16.台風一過は私の違和感を連れて
修学旅行は予想が難しいとされていた通り変則的に進んできた台風によって、一日遅らせることとなった。
台風接近に伴う線状降水帯が一番の原因であることはニュースを見ていれば分かる。
楽しみだけを詰め込んだキャリーバッグは部屋の隅で静かにしている。
修学旅行が一日遅れたことは林檎にとってショックなことだろうと、私は一本のメールを送る。
「台風、明日までに去ってくれるといいね。」と。
やることもないので各地の被害状況報道を再び眺める。
川の氾濫、増水。暴風。洪水。各地で被害が出ている。修学旅行先である。地域に大きな被害がないことが確認できた頃には、お昼となっていた。
私はトーストに小倉を塗り齧る。すでに、夏休みに食べたあの大きな小倉トーストが懐かしい。
不要不急の外出は控えるように。と、報道されている通りに、私は外に出ることはないのでお風呂に入る。
湯船に浸かりながら私は鼻歌を歌う。
お風呂から上がると、つけっぱなしだったテレビに、学校付近の様子が映る。洪水が発生とのことだ。被害がないといいのだが。
夜ご飯を作っておいて欲しいとの親からの要望に応えるため、シチューを作る。台風が近いときは肌寒いと感じるのは決して私だけではないだろう。
夕ご飯を、作り終えたころに親は帰宅し、ご飯を食べる。
修学旅行に出発していたらあるはずのなかった、違和感が消せない今日を私は謳歌したと言い聞かせる。
私は寝る前にもう一度忘れ物はないかと、入念にチェックを行う。
あんなにも楽しみにしていた林檎のことだからしつこいぐらいに連絡を寄こしてくるかと思っていたのだが、もう寝ているのだろうか。
私も、明日も早いので早々に眠りにつく。
午前五時。アラームをとめ、私はニュースをつける。朝ごはんを食べながら、台風が完全に過ぎ去ったことに安堵する。私は、学校に出発する。集合時間が六時三十分であることから、普段のようにのそのそと歩いてはいられない。
落ち葉や、小枝など所々に、台風の傷跡と呼べるほどでもないので足跡と呼ぶべきか。それらが残っている。
学校の最寄り駅に到着した時点で、あることに気がつく。
今日は一緒に登校しようと、言わないんだな。
昨日も連絡をしてこなかった。不思議である。
鞄の横ポケットからスマホを取り出す。
林檎とのトークを開くがそこには昨日の朝に送ったメッセージにも既読はついていない。
どうしたのだろうと、「大丈夫?」とメッセージを送る。
すでに学校にいるのかもしれないと、学校に足を急がせるのだった。
学校に着いたが林檎の姿は確認することができない。
教室に行くも見当たらない。
てるてる坊主が解れて落ちてしまっているので、拾い上げ、捨てるのももの惜しい。置いておくわけにもいかないのでポケットにしまい込む。
他の生徒にも、訊ねてみるが、まだ来ていないと思うと、言われてしまう。
メッセージに既読はなし。電話をかけてみることにする。
教室から出て、他の生徒たちから離れ、私はコールボタンを押す。
相変わらず、子供向け番組の騒がしい音楽は中盤へと差し掛かる。
出ないかと、思ったその時。
「はい。」林檎のようで少し違う声の女性が電話に出る。
「林檎じゃないよね?」心配になり問う。
「えっと、みかんさんですか?」
林檎は私をさん付けでは呼ばない。別人ということで間違いはないだろう。何を次に云うべきか私は数秒悩むが相手方の方が先に口を開く。
「申し遅れました。いつもお世話になっている林檎の母です。林檎から聞いているとは思いますがやはり、修学旅行には行けそうになかったようです。」と。
状況が理解できない。というのは今のことだろう。修学旅行に行けそうにない?それはどういうことで、私はその話を聞いていると?
「えっと、ごめんなさい。お世話になっているのは私の方です。それと、行けそうにないというのは・・・?」
私は動揺で敬語もおかしくなってしまっている。
「まさか聞いていらっしゃらない?」向こうからは悲壮感漂う声が聞こえる。
通話越しに後ろから、男性の声が聞こえる。聞き取れないが、林檎の母親と自称する人物に何か伝えているようだった。静かにしていると、
「みかんさん。無理を承知で近くにある徳誠会病院まで来ていただけませんか?修学旅行に行かれても大丈夫ですので、どちらでも・・・」
「私、林檎としか班を組んでいないので、林檎がいないなら行ってもいかなくても同じです。向かわせていただきます。」
「エントランスでお待ちしています。」
通話は切れる。『無敵』の彼女が病院に運び込まれることは少し不自然である。親族が倒れたというのが可能性としては高いが、修学旅行を休んでまでのことなのだろうか。
そもそも私は、どうして呼ばれたのだろうか。
急いで会いに行けば修学旅行の出発に間に合うかもしれない。
あんなにも楽しみにしていた修学旅行という。学生生活の山場を林檎に失わせるわけにはいかない。
足に撥ねる水などお構いなしに私は病院まで全力で走った。




