4.二年ある高校生活の新クラスは
春休みの間、私は一度家族と八分もいかない。七分咲きといったところだろうか。そんな咲き掛けの桜を見に少し遠出した以外は特に何もなかった。
なぜなら花粉症だからである。
『不死身』なのに花粉症?と思うかもしれないが、花粉症とは、空気に触れているだけで持続的な傷を負っているようなもので、溺れている状況と大差ない。
ちなみに不死身でよく定義される溺死だが私はまず溺れない。溺死は酸素不足により致命的な損害が体に現れることで起こる。それ故、細胞が酸欠により傷害を負い始めたというだけで治癒が開始するため、水中呼吸ができる訳ではないが、軽く苦しい状態で永遠に水の中に居られるのだ。
それは空気の存在する地上でも同じことで首つりなどを試した時には、少し苦しい状況にてまるで「てるてる坊主」のように首を使ってぶら下がっているだけとなる。持続する身体への負担や損傷が起きる場合は解決される。その点、花粉症は窒息と同じなのではないだろうかと、一人考えていたが、アレルギーで気管が腫れることで死に至ることもあることを思い出して自己完結する。
なんて、過ぎ去った春休みを思い出しながら林檎からの「明日、一緒に学校に行こう!」のメッセージを改めて見る。しかし、送信された時刻は今日の零時十三分。明日が今日のことなのか、分かりにくい。さらに私がメッセージも確認したのは今朝で、
「今日の話ですか?」と、返しているが既読は着かず、学校の最寄り駅に着いてしまった。追加で「七時五十分までは終業式の日に別れたところにいます。」と送り、私は五分ほど待ったという状況である。
五十分まであと五分。天気は晴れ、満開の桜が遠くに見え、朝日の当たる場所はほのかに暖かく心地が良い。空を見上げていると通知音が鳴る。
ありがとう、了解のポーズをとる猫の絵文字。今、確認したところで、大丈夫なものなのかと、心配したが、二分後には到着した。
「ごめーん。日付の狭間で分かりにくかったよね。」
「私も人とわざわざ約束して登校するなんて初めてで全部勝手に決めちゃったけど大丈夫だっ……でした?」
私の根っからの真面目さが一度話せた中をも春休みの期間でリセットしてしまう。
「同級生だからタメでいいのにぃ。」
エイエイと、肘で押してくる。
「下級生にも敬語が出ちゃうから気にしないでよ。」
照れて攻撃的になってしまって申し訳ない。
「クラス替えが楽しみでさ~一緒に見たくてね。」
「確かにクラス替えかもしれないけれど私たちの学校は三つのコースで分かれているからコースが違うのなら難しいよ。」
「えっと、みかんちゃん、私が何コースか忘れているんじゃない?」と問われるが、教えてもらった記憶がない。
「ごめん。覚えてないだけかもしれないけれど分からないや。」
困ったぞ。知り合いを一人無くしそうな場面だ。
「え。休み前に宿題終えられなかったら教えてもらうって流れの時に言わなかったっけ?」と首を傾げている。あっ。
「そうか。宿題同じなのは同じコースだからか。」
「そーだよ。だから、コースはアカデミック。二クラスしかないから二分の一だね。」
アカデミックコースは、少人数制の進学クラスのため、二クラスしかない。
「クラス替えにおいての確率ってそんな単純なものだったかな。」
「隣の席になる確率は五、六パーセントになることは覚えてるよ?そうだ。同じクラスで隣の席になれたらいいね。そうだったら涙が出そうだよ。」
「私はこの、試験問題みたいな会話に涙が出てきそうだよ。」
「確かに。」
あははと、林檎は声に出して笑っている。正門が姿を現す。
クラスの張り出しは正門に入ってすぐに張り出されている。
「そういえばさ、理系?文系?」
彼女はまだ紙が見えぬ前に問う。
「理系だよ。」
なんの意味があってこの質問をしたのだろうか。
「なら一緒のクラスだね。」
笑うので張り出された紙を凝視する。
同じクラスである。
「ねえ。最初からそれを訊いてくれていれば、同じクラスなこと分かったんじゃない?」
「クラス替えは紙を見るまで分からないから面白いんだよ。これぞ、シュレーディンガ―の猫かな。」
フッっとどや顔をしているが
「はいはい。それはそれとして私が同じクラスになりたくて浮足立っているみたいになっているけど違うからね。」
「うんうん。嬉しいとな。私は友達と同じクラスになれてとっても嬉しいよ。では運命的なことに同じクラスということでよろしくお願いします。」
運命的ではないでしょう。と云おうとしたが、「運命」というのは勘違いされがちだが定められた未来のことであることを思い出いたので、飲み込む。―――友達か……。
「そうだね。よろしく。」
くるくると私を周回する彼女に挨拶をする。
私の出席番号は八番。林檎は三番か。確認できたところで私たちは一緒に教室の扉をくぐる。黒板には席順が貼り出されている。
「………」
私は沈黙する。
席は縦五人。横六人の左前から始まる出席番号順。
ふふふふふと、肩を揺らし、
「いい思い出作ろうね!よろしくね。」
手を差し出す彼女の手をとる。
そうして私は彼女の隣の席となるのだ。
なにか、すべて彼女に誘導されてきてしまったような気がするが、今日からの私は林檎の「友達」として過ごせるようだ。悪くはないスタートだろう。
二年生。始まりの授業は二時間もあるクラスミーティングだ。出席番号順で自己紹介が始まり、林檎の番がすぐに回ってくる弾けたクラスではないので前の二人は名前とよろしくお願いします。程度で終了していたのだが、彼女は「私は!真面目ちゃんクラスでも行事をエンジョイしたい!」と、熱烈に語りだす。締めは「体が頑丈だから色々任せてね!」と、心臓がヒヤッとすることを云う。私は、前に習えの人間なのでニヤニヤと楽しそうに眺める林檎をスルーする。私に「丈夫ではないですがすぐ治ります。」とでも言わせる気なのだろうか。
そして、二時間目には委員会決めであり、五つある委員会に二人ずつ配属される。
クラス委員を初めに決めなくてはならない。優秀な生徒がやってくれるだろうとこれもスルーするつもりでいたのだが、クラスで優秀な生徒が生徒会委員会に所属していることに気がつき前を見ると、担任が去年と同じ女性教師なので、私を眺めている。
仕方がない。挙手しておくと、進路を決める時に助かるはずだ。去年の後期もやっているから人望的な問題はないはずだ。
「ありがとう。星和さん。もう一人誰か。前期は文化祭と、修学旅行があるからさぞ、忙しいぞ。」
そんなことを云ったらもっと手を挙げなくなってしまうだろうに。あ。左を見る。
「私やります!」
「よし!木森さんで決定かな。では初仕事。後四つの委員決めを任せる。」
と、教壇を降りた。
「じゃあ行こう。」と、私に声を掛け林檎は前に出る。
私も立ち上がり前に出る。今まで何度もクラス委員や学級代表はやってきたがこんな風に前に出ることを誘われることはなかった。
どうやら林檎は青春を謳歌したいようなのでできる範囲内で協力してあげることにしてあげようかと寛容になってやる。
それと、林檎が動き回るのでチョークが舞うのでくしゃみがでてしまう。
これ、全然やり方が分かんなくてですね……ひとまずやれるだけやります……