以来、あんましゃべっていないな」

 カレーの時以来。

 やはり、拓也との将来のことが原因なのか。

「武士君って、将来のこと考えたことある?」

「しょお~らい~?んなもん、ないよ」

「やっぱりね」

 由美子は、小さくつぶやいた。

 しかし由美子だって、将来の夢や希望も何もないのだ。

「あ~あ。もうすぐ夏休みも終わりだ!早いなぁ」

「夏休みって、いつまで?」

「十六日まで!十七日から、学校だよ」

「もう、すぐじゃない」

 由美子は、黙りこんでしまった。

 昨日電話で、母親の久美と話をしたのだ。

 いつ、ますみの家を出るか。

 体調も良くなってきたし、家に帰ったら二学期の準備もしなくてはならないから、二十日頃帰るかと話し合ったばかりだ。

「武士君、あのね」

「あれ、そう言えば、ひまわり畑見に行った時学校の建物教えたよな」

「うん」

 由美子は、とうとう言い出せなかった。自分が村を出て行く日のことを。


 学校は、木造校舎だった。

 広い運動場に、それを囲むように砂場・ブランコ・鉄棒・上り棒などがあった。

 少し離れた場所には、プールがあった。 山々に囲まれた小学校。

「俺、花に水あげに行くから」

「うん」

 武士は、校舎の前の花壇に走っていった。

 由美子は、ブランコに座りひとり揺れていた。

 由美子が通う、学校と全く違うので驚いていた。

 校庭は、夏休みとあって人がいないから不気味なほど静かだった。

「おまたせ!」

 水やりを終えた武士は、由美子の元へ駆けてきた。

「行こうか」

 武士と二人で、学校を出る。

 由美子は、そっと校庭を振り返った。

 由美子が通うこともない学校を。


 武士と学校を後にした由美子は、なだらかな坂道を下っていた。

 どこまでも続く田園風景。

「武士君は、いつもこの道を歩いて学校に通うんだね」

「うん。もう、いいかげん飽きたけどな」

「でも気持ち良いよ。私が住んでいる所は、住宅街だから家が並んでいるとこを歩いて、学校に通うんだ」

「へ~きっと、おしゃれな家が立ち並んでいるんだろうな」

 急に由美子が、立ち止まった。

「ね、田んぼのあぜ道歩かない?」

「いいけど」

 由美子は、武士と田んぼのあぜ道を歩きだした。

「ここに来て、ほんと初めてだらけ。学校の帰り道、こんなふうに道草とかするの?」

 由美子は少し興奮したように武士に聞いた。

「いつもだよ」

「楽しそうね。あ、あそこ水が流れてる!きれい!」

 水は、太陽の光に反射してキラキラしていた。

 由美子と武士は、たんぼのあぜ道を歩き、コンクリートの道に出ようとしたときだった。

 由美子は、足を滑らし道路側におもいっきり、転んでしまった。

「いた~」

「大丈夫か?」

 武士は、由美子を覗き込こんだ。

 由美子の膝から血が出ていた。由美子は、しばらく座り込んだままだった。

 武士は由美子の目の前に行き、由美子に背を向けしゃがみこんだ。

「ほら!」

 由美子は、顔を上げた。

「そんなんじゃ、まともに歩けないだろ」

「でも」

「早くしろよ。この体制けっこう、疲れるんだぞ!」

「うん」

 由美子は武士の背中にしがみつき、武士は由美子を背負って歩きだした。

「ごめんね」

「いいよ。それにしても、由美子軽いな!ちゃんと、めし食ってんのか?」

「た、食べてるわよ」

 由美子は顔を赤くして言い、武士は笑った。

「その元気なら、大丈夫だ」

「武士君」

「ん?なんか言ったか?」

「ううん。なんでもない」

 慌てて由美子は言い、そっと武士の背中に頬をあてた。

 田園風景に囲まれた、なだらかな坂道を、武士は由美子を背負って歩いていった。

 ゆるやかな長い坂道を下り、博人の父親がやっている病院が見えてきた。

[休診]の札がかかっていたが、幸い博人の父親の坂本が病院の中に入ろうとしていたとこだった。

 博人の父親は、由美子を見るとすぐ病院の中に通し手当てをしてくれた。

「ありがとうございます」

 由美子は、お礼を言った。

「二、三日は痛むだろうけど、すぐ良くなるからね。武士君の紳士ぶりも、なかなかのものだったよ」

「当たり前のことをしただけだよ」

 武士は、窓の景色を見ながら言った。なんのことはない。照れているのだ。

 博人の父親が車で家まで送ると言うので、由美子は甘えることにした。

 由美子は車に乗り、武士に手をふった。

「今日は、ありがとう」

「うん。またな」

 武士は、笑顔で手を振った。

 

「怪我がたいしたことがなくて、よかったわ」

 由美子の怪我をした足を見て、ますみは胸をなでおろした。

「由美ちゃんが、そんな怪我をするなんてねぇ」

「ちょっと、はしゃぎすぎただけだよ。それより最近ますみ叔母さん、寝るの遅くない?昨日もずっと、部屋の明かりがついていたよ。何をしているの?」

「ああ、ちょっとね。今にわかるわよ」

ますみは、そう言っただけで、何も教えてくれなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