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3.限りある帰路


「みかんちゃんって何組?」と、ひと笑いを終えた林檎は問う。

「十一組だけど、それも今日で終わりだけどね。」

 そうだ。今日は終業式だったのだ。学年の境目なのである。

「そうだった!次、学校に来るときはもう二年生なのか・・・つい最近入学したような気分なのになあ。」

「だからまだどこの組でもないよ。」

 仕返しに笑ってやるが、作り笑いが下手過ぎて上手くできているのか分からない。

 しかし、仕返しの意図は伝わったのか「ムスー。」と効果音を口に出しながら貸出シートを養護教諭の机に置くべく歩いていく。机に置いたシートを再び持ち上げ目を通しながら、「あれ、貸出シート一年になっちゃってるんだけど大丈夫かな。」などと言っている。

 学籍番号で分かるよと、本気で答えてあげるのもあれだなと、眺める。

 机の上に置き、彼女は振り返ると

「よしっ。これで用事は終わりかな。ならさ、電話番号か、メールアドレス、交換しない?」

 連絡先の交換を持ち掛けてくる。本来ならいきなりグイグイ距離を詰められるのは苦手なのだが、せっかくの特異体質との接触だ。ここで「さよなら、ばいばい。」は私としても残念である。

「うん。あんまり使わないから味気ないメッセージが多いかもだけど。いいなら………」

 メアド交換をしている友達の数が三十に満たない私はほとんどこの手のツールは親との連絡でしか利用されない。そのため、気の利いた絵文字などを持ち合わせているわけではない。

「え!そんなに会話してくれるつもりだったの!」

同情の言葉ではなく、何か嬉しそうだ。そんな反応されるとちょっと照れてしまう。

「うん。これ。」

 交換のため携帯電話の画面をさしを出すのだが、ツンデレみたいになっているのもまた恥ずかしい。

「私、課題とか休みの終わりまで引っ張ってっちゃうタイプだからさ、そこんとこ任せたし!」

 林檎は変なキャラまで演じ、ウキウキしている。答えは渡さないぞ。

「みかんちゃんのホーム画面、かわいい猫ちゃんだ。好きなの?」

「無難だから?使っている?かな。」

 正直、気にしたことがなく、携帯電話を買ってから一度も変えていないのだ。

「林檎はこれ自分?」

 画面には白い王子様のような服を着た林檎が映っている。これは普通に気になるので自然に会話が繋がる。

「そうそう。衣装合わせの時のなんだけど似合ってるでしょ。」

 エッヘンと、聞こえてきそうな満足げな表情だ。

 すると、チャイムと、最終下校時刻だと告げる生徒指導の放送が校内に鳴り響く。

「そろそろ出よっか。」

「そろそろ出ようか。」

 声が重なった。




 廊下を並んで歩くのだが、話題がない。こんな時に機転の利く話題をストックできていない自分が憎い。

「みかんちゃんさ、復活できるからって死んだらダメだよ。いつ復活できなくなるか分からないんだから。」

 シリアスな表情をしている。ここで「一日十回までは試したことあるから大丈夫。」と、返すのは少しサイコパスが見え隠れしそうなので素直に

「うん。ありがとう。それを言うなら君も頑丈だからって無理したらダメだよ?」とお返し。

「大丈夫!この前大型ショッピングモールの屋上から飛んでみたけど地面に埋まっただけだったし、私生活でそれ以上のことはないと思う……」

 後半になるにつれ言葉がすぼむのは、こいつの方が私よりも十二分にサイコパスが見え隠れしてたな。と私が不審な目で見ていたからだろう。実際この子は変な子だなとは思ってはいる。

 軽くため息をついてクスりと、笑う。そして

「高いところから落ちると私は一度ぐちゃぐちゃになるんだけどね。」

 そのサイコパスっ気に乗っかってあげることにする。

「もー。」

 怒っているのか不貞腐れているのか分からないが、膨れているが全く怖くない。

 それから駅に向かう路では互いの体質には触れることはなく、趣味やら、部活は?などと、ごく普通の会話を林檎が振ってくれた。

 林檎の趣味は古い神話や童話を読むこと。部活動は演劇部。苦手なことは計画的な行動。よしっ。覚えたはず。次会ったときには少しでも自分から会話の種を作れるようになるかもしれないと意気込む。しかし、私の苦手分野は人のことを覚えることのため、未来の自分がいささか心配である。

 事故現場の手前で「こっちから行こう。」と、先程の交差点ではなく手前の細い路地へと誘われる。

「そうだね。」

 実際、正面では警察が交通規制をしている真っ只中。さらに近づけば、カメラも見えることからマスコミの聞き込みの標的になりかねない。回避するに越したことはない。

 初めて通る道だが、日陰でかつ、細道がゆえに風が吹き抜けるので少し寒い。夏ならば素敵な道なのだろう。

「多分さ、警察が来る前に逃げるように私たち現場を去ったから探されていると思うんだよね、だから寒い道歩かせてごめんね。」ごもっともな意見だが謝ることではない。

「たまには違う景色も悪くないよ。」そもそも、誰かと帰宅している時点で私にとってはイレギュラーであることは云わないでおこう。




 駅までは思っていたよりも早く到着した。細い路地は、かなりの遠回りだったように感じられたが、そうでもなかったのか。

「電車だよね。私はこっちの道だからここでお別れかな?」

電車に乗るわけでもないのにわざわざここまで来てくれたのか。

「うん。電車。それと今日はありがとう。」と、送ってもらったことも、助けてもらったことも素直に感謝を述べる。

「ううん。気にすることは何もないから大丈夫だよ!春休み中、悪いこと考えちゃダメだよ~」と、茶化される。

「善処するよ。じゃあ。また新学期に会えたらね。」に、「またね。」と返事を頂き、身を翻す。エスカレーターに向かう。


 捜索されている可能性があったのならば私が送っていった方が良かったのではないのかと、エスカレーターの中間で振り返るがもうそこに彼女はいなかった。




 運の良いことに、電車に待ち時間無く乗車することができた。山から吹き降りてくる風はまだ冷たくホームで待つのは御免だから。

 電車に揺られながら、改めて手のひらを見る。回復が遅かったことが心に残る。しかし、その後の自害は、何事もなかったからな。やはり気のせいだろう。そして私と同じ特殊体質の林檎のことを思い出す。

 対人能力の低い私にしては頑張ったと、自分を褒める。

 私は二冊の本を取り出す。主人公と人語の理解ができている訳ありのクジラが新しい景色を求め広い大海原を駆け巡るSF小説。それと、とても考察が幅広く存在するリドルストーリーと名高い流行りの小説。

 私は私に似つかぬピックをする。今は未来のある物語の方がいいのだ。

 趣味である読書を親しみながら、ガタガタと三十分間。揺られ、私は帰宅するのだ。

慣れないことなので、とってもわちゃわちゃしています……

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