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火山

 人、というのは炎を操る。だからこそ肉を美味しく食べられるし、燻製とかで保存もした。

それが生命としてのアドバンテージであり、生き残れた理由だ。

つまりは戦闘し肉を得るというサイクルから抜け出した、自給自足や安定性が、生命の上に君臨する理屈だ。

それに比べると、ここはどうだろう。

「読んだことない本だ」

 地球のではないから、当たり前ではある。けれどもこの世にあるすべての本、つまり地球に存在したすべての本の内容を知っている私からすれば、新鮮な話ではある。

「……魔力というのは人間も持っているから、魔物とは対等である」

そう、私が借りてきた本には書いてある。

「だから人と魔物は互いに協力し、生活してきたのだ」

これも本に書いてあること。さりとて私が知り得たいのはそういう話ではない。

「人と魔物が会話できる理由というのを、知りたいんだけどな」

五冊ぐらい本を積み上げ、私はため息をつく。ため息をつく、つまり、下向きの感情。

 けれど、なれば、人は上を向いた。

細く薄い雲雲は、青空をぼかしている。

 

吹く風が、音を鳴らす。

 

その音は、心地よい。


人が通るため、生活するため、見栄えのため。


私たちがいる草原は、そうやって作られた。


森であったらしい影など一つもないのだ。


あるのは石畳の道、通りかかるゴムのタイヤの馬車、人工的に整備された芝。


私とアリストは、そういう中で、一つの小屋のそばにいた。


「……どちら様です?」


「イマキターさんですよね」


私は、光道リンはその場から立ち上がり、イマキターという女に手紙を差し出す。


「これ、デル・アトカラさんからです」


「彼から?」


「はい」


「引き受けてくれたんですか」


「暇ですしね」


「なら、中に入ってください。茶でも出しますよ」


「もう一人いますけど」


「いいですよ」


「アリストー」







「私はここら辺の草原の管理を任されてまして、あまり遠出はできないんですよ」

「お一人で?」

「最近までは家族がいたんですけど、みんな死んじゃいました」

「ご愁傷様です」

「まあ、大変な仕事ですから。仕方ないです」

 イマキターという女は、木製の小屋に私たちを案内し、茶菓子とお茶を振る舞っている。

(緑茶だ)

紅茶ではない。食文化というのは、西洋チックではないようだ。

そういうことは日々の生活でわかる話ではあるけど、やはり驚く。

外見と中身が一致してないような歯痒さを覚えるからだ。

最近の私は日々をギルドの仕事で費やしている。日がな金を稼ぎ、生活するためだ。

「手紙の返事を書くので、渡してほしいんですけど」

「ああ、いいですよ」

「それまでごゆっくりなさっててください」

そう言い、女は奥の方へ行ってしまった。そこは寝室のような場所なのだろう。

小さな小屋だからこそ、ベッドがないのなら、見えないところにあるとわかるからだ。

「どこまで描いた?」

 私は横で、茶菓子を食べているアリストに聞く。私の声を聞いたアリストは、懐からスケッチブックを取り出す。

「おお、上手いじゃん」

そこには草原の絵と、空の絵だ。

今日の私たちの仕事は、アトカラさんの手紙を、イマキターという人に届ける仕事だと。

だからそのイマキターの家の前でわざわざ待っていたというわけである。

私は本を速読していたし、アリストにはそこらへんで絵を描かせていた。

色鉛筆で表現された濃淡は、たしかに先ほどまで見た草原を思い出させる。

「どう、楽しい?」

 そう聞くと、首は縦に振られるし、私の左手は触られる。

ということは楽しいのだろう。

(この子には、はっきりとした思考がある。それで話さないのは、思考故か?)

