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7.だから世界が怖いのだ

 日付が変わる狭間まで、林檎の用意した脚本を読み砕いていた。

 帰り道に抱いた感情のように考える時間は心地よい時間だった。

 いばら姫は、百年の眠りについて何を思うのか。私だったらと考えたときには手遅れだった。

 このオリジナルストーリーでのいばら姫は原作よりもハードな道を歩く。

 本来なら目覚めて幸せで終了。この脚本には目覚めてからの物語が本題と言うまである。

 それは私にも通ずるものがあるからだ。


 ふと怖くなる瞬間が幾度となくある。私は、この脚本の主人公のように、取り残される日が来るのではと、成長が止まってからは表面上の変化が見られなく、このまま取り残されていくのだろうかと思うと、現実から目を背けたくなる。

 そうなった暁には、私は、目まぐるしい速度で成長し、変化する世界の中で、生きるために、永遠に働き続け、新しいことを次々と覚える必要があるのだ。いつか訪れるその時には機械化や、宇宙開発が進み、生活の形だけでなく正義の形までもが変わっているかもしれない。形を変える世界を相手にしてしまえばそこに生まれる恐怖を羅列。さすれば枚挙に暇がないこと間違いない。

 恐ろしく長い寿命があるのならば、寿命という壁によって志半ば阻まれてしまった研究者のような人種になるのが最も私が生きる上での最善手と言えるのだろうか。などと恐怖を消すためにいくらでも視野を広げてきたつもりである。

 しかし、いつまで経っても姿の変わらぬ、人間離れした自分を見る世界が怖くなる。

 私を見る目はどうなってしまうのか。

 捕まったりはしたくない。




 私は、林檎を携帯電話でコールする。

 彼女が発信者に向けて設定したであろう子供向け番組のエンディングソングは私の心とは逆に元気がよく、ハッピーを謳いながら耳を打つ。

 音楽は途切れない。そっとスピーカーモードにして携帯電話を置く。

 彼女の無敵は生きている限りの無敵なのか。寿命には勝てないのか。どうしても気になったからだ。彼女は私やいばら姫と同じように世界に置いていかれる恐怖を抱いているのだろうか。

 どれだけ携帯電話を握りしめようと林檎は出ない。それもそうだ。時刻は空の色が群青に変わりつつあることから午前四時付近。



 眠ることのないまま私は、今から寝ても変わらない世界を眺める。

 

 夏の朝にしか得られない素敵な気分があると思う。

 空はどうしようもなく涙が出そうになる色で染まっている。私はそれから目が離すことができない。

 窓を開き、格子にもたれ掛かるように私は外を眺める。

 田舎なので、誰に見られることもない。




 六時を知らせる時報が聴こえる。少し、心身とも含めてリセットしたいそんな風に思ってしまった。なんと言っても頭が痛い。さらに吐き気があり、食欲は湧かない。徹夜というものは、たとえ不死身でも体に悪いと思う。

 この精神的な悪さは、何か重大なミスを犯す気がする。

 さらに夜の恐怖は私に一度死ねと命令している。


 横にある携帯電話に映るのは林檎の書いた脚本。演劇の練習だから、悪くない。悪くない。

 私は「ごめん」と、誰に聞こえる訳でもない。誰に向けたのかも分からない言葉を発し、胸に刃を突き立てた。

 暖かく、赤い液体が体の中心から零れる。茜色に染まった空を眺めながら自室に倒れ込んだ。






 スマホのコール音に私は起こされる。

 体は元気だが、精神的に眠い。

 まだ眠りたいと云う心を起こしスマホを持ち上げる。

 時刻は、八時二十八分。二分後には、朝のホームルームが始まる。

 あっ。と慌てふためくが、手遅れだ。

 そして画面に表示されているコールの主は林檎である。

「今どこ?もうすぐ始まっちゃうよー!」と言うがそんなことは一年も通っているのだ。十分承知だ。

「少し遅れると、先生に伝えて貰える?」と、今は何も説明しない。そもそも、今でなくてもリセットするために心臓にナイフを突き立てたら即死できなかったために、眠りについてしまい、眠った後に回復してしまったとは到底言えない。

「電話がかかってきていたけど夜、なにかあった?」と訊くので

何を話したかったのかすぐには思い出すことができない。

「学校で話す」と通話を切る。

 体調をリセット済みなことから、軽い空腹感があるだけなので、必要なものだけ持って家を出る。



 

 コンビニで飲み物と、サンドウィッチを購入し保冷バックに入れる。

 強い日差しに目を細める。

駅に着き、未だに原始的な改札にて、「昨日、遅延証明書を落としていかれましたので」と、駅員さんに声をかけられる。

ありがとうございます。と受け取るが、濡れてしまったのか、判子によって押されたの日付があやふやになっている。

 7月22日だったのか23日だったのか分からないだろう。

 私はすれっからしの方法を思いつく。遅刻を消すという理由もひとつではあるが、遅延だと言えば、林檎への今朝の出来事を隠蔽することに使える。

 心配はかけてはならないから。




 二時間目の休み時間に学校に到着した。そこには、どこか不貞腐れている林檎が待ち構えていた。

 顔を見るなり「電車が遅延していた。」と、一言、言えばいいはずなのに言葉が出ない。

 言葉だけならまだ良い。そもそも私は目が合わせられなかった。

「やっぱり、一度死んだんだね。」静かなトーンで私に告げる。

 バレている『かも』しれない。と言いたいが、手遅れだ。彼女は確信を得て言っているのだろう。ゆっくりと見つめ返したその目には疑いが見えない。

「どうして?」と私は、穏やかに訊く。

「昨日。できかけていたニキビが消えているから。」

 前髪で隠していたはずのこめかみの少し上辺りを触る。言われてみれば昨日まで気にしていた、吹き出物も、もうとこにあったのかも正確に思い出すことすらできない。

 目を伏せたままの私に林檎は続ける。

「潰れたなら治癒したってわかるよ。でもそれに気がついていても、髪で隠そうとし、触らないようにしていたみかんが、わざとできかけを潰すとは思えない。」

 治癒するからいいやと潰すことは過去にはあったのだが、女の子として、何故か許し難い行為であり、潰した後に訪れる寂寥感に押しつぶされそうになることに嫌気がさしたのだ。

 死ぬのは平気で、それは嫌がるんだね。と、どこかの誰かに言われそうな気もするが、人間、誰しも、背に腹はかえられぬことはいくつも抱えて生きているはずだ。

「ごめん。」と、素直に謝る。

「次、目覚めなかったらどうするの?」と、林檎は、私の手を握る。

「ごめん。」

「死に嫌われていることはとても怖いことなのかもしれないけれど。今は普通でいいんだよ。急がないでよ。普通の人生の分だけ生きた後でも十分。遅くないから。」

 私の手に雫が落ちた。顔を見ていなかったから気づけなかった。

 彼女は私が死にたがりだと勘違いしてしまったのだろうか。

 見方を変えればそうなのかもしれない。

 泣かせてしまうとは。やめておけば良かったなと後悔する。

 不安定な精神は恐怖を生み、私の行動を狂わせただろうと心が云う。

 それでも重大なミスを犯してしまったと心が云う。

 無敵な君が私と同じような寿命を持っているのならば、どこまで続くかも分からない時間を私と生きてくれるの?と心が問う。

 それを友達に押し付けるのは我儘だよと、私は答える。

 そして、ならなぜ脚本ではどうして一度殺されるように書いたのだろうか。と、手をゆっくりと伝う、もう冷えた雫を眺め、求めている答えの出ることはない自問自答を繰り返すのだった。

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