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愛する人への日記

部屋の片付けをしていたら

1冊の日記が出てきた。

これは僕が24歳の頃に半年付き合った

彼女との思い出を書いた日記だ。

タイトルは「愛する人への日記」

読まなくても忘れることない思い出が

書いてある日記だが改めて久々に読み返してみることにした。


2015年6月2日「結ばれた日」

今日僕は人生で初めての彼女ができた。

名前は「美奈友梨乃みなゆりの

ロングヘアーで瞳の輝きが美しい子だ。

出会ったきっかけは同じ職場だったから。

つい最近席替えがあった。

そこでたまたま美奈さんと隣になった。

奇跡にもお互い一目惚れだったのだ。

早いかもしれないけれどさっそくお互い

LINEを交換してスタンプを送り合った。

そして偶然にもお互い白いウサギの女の子が

「ヨロシク!」と言っているスタンプを送った。

僕は美奈さんとなら上手くやっていけるだろう

そう期待が持てていた。


2015年6月15日「初めての2人飲み会」

この日はいつもより早く仕事が終わった。

そして僕は今しかないと思い美奈さんに言った。

「美奈さん、今日の夜これから暇ですか?」

美奈さんは笑顔を浮かべてこう答えた。

「はい、暇ですよ。ご飯でも行きますか?」

まさかの美奈さんから会話を進めてくれた。

「そうですね!では駅前にある居酒屋にでも」

「いいですね!じゃあ行きましょうか!」

2人とも通ってる駅前にある居酒屋に行った。

「では、以上で、お願いします。」

注文が終わり、2人きりの時間が流れた。

僕はせっかくの会話のチャンスだと思い

美奈さんとなにか会話をしようとした。

「美奈さん、仕事には慣れましたかね?」

「ええ、多少は慣れてきましたかね。」

2人は4月に入ったばかりの新入社員だった。

「データ入力が複雑だと思いませんか?」

「そうですよね、私まず打つのが苦手だから…」

「え、僕もタイピングできなくて。」

「あら、山原さんも?」

「えっ…。」

僕は初めて美奈さんに苗字を呼ばれた。

僕は「山原健蔵やまはらけんぞう」という。

「あら、どうしました山原さん?」

「いや、なんでも、そうタイピング苦手で…」

「ですよね、時間かかりますよね…!」

なんとか照れを隠すことができた。

いつか名前を呼んでくれるのだろうか。

ちょっと楽しみになってきた。


2015年6月28日「初デートのお誘い」

この日は2人とも夜遅くまで残業していた。

気づけば会社には僕たちしかいなかった。

僕は今度の7月1日の休みの日に何をしようかを

考えながらひたすら仕事を進めていた。

すると1つの案が思い浮かんできた。

美奈さんとせっかく付き合えたのだから

そろそろデートくらいしたらどうなのかと。

僕はそのことで頭がいっぱいになった。

深呼吸し、美奈さんに話しかけてみた。

「あの、美奈さん。」

「はい、山原さんどうしました?」

「今度の1日の休みって予定ありますか?」

「1日の休み?いいえ、特にはありませんけど」

「なら、2人でどこかに行きませんか?」

「えぇ…!2人で、ですか?」

「あ、嫌だったらいいんですよ…!」

「嫌なんかじゃないですよ!急だったから…」

「あ…そうですよね…すいません…」

「それで、どこに行くんですか?」

「それが、ゆ、遊園地なんかどうかなと…」

「遊園地!私遊園地大好きなんですよ…!」

「それは奇遇ですね!では遊園地で?」

「そうですね!遊園地にしましょう…!」

こうして7月1日の休みの日。

僕は美奈さんと遊園地デートが決まった。

初デート、緊張するけど楽しみだ。


2015年7月1日「遊園地で初デート」

「山原さん運転お疲れ様でした!」

「ありがとうございます!疲れましたねぇ…!」

高速道路で1時間半かけて遊園地に来た。

「それで美奈さん何乗りますか?」

「私は、あのジェットコースターがいいです!」

「うわ…た、た、高いですねぇ…。」