 現代社会でよくあるのは、考えた末に話さないこと。口答えしたらめんどくさいから、しない。

ミスを報告したらめんどくさいから、しない。

そういったことはよくある、らしい。

アリストという人間も、何か理由があって話さないのだと思うことにした。

それはどうでもよくて、考えていることが大事なのだけど。

(一人で黙々とする作業なら得意なのかもしれない)

 この子の父は大変厳しいらしいし、だからあまり集団で行動なんてしなかったのかも。

もう一度、思考をフラットにしてアリストの絵を見る。

草原は、殆どが黄緑である。

影などは少なく、それはいかに平原が整えられているかの証拠でもある。

「お待たせしました……それ」

「ここの絵です。この子が描きました」

「見せてもらってもいい?」

イマキターがアリストに聞くと、アリストは彼女の左手を触る。

「いいってこと?」

彼女がこちらを見たので、首を縦に振る。

「綺麗ね」

 スケッチブックに描かれたそれは、彼女にとっては毎日の景色であるはずだけど、やけに感動していた。

「……貰ってもいい?」

再度、彼女はアリストに聞く。アリストは左手を触る。

「ありがとう」

スケッチブックの一ページが切り取られ、人に譲渡される。

その絵に、何を感じたのかは、私には関係のない話だ。

「これ、手紙の返事です。渡してもらえますか?」

「はい。……報酬、多くないですか?」

「絵のお代ですよ」

「にしても、ですけど」










かっ、かっ。


タイヤのゴムは、よく回る。

「早いですね」

「そういう、魔物の馬ですから、パワフルなんです」

高い金を払って乗った馬車は、車より速いと思えた。オープンカーのような感覚であり、しかし風を切る感覚はそれ以上。

馬車の操り主に対して、私は質問を投げかける。

「私の故郷では魔物なんていないんですけど、ここら辺は魔物が当たり前なんですか?」

「そうですねえ。詳しいわけではないんですけど、千年ぐらい前からですよ」

「千年」

「というのも、それ以前の歴史はわからないんですよ。戦争かなんかで消えちゃったみたいで、その戦争が終わったのが、千年以上も前なんです」

「歴史というのがリセットされたんですね」

「そうみたいです。で、戦争が終わったら、ここらへんは生命が住めるような場所じゃないから、魔物と協力して……みたいな?」

「魔物には人の言葉が、会話として伝わったりしますけど、なんで魔物はここら辺の言語を話せるんですか?」

「さあ?気にしたことなかったですね」

「あら」

「お客さんにとっては確かに異質かもしれませんが、私たちにとっては当たり前のことですから」

「いろんな人に聞いたんですけど、犬みたいなものだって」

「そうですね。人に懐く犬種もいれば、噛む野犬もいます。同様に魔物にも、人に仇なすもの、協力するもの、というものです」

「ふーん」











 私の仕事は手紙を届けること。

聞いた話だが、こういう雑用レベルのことは、ギルドにいる人がやるらしい。

つまりギルドは郵便局の役割も担っているのだ。

「だてに何でも屋ってわけだ」

 止められた馬車から飛び降りると、火山の硬い岩が足元に伝わる。

デル・アトカラという人はこの火山の途中にある村に住んでいるらしい。

「こっからは馬はいけないですね」

「結構ありますよ、距離。ですから泊まっていくのがいいです」

「じゃあ明日の昼ぐらいにはここに戻ってきますので、そちらもお願いできますか?」

「いいですよ。私は火山を降りたところにいますので、何かあったらそこまで」

「ありがとうございます。アリスト、行くよ」








登山、という形にはなる。

事実として道は傾斜であるし、道と呼べるような場所でもない。

「楽するかぁ」

(ワシの力か)

私はアリストを抱き寄せ、しっかりと掴む。

片腕で彼女を抱え、もう片方の手で魔法を使う。水の糸が私たちを引っ張って、一気に登ったのだ。

「たかーい」

エレベーターみたいに上昇していく私たちは、高いところから地上を見下ろせる。

「どうせなら山頂まで」

気分はまるで蜘蛛男。片腕から出す水の糸が、私たちを連れていく。

だからあっという間に頂上へ着いたし、そこからまた景色を眺めた。

「雲が同じぐらいの高さだよ」

アリストをおろし、共に景色を見る。

私はスマホを取りだして、写真を撮った。

(魔力というのは電力になるというの、すごいよな)

