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17.終わりとは言わせない


 病院の入り口にて看護師によって検温をさせられる。少しの時間も惜しい。エントランスまで走ってゆく。

 しかし、一通り見渡すが林檎の姿はない。

「みかんさん。みかんさん。」男性の声に呼び止められる。足を素早く止め、男性の方を向く。

「林檎の父です。聞いていただきたいお話があります。」その声に力はない。

「林檎はどこに・・・?」

「今からお話することはその答えにもなると思います。」と言われても状況が全くつかめない。私には

「わかりました。」と、答える以外の選択肢はない。




 私は林檎の父親に連れられ、入院病棟に入る。

 そして、待合室、対話室として使われるのであろう個室に入室する。

 そこには見慣れた林檎のスマホ握る。きっと彼女の母親だ。

「ごめんなさい。」そう、泣きながら二人で頭を降ろす。私には分からない。

「いま、何も理解できていなくて。私の方こそごめんなさい。」

 私も頭を下げる。建前などでは無い。何も分からないのは事実であるのだから。

林檎の父親は頭を上げると、

「では、お話します。少しお時間を頂きます。どこから入るといいものなのか、私もまだ心の中も頭の中も整っていなくて・・・・」

彼は、一つ深呼吸を置く。

「林檎は、数年前に癌になりました。といっても、小学五年生の頃に発症したのでつい最近ではありません。右足の膝にできた小さな癌でした。それは、早期発見で問題がないものとも思われるかもしれません。発見に至った理由は膝に違和感があるというので、成長痛だろうなどと、少しの間放置していました。しかし、その彼女のいう違和感は私たちの思っている範疇を超えていたようで、半年ほど経過したときに片足の感覚がないと言いながら立つことができなくなりました。」

 彼は母親の汲んだお茶に手を伸ばす。

 林檎は私と出会った日から普通に歩いていた。話と繋がらない。

 つい、数日前にも、彼女はしっかりと立っていた。

「立つことができなくなった日から林檎は入院し、検査をすることとなりました。血液検査や、レントゲンなどを重ねるうちで癌であると、診断されました。問題はここからでした。ただの癌ならば切除することで生活に不便は出るものの生きてはいることができる。しかし、そのがん細胞は少し特殊で、本来ある機能を失うものではなく、『不変』であるということにありました。」

少し間を開ける。

「ここまでで何か質問はありませんか?」優しく父親は問う。

「私は、彼女の体質についてある程度知っていました。しかし、『不変』というのはいったいどのような特性で、『無敵』という体質を持つ彼女のなかでどうして、広がることができたのでしょうか。」

 林檎は、彼女が言っていたではないか『無敵』であると。それとも病には勝てなかったのか?どうして・・・?

「林檎は、自ら、体質が『無敵』だと説明したのですね。でも、それ自体が少し違っているのです。それは、『不変』の特性を持つ癌が体を侵食した結果なのです。それ故、『不変』の特性はみかんさんが見てきた『無敵』と同じものなのだと考えて頂いて構いません。癌の進行は早く、気がついていないだけ、体の半分まで蝕んでいました。始めは入院をしていましたが、『不変』である肌には傷もつけられません。手術ができないのです。このまま、病院で一生を終えるのなら少しでも人らしくいたい。そう言って病院を抜け出すようになりました。感覚のない足で立つのは難儀であったはずなのに彼女はやってのけました。そして、高校生を迎えたころに、味がしないと、言い出しました。そして、同時期に医者に告げられました。頭まで癌が侵食した時、目覚めることもなく、どうすることもできない『不変』の仏像のようになってしまうと。」

 味がしていなかった?

私は、私を恨んでいた。どうして。気づいてあげられなかったのかと。どこかでSOSを出していたのではないだろうか。唇を強く噛みしめ私は

「今は意識があるのですか?会わせてください。」と。

 二人は目を合わせてくれない。

 少しの沈黙ののち、途切れる声で彼らは教えてくれる。

「癌は、『不変』である特性を強く使えば使うほど、体の侵食を早めるのです。それ故、昨日の台風で洪水によって流された乗用車を助けるため、少し体を張ったようなのです。車両を掴み上げ、その後、お礼を聞いている途中で動かなくなり、倒れたと聞きました。本来なら後、三か月は大丈夫だと先生には言われていたのに、無理をしてでも人助けをしてしまったのでしょう。」

 私も、あの日助けてもらった日には彼女は大きく寿命を減らしていたのかもしれない。

 もともと三か月しかなかったから、修学旅行にこだわったのか。

 後悔はしてもしきれない。

「そして・・・二つ隣の病室に行ってやってください。」

 二人は涙を流し、私との会話を続けることはできそうになかった。

 



