Prologue,R453
北海道札幌市、国道453号──通称、支笏湖線。
南区、常盤からつづら折りの峠道を越えた先、支笏湖の湖畔には温泉街があり、ホロピナイの休憩所ではヒメマスのチップが食べられる事で有名。
ある者は釣りに、ある者は温泉に、ある者は峠道をツーリングしに、老若男女を問わず人気の観光スポットも、夜になると全く性格の異なるスポットに変貌する。
スピードに魅せられた酔狂者の舞台として──。
耳を劈くエキゾーストノートが木霊する。
常盤のP帯に集まった走り屋たちが、湖畔までのタイムを競い合い、時に複数台でドラテクを競い合う。
かつての走り屋全盛期、常盤P帯は夥しい数のクルマで埋まっていた。
その全員が走りに対して本気だった。
ハンパな奴が来る場所ではない。
闘争心を燃やし、獲物を求めた者たちは、それらしきクルマを見かけると刺激を求めて追っていくのだった。
そこで全てが露呈してしまう。
踏めるか、踏めないか。
走らないなら帰れ言われる、そんな時代があった。
だが、それも昔の話。
令和の時代、本当の走り屋たちはすっかり身を潜めてしまった。
──片目のセリカって知ってる?
あの有名な都市伝説"片目のセリカ"の噂が、令和の時代に再燃するまでは。