「山原さん、おびえてますか…?」

「あっ…!い、いやぁ、大丈夫ですよ…!」

「じゃあ乗りましょうか!」

「は、はい…!乗りましょう…!」

実を言うと僕はジェットコースターみたいな

絶叫マシン少し苦手だった。

だが美奈さんの前では笑顔を作り上げ

内心、心の中では叫んでいた。

「いやぁ、風が気持ちよかったですね!」

「そ、そうですねぇ、美奈さん…!」

「私次あそこ行きたいです!」

美奈さんが指差した先にあったのは

怖いと有名なこの遊園地のお化け屋敷だった。

「行きますか!山原さん!」

「そ、そうですね…!い、行きましょう…!」

美奈さんは遊園地にきてからずっと

輝かしいほどの笑顔を浮かべいた。

僕は美奈さんさえ楽しければいいと思った。

なんとかお化け屋敷も終えた。

と、とてつもなく怖かったけどなんとかなった。

「ねぇ山原さん!これを見てくださいよ!」

「はい?なんでしょう?」

美奈さんが指差したのはフロアマップだった。

「私は次、これに乗って、次はこれで次は…」

美奈さんが結構なアクティブなのはわかった。

「っで最後にこれですね!こんな感じでいいでしょうか?」

楽しいし可愛いが、結構疲れるデートだな。

「山原さん?聞いてますか?」

「はい…!そのルートでいきましょうか…!」

「はい!行きましょうか!」

結局その後、美奈さんが決めたルート通りに

絶叫アトラクションに乗ったり色々した。

途中ジューシーなハンバーガーを頬張る

美奈さんの顔はとても美しかった。

それで閉園も近い夜の10時前くらいに美奈さんが

「私、最後あれに乗りたいんですけど…」

美奈さんが言ったのは観覧車だった。

カラフルに綺麗にライトアップされていた。

「観覧車かぁ…!じゃあこれ乗って帰りましょうか!」

「ですね、そうしましょうか!」

そうすると、2人は観覧車へと乗った。

2人を乗せた観覧車はゆっくりと回っていく。

夜綺麗にライトアップされた遊園地を見て

2人はその綺麗さに見とれていた。

そして観覧車が頂上に差しかかる前

美奈さんが突然こんなことを言い始めた。

「ねぇ、山原さん。」

「はい、どうしましたか美奈さん。」

「アレ、そろそろしてもいいんじゃないですか?」

「え、アレですか?」

「はい、アレです。」

「えっと、あ、アレというのは?」

「もう、山原さんったら鈍感なんですから。」

「え?」

チュッ。

観覧車が頂上になった瞬間

美奈さんは僕の唇にキスをしてきた。

そのキスはこれから忘れることなどない

優しく美しいキスだった。

「…。」

「…。」

「はは、しちゃいましたね山原さん…」

「そ、そうですね、美奈さん…」

なんとも言えない時間が流れた。

そして2人は観覧車を終えて降りた。

その時の時間に身を任せてみた。

その結果遊園地から車に戻るまでの間

2人は初めて肩を近づけ手を繋いでいた。

そして車に乗る前にこんな会話をした。

「た、楽しかったですね、山原さん…。」

「そ、そうですね…美奈さん。」

「じゃあ今から帰りますね。疲れたら寝ちゃってください。」

「あら嫌だ、夜景見ながら寝ずに帰りますよ。」

「本当に疲れたら寝ちゃっていいですから。じゃあ鍵開けますね。」

そう言い、車の鍵を開け車に乗り込んだ。

エンジンをかけ、2人は遊園地を後にし

僕はアクセルを強く踏みながら高速道路を走った。

そしてちょうど街の大都会に差しかかった。

「見て山原さん、街明かりが綺麗ですね。」

「うわ、本当だ、綺麗ですね。」

「…。」

「…。」

「ねぇ、山原さん。」

「なんですか美奈さん。」

「名前で、呼んでください。」

「え…?な、名前で…?」

「そう、名前で、そして呼び捨てで…。」

「呼び捨てで…。」

「いいから、お願いしますよ…。」

僕は深呼吸をしてついに言った。

「…友梨乃」

「…健蔵」

「…!?」

僕は急に美奈さんから名前で呼ばれたので

一瞬体の感覚がなくなるくらいにまで照れた。

そして美奈さんがこう言った。

