4.キャッチボールは会話のキャッチボールも押し進める
係決めはすんなりと終わった。即ち、私たちの仕事もすんなり終わった。
小耳に挟んだのはスポーツ推薦の中でも頭のいい子がいるらしく、その子が体育委員はやることとなった。
林檎と私のふたりが席に戻ると、横溝先生による今後の予定が話される。
ある程度の授業の配分や、教科書の配分、タブレットの使い方。
目をまん丸にして、「え?学校でこんなの使えるの?」と林檎と見つめあってたら話題は球技大会へと移っていた。
球技大会と言えば、サッカーやバレー、バスケットボールなどが選ばれるのかと思っていたのだが、どうやら、ドッチボールらしい。
思ってたのと違ったというのは悪い意味ではない。
「あんまりやったことなくて、既にワクワクが止まらないよ!」
「ほんとにね小学生以来だよ。」
ルールが変わってないなら問題ないだろう。
久々に遊ぶゲームが楽しいと言われるように久々にやるスポーツも楽しいものだ。
「それって何年前??」
林檎はニヤニヤしているが、おばさんとでも言いたいのか。
「手についてるインクつけるよ。」
ほれほれ、私は、手を出して振ってみせる。
「やめ。やめ。それよりも放課後キャッチボールしない?」
「練習?気が早いね。」
「もうボールを投げたくて仕方がないんだよ。」
「じぁ河川敷でやろうか。」
ボールを近所迷惑にならない状態で投げられるのは林檎の掘っ建て小屋があったところぐらいしか知らない。
授業が終わると、私たちはショッピングモール内にある百均にて、ボールを購入し、掘っ建て小屋があった場所へ向かった。
キャッチボールを始めてみると、どうしてか、投げる時に言葉も投げかけてしまう。
「いざ来てみて思うのがさ、みかんってさ、本当にあそこに住んでいるって信じていた訳でしょ。騙されやすいから気をつけた方がいいかもしれない。」
「それが嘘だってわかっていてもきっと、病院生活だったなんて気が付かなかった。私の後悔。」
「まっ、今、こうやって地面に足をつけて立って動いている訳ですからっ」
「わざわざずっと病院の一室を借りてるわけだからさ、出てって貰うって話も出てたんだよ。だから本当に、ギリギリ。」
「どこにも行くあてがなかったらここの掘っ建て小屋に入れられていたかね。」
「さすがにそれは・・・あ〜でも、汚れないんだもんね、庭とかで野ざらしだったかもよ。」
「服は劣化するよ。」
即答でびっくりした。
「問題はそこなんだ。」
「乙女として1番重要な部分だよ。」
笑って、コントロールが上手く効かず、ボールが変な方角へ飛ぶ。
「失礼なこと言うから変な方行くんだよ!」
それから1時間ぐらいは投げるだけでなく、蹴ったり、ついたり、と、ただのボール遊びへと姿を変えていった。
オレンジ色に染まる堤防を歩きながら、
「私さ、前回の文化祭の時、林檎が体調が優れてないこと、気がついてあげられなかったよね、だから、今も、いつでも、なにかあるなら伝えてね。」
そもそも、気がつけない私に情けなくなるが、教えを被ることも無く、突然いなくなられる方が情けない。時間があるのならば、対策する方法を考えることもできる。
プライドなんて捨ててやる。決意をしている私に対して、
林檎はニコニコと、
「鈍感で、騙されやすいことは、十分知っているからね。ちなみに、今は、目覚めてるだけで奇跡だから、しばらくは抱え込まずに済みそうだから大丈夫。ちゃんと今を噛み締められている。」
「なら、噛んだ時に甘さも酸っぱさも苦さもあった方がいいかもね。」
「なら、それは、1人で達成できないね。伝えることがないって言ったばっかりだけども、よろしくお願いします。しなきゃだね。」
「任されたよ。」
彼女は今も、なにかと戦っているのではないだろうか。本音を引き出そうと思ったが、これ以上は、逆効果である。
私が与えられるのは『味がする今』、時間に置いていかれている時点で少し不安が残るが、善処しよう。
私が、一人にならないためにも。
彼女が、一人にならないためにも。