私は個室を飛び出し、「木森林檎」と書かれた病室に飛び込む。

 少しだけ目を開き、仏像のように静かに鎮座するその姿を見て、私は言葉も出ない。

 体の全身を『不変』の癌に乗っ取られた林檎の躰に抱き着き、強く抱きしめる。

 信じられない。だって。おとといまで元気に。元気に。

 泣いちゃだめだ。泣いたら認めることになってしまいそうで。

 死んでないなら助ける方法はあるはずなのだ。

「どうして話してくれなかったの?」私はしゃべりかけるが返事はない。

「ねえ。聞いてる?」

 どうしようもなくむしゃくしゃして林檎の胸を軽く叩く。

くよくよはしていられない。よく思い出すんだ。彼女と出会ったその日からのすべてを。

私に接触してきたことが運命だといった彼女は何か自分が幸せになるためのヒントを見つけたから私に接触してきたはずなのだ。




個室に戻り、私は彼女のスマホを貸してもらえないかと頼む。

文化祭のあの日から変わっていないのなら、ロック解除はできるはずだ。




日記をつけるタイプではないため、日記アプリの中は空だ。遺書みたいなのを残していたなら、殴り飛ばしてやるところだった。写真を開く。


 私の写真ばかりだ。こんなにも撮っていたのか。

 私、こんなにもいろいろな顔していたんだと恥ずかしくもなる。

 


 クラスの振り分けを見た後に変な顔をしている私。

 散りかけの桜の花びらを拾う私。

 宿題のプリントに顔をしかめる私。

 冬服の私と夏服の私。

 何気ない帰り道の夕焼けと私。

 川で魚を真剣に握る私。

 花火大会会場でりんご飴を持っている私。

 学食で唐揚げ定食の量に驚いている私。

 文化祭二日目の屋上での私の寝顔。

 修学旅行のしおりを眺める私。

 席順をクラス委員として指さす私。


 


 見てばかりはいられない。出会った、三月末を見る。しかし、彼女の写真の枚数はとても少ない。そんなに写真を撮るタイプじゃなったんだ。

 それなのに私の写真をあんなにも撮っていた。

 枚数が少ないため、一月頃までが見えてしまう。

 横にあるショッピングモールの屋上の写真だろうか。タップする。

 動画だ。誰かが縁に立つ。そんなところでは落ちてしまうだろう。私はそこに立ったことがあるから分かる。

 

あるから。分かる・・・。

 

動画は進んでいくと両手を広げ爽快感溢れる落下をする。

下で、バターンと、音が響く。そして、数秒後に立ち上がる。

その姿はまるで。


動画をズームアップする。ぼやけて見にくいが、うちの学校の女子生徒だ。

言い換えよう。私である。


 どうして?私が?



 どうして、彼女は出会った日から、私に、体質を使うことを止めようとしたのか、それは彼女自身に制限があったからだ。


 私に忠告するためだけに君は、私のところに来たのかい?

涙があふれる。

一緒に食べたケーキも、飲み物も、屋台の料理もすべて、味も感触もないのにわざわざ一緒に笑って食べてくれていたの?どうして伝えてくれなかったの?

いつか失われてしまうかもしれないと、私に教えるため?そんなの、要らなかったよ。

いま、痛くて、痛くて仕方がないよ。

治らないよ。心の傷は。

『不死身』は体だけだよ。どうして。どうして。置いていったの?




我慢できない。涙が林檎に垂れる。顔を撫でる。

死んでないなら返事してよ。


林檎のスマホにカレンダーの通知が入る。

[みかんと修学旅行!まずは二人で班行動!!]

なんで。なんで。

 喚く。なんで。なんで。縋る。

 メモにあるのは文化祭の脚本のみ。

 林檎はもう目覚めないじゃん。百年先も。

 いばら姫は林檎じゃん。

 



何十分こうしていたことだろう。私の涙で林檎がびちゃびちゃだ。

ポケットティッシュを取り出そうとする。

ティッシュを掴んだと、私は取り出すが、てるてる坊主である。

相変わらず。頭の大きい不格好なてるてる坊主だ。


 台風どころか、林檎がいなくなった。てるてる坊主は、なんの意味もなさなかった。

 林檎が確かに私の横にいたことを示す。

 そのてるてる坊主は林檎の想いを背負っているはずだ。

 中の紙を出す。叶わなっかった願いには一体。何を書いたのだろうか。


 

 『あなたの感触だけが感じられた。

  あなたと食べるものだけ、味がした。

  あなたの温もりだけが伝わった。

  もう二度と感じることのないと思っていた

  青春を。奇跡をくれてありがとう。』

 願いを書かなきゃダメじゃないか。紙に雫が落ちる。

 思い出せば、様々なシーンで彼女はSOSを出していたのに。

 永遠の寂しくならない使い道、私、見つけたよ。

 目的が無くて怖いこともない。今は独りだけど。また横に並んで歩ける日を目指して歩くから。

 

 せっかく、せっかく泣き止んだのに。

 今はまだ、ダメみたい。私が感覚をあげられていた?そんなこと、私が考えても分からない。

 でも、もしかしたら、私ならいつか、また、彼女に感覚を届けられる。その希望を抱かせてくれたそれだけで十分。




 唇に着いた私の雫を指でふき取る。




「劇のとき動いちゃってごめんね。」




 その唇に自分の唇を落とすのだ。

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