「そろそろ敬語捨てよ。」

「…え?」

「同じ年でしょ。もっと近づきたいの。」

「…。」

「ねぇ、ダメなの?」

「いいよ。じゃあ僕も敬語を捨てるよ。」

「ふふ、素敵。」

その頃日付は7月2日になっていた。

僕は家に帰り日記にこう書いた。


2015年7月2日「敬語を捨てた日」


その遊園地デートが終わると2人はすっかり

距離が近くなり定期的にデートをした。


2015年7月13日「水族館デート」

魚をみて無邪気にはしゃぐ美奈の姿が

とても美しく、とても可愛かった。

水槽の青い光が反射し、美奈の瞳に映っていた。


2015年7月21日「またまた飲み会」

飲み会の会話も以前よりフレンドリーになった。

「また僕データ入力で間違えちゃってさ。」

「本当に山原はドジよねぇ。」

「そんな言い方はないだろう美奈。」

「冗談よ、あはははは!」

「あははははは!」

この日は程よく酔っ払って気持ちよかった。


2015年7月30日「ショッピングデート」

この日はふたりとも有給を取り

近くのショッピングモールでデートをした。

お昼にラーメンを食べる美奈がとても美しかった。

そして2人でお揃いの水色のコップを買った。

「やっと山原とお揃いができて嬉しい!」

そう笑顔を浮かべる美奈がとても可愛かった。


そして、付き合って2ヶ月後。


2015年8月2日「同棲開始」

ずっと夢見てた2人きりの暮らしが始まった。

お互い疲れて帰ってくると美奈が僕に

「こうすれば疲れが多少取れるでしょう?」と

思い切り抱きついてきたりする。

あとは美奈がふるまってくれる料理が

そこら辺のレストランより美味いのだ。

この前作ってくれたオムライスは

格別に美味かったのだ。

ケチャップで「ずっといっしょ」と書いてくれた。

僕はそれを食べながら「ずっと一緒だよ。」と返した。

あとはこの前ショッピングモールで買った

お揃いの水色のコップにお酒などを注ぎ

カチンと音を立てて乾杯したりもしていた。

この幸せがずっと続けばいいなと思った。


だが現実はそう上手くいかなかった。


2015年8月20日「君が出て行った日」

同棲が始まると僕の良くない部分が出た。

つい仕事から疲れて帰ってくると

スーツや靴下はそこら辺に脱ぎ捨てたり

食器洗いとかをずっと美奈にばかりやらせたり

僕の性格の良くない部分が出てしまった。

それは8月7日くらいからだんだん僕の素が

出てきてしまっていた。

それに美奈は最初は笑って注意してくれたが

今日はそのストレスがきっと爆発したのだ。

「ちょっと山原話があるんだけど…」

「なに?美奈?」

「いい加減にしてよ、私だってあなたと同じ時間働いてるのよ!なんで私にばかり洗い物や洗濯、掃除やらせるのよ…!」

「それは、もし仮に夫婦になったらお母さんになる美奈の役割だからだろ!」

「はぁ?!なにそれ、信じられない。山原も靴下やスーツは脱いだらしっかり片付けてよね!もし父親になったらそんなダメなところ見せるわけ!?」

「うるせぇな!大丈夫だよ!誰がお前なんかと結婚するか!一緒にいても最近は楽しくない!だから旅行なんか最近は計画すら立てなかったし!スーツや靴下ごときで何騒いでんだ!気の小さい女だな!」

「…。」

「…。(あっ…。)」

しばらく沈黙が流れた。

「うっ、ひ、ひっ、ひどい…!」

しばらくして美奈は泣き始めてしまった。

さすがに僕も力に任せて言いすぎてしまった。

「あ、ご、ごめん、違うんだっ…!」

バチンッ!

「…!?」

美奈が僕の頬を思い切り叩いた。

パリンッ!

「…!?」

美奈はお揃いで買った水色のコップを割った。

「山原のバカ!私の、き、気持ちを全く理解してないくせに…!反論して…!もう知らないんだからね…!」

そう言うと美奈は荷物を簡単にまとめて

玄関から外へ出て行こうとしてしまった。

僕は必死に引きとめようとした。

「待ってくれ美奈!あれはちょっと誤解だ!真剣に話し合えばきっとわかるから…!」

ガチャッ、バタンッ!