私の手にある端末に、少し力をこめるだけで、充電というのはされていく。だから今日まで元気にカメラの役割を担うことができたのだ。

「旅行っていうの、案外楽しいね」

溜まっていくスマホのフォルダには、この世界に来てからのものがたくさんあった。

早く帰ってインターネットに上げたいものだ。

 アリストは、ずっと、遠くを見ている。

「そうだ、カメラやってみる?」

私はスマホを彼女に差し出して、操作方法を教える。

「そう、そうすると、ほら、絵になって保存できるの」

(大した技術だな)

わたしの中の青龍さんも感心している。

「何かこうやって、絵にしたいのがあったら言ってね」

そう言うと彼女はわたしの右腕を触る。

「……そっちの方がいいんだ」

彼女は、買ってあげたスケッチブックと色鉛筆を見せつける。

写真を撮るより、絵を描く方が好きみたいだ。

(絵を貰ってくれたのが嬉しかったのか?)

イマキターさんが、アリストの絵を買った。

それは成功体験であるから魅惑的であるし、それができぬ写真よりは、確かに絵の方が好きになるか。









山を下る。

山というのは、上りより下りが危険である。山道というのは不安定であり、坂道というのは傾斜だからだ。

傾斜がスピードを出させ、不安定が事故を起こす。

「……あんまり歩くの得意じゃないね」

だからアリストは転んで、前方にいたわたしにキャッチされた。

「あんまり運動してこなかった?」

彼女を抱えたまま、私はくだっていく。

目線の先には石や鉄で作られた建物が見えて、アソコが目的地であるとはよくわかる。

「……イエスとか、ノーとか、も言えないか、わからないか」

彼女を背中に抱え、落ちないように、転ばないように私は歩く。

私の靴が石ころを蹴飛ばし、降らせる。

「前々から思ってたけどさ、アリストって、髪を大事にしてるよね」

道とは呼べぬ場所、歩くというより飛び移る感じの道を進んでいく。

「乱れるのが嫌なんでしょ。それで、あんまり首を振ってイエスとか言わない」

やや整備された道を歩く。相変わらず地面はジャリジャリしているが、随分と歩きやすかった。

「なんでなのかは、無理に聞かないけど。私は知っておきたいから、もしよかったらでいいから、筆談とかで伝えてくれる?」

石で囲いが作られた集落に着く。

ここが目的地であり、私は肩にかけたバッグから手紙を取り出して、折れ目がないか確認する。

アリストを地面に立たせると、彼女はすぐに私の左手を握った。

「そう、じゃあ待ってるよ」









「デル・アトカラって人、知ってますか?」

「それならアッチの方だよ。あの煙突が目立つやつ」

「どうもです」

私たち二人は歩き、言われた通りの場所へ来る。

カンカンと、中からの金属音は、うるさく響くのだろう。

外だからある程度聞こえはしないけど、中はどうだろう。

わたしのノックや呼びかけは、届いてくれるだろうかと感じた。

(アラ)

インターホン?石造の家に、インターホン!

なんてアンバランス、なんて違和感!

わたしはそれのボタンを押せば、役割通りの音が鳴る。

わたし普段家にいないから聞くことのない、チャイムの音。

それに似合わない木製のドアがひらけば、中から男が出てきた。

「こんにちは」

「……こんにちは」

初対面ゆえ、警戒はされる。

が、知ってもらえればそういうことはない。

わたしは天才だし、性格もいい、そういう評判を持ってる。

そういうことを知ってもらえれば、つまりわたしがあの光道リンだとわかってもらえれば、警戒は解けるのだ。

それと似たようなことはできるのが、今の私たちだ。

「イマキターさんからの手紙です。今日の午前中に書いたやつですから、どうぞ」

「ああ、はい」

「お返事、書きます?」

「いや、いいよ。それよりアンタ、ギルドの人だろう?」

「はい」

「なら泊まっていかないか?そのつもりだろ」

「もう一人いますけど」

「別に構わないさ」











男は、私たちに茶を出す。

(紅茶だけ)

