タイトル未定2025/12/21 06:25
ある日の午後。
由美子は、ますみと車で駅の近くのスーパーへ買い物に行った。
帰りの車の中で、ますみは言った。
「由美ちゃん、日焼けしたわね」
武士が、歩いているのが見えた。
「あら、たけぼうだ」
ますみは、車を止め武士を呼んだ。
「あ、おばさん」
「一人?どうしたの?」
「水やりの当番。学校に、行くんだ」
「学校に、行くの?」
武志と博人が通う学校に関心があった由美子は、思わず声をあげた。
「一緒に、行くか?」
由美子は笑顔で、大きくうなづいた。
「ますみ叔母さん、行ってくるね」
「きをつけてね。たけぼう、頼んだよ」
「うん!」
由美子は車から降りると、武志と並んで歩いた。
「美鈴さん元気?」
「そう言えば、あのカレーの時以来、あんましゃべっていないな」
カレーの時以来。
やはり、拓也との将来のことが原因なのか。
「武士君って、将来のこと考えたことある?」
「しょお~らい~?んなもん、ないよ」
「やっぱりね」
由美子は、小さくつぶやいた。
しかし由美子だって、将来の夢や希望も何もないのだ。
「あ~あ。もうすぐ夏休みも終わりだ!早いなぁ」
「夏休みって、いつまで?」
「十六日まで!十七日から、学校だよ」
「もう、すぐじゃない」
由美子は、黙りこんでしまった。
昨日電話で、母親の久美と話をしたのだ。
いつ、ますみの家を出るか。
体調も良くなってきたし、家に帰ったら二学期の準備もしなくてはならないから、二十日頃帰るかと話し合ったばかりだ。
「武士君、あのね」
「あれ、そう言えば、ひまわり畑見に行った時学校の建物教えたよな」
「うん」
由美子は、とうとう言い出せなかった。自分が村を出て行く日のことを。
学校は、木造校舎だった。
広い運動場に、それを囲むように砂場・ブランコ・鉄棒・上り棒などがあった。
少し離れた場所には、プールがあった。 山々に囲まれた小学校。
「俺、花に水あげに行くから」
「うん」
武士は、校舎の前の花壇に走っていった。
由美子は、ブランコに座りひとり揺れていた。
由美子が通う、学校と全く違うので驚いていた。
校庭は、夏休みとあって人がいないから不気味なほど静かだった。
「おまたせ!」
水やりを終えた武士は、由美子の元へ駆けてきた。
「行こうか」
武士と二人で、学校を出る。
由美子は、そっと校庭を振り返った。
由美子が通うこともない学校を。
武士と学校を後にした由美子は、なだらかな坂道を下っていた。
どこまでも続く田園風景。
「武士君は、いつもこの道を歩いて学校に通うんだね」
「うん。もう、いいかげん飽きたけどな」
「でも気持ち良いよ。私が住んでいる所は、住宅街だから家が並んでいるとこを歩いて、学校に通うんだ」
「へ~きっと、おしゃれな家が立ち並んでいるんだろうな」
急に由美子が、立ち止まった。
「ね、田んぼのあぜ道歩かない?」
「いいけど」
由美子は、武士と田んぼのあぜ道を歩きだした。
「ここに来て、ほんと初めてだらけ。学校の帰り道、こんなふうに道草とかするの?」
由美子は少し興奮したように武士に聞いた。
「いつもだよ」
「楽しそうね。あ、あそこ水が流れてる!きれい!」
水は、太陽の光に反射してキラキラしていた。
由美子と武士は、たんぼのあぜ道を歩き、コンクリートの道に出ようとしたときだった。
由美子は、足を滑らし道路側におもいっきり、転んでしまった。
「いた~」
「大丈夫か?」
武士は、由美子を覗き込こんだ。
由美子の膝から血が出ていた。由美子は、しばらく座り込んだままだった。
武士は由美子の目の前に行き、由美子に背を向けしゃがみこんだ。
「ほら!」
由美子は、顔を上げた。
「そんなんじゃ、まともに歩けないだろ」
「でも」
「早くしろよ。この体制けっこう、疲れるんだぞ!」
「うん」
由美子は武士の背中にしがみつき、武士は由美子を背負って歩きだした。
「ごめんね」
「いいよ。それにしても、由美子軽いな!ちゃんと、めし食ってんのか?」
「た、食べてるわよ」
由美子は顔を赤くして言い、武士は笑った。
「その元気なら、大丈夫だ」
「武士君」
「ん?なんか言ったか?」
「ううん。なんでもない」
慌てて由美子は言い、そっと武士の背中に頬をあてた。
田園風景に囲まれた、なだらかな坂道を、武士は由美子を背負って歩いていった。
ゆるやかな長い坂道を下り、博人の父親がやっている病院が見えてきた。
[休診]の札がかかっていたが、幸い博人の父親の坂本が病院の中に入ろうとしていたとこだった。
博人の父親は、由美子を見るとすぐ病院の中に通し手当てをしてくれた。
「ありがとうございます」
由美子は、お礼を言った。
「二、三日は痛むだろうけど、すぐ良くなるからね。武士君の紳士ぶりも、なかなかのものだったよ」
「当たり前のことをしただけだよ」
武士は、窓の景色を見ながら言った。なんのことはない。照れているのだ。
博人の父親が車で家まで送ると言うので、由美子は甘えることにした。
由美子は車に乗り、武士に手をふった。
「今日は、ありがとう」
「うん。またな」
武士は、笑顔で手を振った。
「怪我がたいしたことがなくて、よかったわ」
由美子の怪我をした足を見て、ますみは胸をなでおろした。
「由美ちゃんが、そんな怪我をするなんてねぇ」
「ちょっと、はしゃぎすぎただけだよ。それより最近ますみ叔母さん、寝るの遅くない?昨日もずっと、部屋の明かりがついていたよ。何をしているの?」
「ああ、ちょっとね。今にわかるわよ」
ますみは、そう言っただけで、何も教えてくれなかった。