「…。」

美奈は出て行ってしまった。

出ていく時、美奈の横顔には涙があった。

同棲の楽しい時は少ししか続かなかった。


2015年8月21日「君と離れてしまった日」

大喧嘩の翌日、会社では席替えがあった。

僕は会社の1番東側に、美奈は1番西側に。

それから美奈とは気まずく顔すらも合わせなかった。

美奈はあれから実家暮らしを始めたらしい。

この日から僕と美奈は全く連絡を取らなくなった。

家に帰ると、そこには美奈の温もりが

かすかに残っていたような気がした。

床には割れた水色のコップの破片が散らばっていた。

僕はそれを拾い集め、大切に保管することにした。


そして家にひとりきりになってしまい

9月、10月、11月と、時があっという間に流れた。

その間、日記は白紙だった。


2015年12月1日「君の残り時間を知った日」

あれから僕は毎日をひとりで過ごしていった。

その日も変わらず仕事を終えて家に帰ると

突然スマホが鳴った。

発信相手は会社の部長からだった。

「もしもし山原です。」 

「山原か?」

「はい、そうですが。」

「美奈さんが急に倒れて緊急搬送されたぞ!」

「え…?」

僕は一瞬時が止まったように思えた。

「そ、それは本当なんですか…?」

「本当だ!早く4丁目の総合病院に来い!」

「はい…!わかりました…!」

僕は突然のことでパニックになっていたが

あわてて準備をして、タクシーをつかまえて

4丁目の総合病院へと急いで行った。

到着して受付の人に事情を説明すると

美奈がいる病室まで案内してくれた。

そこには部長や社長、それから美奈と

仲良かった社員たちがいた。

美奈は点滴に繋がれ酸素マスクをしていた。

するとそこに先生がやってきた。

「先生、美奈さんはどうなるんですか?」

部長が先生に聞いた。

すると先生はこう答えた。

「冷静に聞いてください。美奈さんは「急性心筋梗塞です。しかもかなり重篤です。覚悟はしておいてください。頑張っても日付が変わるくらいには、と考えられます。」

その話を聞いた時、時間が止まったように思えた。

立ち尽くす、僕や社長や部長。

泣いている仲良かった社員たち。

僕はもう目の前の状況を信じたくなかった。

すると部長がこう言い出した。

「実は、山原と美奈さんは付き合っていた。だから俺たちよりも、美奈さんの最期を見届ける価値は山原にある。みんな、あとは山原に任せて、今日は悲しいがこれで帰るぞ。」

「え、?いや、でも部長…。」

「いいから、な。最期まで彼氏でいてやれ。」

そう言うと社員たちや部長や社長は

病室から出ていき、2人きりにしてくれた。

2人きりになった瞬間僕は泣いた。

泣いた、前が見えなくなるくらい泣いた。

そして僕は謝りもした。

「ごめんな、美奈。もっと僕がしっかりしてれば、僕があの時止めてもっと一緒にいてやれれば、きっとこんなことには…。美奈、頼むから…美奈…帰ってきて、また楽しく1から過ごそうよ…頼むから…美奈…。」


2015年12月2日「君が空へ旅立った日」

美奈は復活も虚しく、空へ旅立った。

24歳という若さだった。

僕は強く手を握って泣くことしかできなかった。

そして頭の中は後悔でいっぱいだった。

同棲する前にもっと時間を見つけて

飲みに行ったりデートしたりすればよかった。

あの時大喧嘩になる前に引き止めたりして

僕のダメなところを改善して

また一緒に楽しくすごせばよかった。

それができなくても、9.10.11月にもっと

無理矢理にでも連絡を取って仲直りすればよかった。

後悔が後をたたなかった。


2015年12月6日「君と本当のさよなら。」

あれからお通夜やお葬式も終わった。

僕は最後の最後まで手を握っていた。

そしてこれで僕の日記は終わりにするとする。

ただ日記は終わるけど、僕の愛は終わらない。

僕はいつまでも美奈を愛することを誓います。

そしてこの日記を美奈にささげます。


「愛する人への日記」だから。

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