飲んでいるものが違うのは、地域差ゆえか、個人差か。

そんなことを考えながら、わたしは一口飲んだ。

アリストは両手でティーカップを持ち、熱いとわかったのか、息を吹く。

「……この手紙を読むのが怖いって言ったら、情けないか?」

「さあ?」

アトカラという男は、私たちの前に座って、手紙を見ていた。

巨大な石を削って作られたテーブルは、足を伸ばせず不便ではあった。

が、そういうことをするのは行儀が悪いので、我慢することにした。

「……彼女、何か言ってた?」

「特には」

そういうと、男はため息ひとつ。

(あれだろ、ラブレターとかいうやつ)

青龍さんがそう言えば、わたしもそうだと思う。

恋分したためて、送って返事が来れば、怖い。

「まあでも、嫌われては、なさそうでしたよ」

「え」

「まあわたしの感想です。とりあえず開けて見ないさいよ」

男は可愛い封筒から、可愛い便箋を取り出す。それで、目を逸らす。

「……フラれたら怖いから、わたしを中に入れたんでしょう?一人で現実を見るのが怖いから、誰かにいて欲しかったんでしょう?」

「それは」

「愚痴でも、歓喜の叫びでも、なんでも聞いてあげますから、見て見なさい」

男は、決心をしたのか、手紙を眺めた。目を凝らして、よく読んでいた。

わたしは目を逸らしてアリストの方を向けば、絵を描いていた。

チラリと見せてもらうと、一つのページに何個かの絵がある。

一つは鍛冶の道具。

もうひとつはアトカラの不安そうな顔。

絵を描くのが速い。

(特徴たるものをよく掴んでいる)

つまりそれは、観察眼が優れているということ。物事の本質、性質、根っこがわかっていることである。

だから簡素な絵には、金属の光沢や、男の不安そうな顔がよく見えた。

「あら」

その、さっきまで不安そうだった男の方へ振り向けば、溶けていた。

へにゃへにゃと、背中を丸めて、安堵というやつか。

「……良かった」

吐き出された言葉には、確かに安心があった。

わたしよりは若い、おそらく二十に行くかどうかというのが、一喜一憂していた。








「……彼女とは、仕事で知り合ったんです」

陽気になった彼は、酒をどんどんと飲んでいく。

あまり飲む方ではない私にも勧めてくるので、本当に浮かれている。

「彼女は草原を管理する一族で、そのための草刈り道具を、私の家系が拵えてたんです」

草原の管理、というのは大事な話である。

この世界には魔物がいて、人間はできる限りそれと共存したいらしいというのが、一般的な話。

そのための方法があの草原である。

あそこは、いわば公園だ。でかい公園で、犬を散歩させるためのようなもの。

魔物と人は共存しつつあり、一例が青龍さんと青龍さんが治める村だ。

綺麗な水や雨を操り、安定かつ上質な作物を収穫させ、分前をもらう。

さすれば青龍さんは安定した食料が手に入るし、人も同様だ。

つまり魔物は大変な役割を担っていて、その方に息抜きさせるのが、あの草原の役割だ。

(あとは魔物の手を使わない食料も、あそこで作られておるぞ)

青龍さんが付け足す。

魔物というのは、一種属一個体、らしい。

どういうことかと言えば、青龍さんには親に当たるものがいないのだ。

気づいた時にはこの世界に発生していて暮らしていた。

これがどういうことかといえば、青龍さんが死ねば、変えはいなくなるのだ。

人であれば仕事を受け継いだりするが、同じ人だからそういうことが可能だが、青龍さんはそうもいかない。

同じものがいないのだ、青龍という存在は、唯一無二であるからだ。

つまり村を治める魔物が死ねば、その村は魔物のアドバンテージを失い、元々魔物前提の暮らしをしていたから、滅んでいく。

そうなった時のために、移住先として草原が使われる。

滅んだ村よりは草原の方が食料が取れるから、移住者は農作業を手伝う、見返りに食料をもらう、という形。

つまり魔物と人の繋がりが、草原と人という繋がりへ変化するのだ。

更には人が病気でまるっきり死んだ魔物も、あの草原へ来る。

それがどうなるかと言えば、人が死んで食料をもらえない魔物と、魔物が死んで食料を使えない人たちが出会うのだから、未来は生まれる。

(ハローワークとか、そういうの?)

「でも最近、彼女の家族は全員死んだみたいで、運営も難しいと」

話を戻す。

「だから、ギルドに売って、僕のところで一緒に暮らそうって」

いましたのは草原の解説であり、本題は目の前の酒を飲んだ男の話だ。

要約すれば、仕事で知り合った女に、一目惚れしたのだ。

その女にピンチが来たので、助け舟を出したというわけだ。

「僕自身、別に鍛冶屋として売れているわけではないんですけど、頑張りますし、好きな人ぐらいは賄ってみせます!」

だから手紙で、その旨を伝えたのだろう。

「そうしたら、ふふっ、フフフ、オッケーでしたー!」

顔を赤くし、楽しそうに叫ぶ。もう外は暗いから、部屋にはランプの灯りがついていた。

(魔力の炎だな。ここは火山だし、ここの魔物は火を操るのだろう)

電気の灯りと遜色ないその光は、はっきりと、揺らめかず輝いている。











「あの二人、結婚するんだって、良かったね」

貸してもらったベッドに、アリストと二人で寝る。

持ち主のアトカラには家族との家があり、今日はそちらで寝るというのだ。

「結婚っていうのは、結ばれること。一緒に暮らしますよとか、子供作りますよとか、そういうのを周りに伝えるの」

月明かりはやけに寂しく、けれども夜空は明るい。

電気の街に暮らしていた私は、相変わらず月の光の弱さには驚くし、星あかりが作る空色には目を細める。

「ん」

アリストはベッドから出て、彼女のリュックサックを漁る。

中からスケッチブックを取り出し、何か書き始める。

「まだ起きてる?」

寝そうにないのだから、私は近くにあったランプをつける。

ネジを回すと、明るい炎がついた。

「結婚って、いいこと?ね」

スケッチブックに書かれた文字はそういう意味だった。

「結婚それ自体がいいことではないよ。愛し合っているから、結婚するので、結婚するから愛するわけではないんだ」

無論そういう限りの話ではないが、今回はそうなのだ。

「わたしのも、そうなの」

ついで書かれた文字は、そういう意味。

「さあ?わたしは君の両親を知らないし」

私は自分の中から、青い宝玉を取り出す。それをベッド上に置けば、発光して音を出す。

「ワシが見ている限り、よく信頼しあってたぞ」

「だってさ」

青龍さんがいうにはそうらしい。

彼は結婚式を取り持ったりしていたのだから、そういうことは言えた。

次の質問は、子供は?というのである。

「別に愛し合って子供を作るわけでもないから、知らない。個人によるでしょ」

「ワシはアリストが生まれた時には紹介されたが、生まれるまでには関わってないしな」

「だって」

それで、彼女の腕は止まった。

そのままリュックサックに持っていたものをしまい、ベッドに潜ってしまった。

「愛されているか、わからない?」

彼女はこちらを見ていない。背中を向け、横になっている。

「どうだろうね、人による、としか言えないけど、愛なんてどうでもいいと思うけど」

わたしは彼女の背中をさすりつつ、ベッドにある宝玉を手に取る。

アイドルゆえの言葉だとは思った。人を熱狂させる、理屈を失わせるのがアイドルだから、叫ばれる愛には確実性がない。

私本人は、それで良いのだけどね。

「両親といて、楽しかったとか、嬉しかったとか、思えればいいのさ」

宝玉はわたしに沈み込み、再び頭には青龍さんの声がする。

「死んじゃった両親との生活を振り返って、良いと思えば、思えれば、キミは両親のことが好きなのだろうし、逆もある程度然りさ」

嫌いな人と何かをするのは、楽しくない。

逆に楽しければ、その人のことをある程度は認めているのだ。

それぐらいの話でしかない。

愛なんて証明は難しいから、思い込むしかない。

「ゆっくり、考えていけばいいよ」

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