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13.文化祭一日目!



 十月第一週の土曜日。文化祭の幕が上がり、太陽も昇りきった午後十二時十四分。

 校舎の様々な場所から色とりどりの垂れ幕が張られ、自分たちのクラスの売上順位を上げるべく呼び込みを行う生徒たちの声が響いている。

 一般の来客が可能なことから、普段よりも多く人の集まる学校はなんだか、不思議な感じだった。

「流石。県内最大の高校文化祭だね。」

 すでに、ウサギの変装を施している林檎が言う。

「今日は、沢山食べなくてもいいの?」

 すでに、たくさんの食べ物を食べているならば別なのだが、

「今日は、緊張しているから。」

「え。緊張なんてするタイプだったの?」驚きだ。

「自分の書いた脚本だよ?反応悪かったらどうしようとか考える訳よ。」

「演技が悪くても反応悪くなるから、脚本のせいではないかもしれないのに?」

「うん。」

 人で溢れかえった校庭を進む。おいしそうな匂いがする。

「林檎、かなりいい匂いがするけど。」

「うん。そうだね。」

 あまりにも元気がないような気がして私は違和感を覚える。林檎のことだから、体調などの問題ではないだろうがここまで静かだと心配になる。

「大丈夫?」

「ん~平気だよ?どうかした?」

「別に少し気になっただけ。」

返事にも覇気がない。劇は大丈夫だろうか。




 私たちの劇は十三時三十分開幕となっているため、準備の為に教室に戻る。

王子のいない、なぜか医者だけは沢山いるこの劇は、序盤には女性のお目付け役と、ウサギだけが姫のそばにいる。

親は最新技術を集めるのに翻弄していて、眠りにつく恐怖に怯える姫の気持ちなど理解はできていない。

 そのため、キャストは三人であるため序盤は私、林檎、武藤さんの私たち三人にかかっている。

さて、開幕だ。

「私は、十五歳になったら、百年の眠りにつく呪いを精霊によってかけられました。」

「お嬢様。それは一体どういうことなのでしょうか。」

物語は状況説明のような会話からスタートを切った。

人語を理解するウサギと仲良くしたり、事実を知った親が奔走するシーンが過ぎ、眠りにつくシーンへと移り変わる。

「おやすみなさい。」私は棺桶のような眠り籠に横になる。

 蓋が、締められる。

 暗闇で私は思う。次に目を開くときには世界が今とは違う世界になっていたら。恐怖は私を襲う。

 早く出たい。

 

 車のクラクションの効果音。合図である。

 私は目覚める。

 恐怖で足がすくむ。演技ではなくふらつく。

 先ほどのノスタルジックな景色に変わってビルに置き換えられている。

「この世界はどうなってしまったのだろうか。これからどうなるんだろう。」

 アドリブで私は恐怖が口から零れる。

 暗転。移動しなくてはならないが、急に暗くなると、私は自分の立ち位置が分からなくなる。

「こっちだよ。」

 林檎が私の手を引く。

「ありがとう。演技で泣いたせいか声がかすれちゃっているよ。」

 どうして。私は怖くてと、言えないのだろうか。




 少し時間は飛んで、私は現代社会でバイトをするカットから始まる。新しいことを覚え、頑張る手が震える。

 永遠に繰り返すかもしれない。この努力と、無駄になる知識と、人間関係。

 私は、夜までのシフトを、終わり、街灯の下で、倒れこんでしまう。

 ここからは、救急搬送され、病院で治療され、普通の人間に戻る。


 幸せなハッピーエンドだ。

 看護師役で林檎が私に触れる。どうしても涙の止まらない私の頬を撫でる。そして、

 いきなり顔を近づけてくるので驚いて顔を反らしてしまう。

「頑張ったね。」と、言われながらハグをされて終わるだけのはずだ。

「怖かったね。」セリフが違った。


 そして、幕が下りる。拍手が私の鼓動に響く。この脚本は本当にどうしても私に刺さってしまうな。




「超よかった!」

「これは劇部門で一位。」

「ナイス演技。」

ステージ裏で、去年の私には考えられなかった歓迎が私を包む。

「林檎がフォローしてくれなかったら危なかったよ。」

薄暗いステージ裏は明るく見えた。

「ふふふ。怖い。助けてって聞こえたしね。」

「そんなこと言ってないよお。」

 下手ないじり方をされると恥ずかしくて、体がムズムズする。

 みんなが笑うから余計に恥ずかしい。

 ともあれ、無事に劇は終わった。




 学校の屋上から眺める文化祭は私を世界から分離しているような感覚を与えてくる。

「無事に終わったね。」

 緊張で食べられないと言っていた林檎もこれで一安心だろう。

「良かったけど、あんなに泣く予定だった?」

「えっと。ちょっと思うところがあって・・・」

 痛いところを突かれた。

「自分もいばら姫のように世界に置いていかれて、擦り切れるまで努力を積み重ねて生きていかなきゃいけないとか思っている?」

「え・・・?」

「そんなことだろうと思ったけど。正解だった?私、大正解じゃん。でも、大丈夫だよ。みかんなら。もう、あなたを支えてくれる人はいる。擦り切れるまで努力せずともきっと、何とかなるよ。現代医学もあることだし、相談したら案外、一瞬かもよ?それに、そんなことばかり考えて生きていたら、せっかくの青春もあっという間に終わっちゃうよ。」

「『無敵』の体質を持っていても、今という時間は大切?」

「大切だよ。『無敵』だからこそ大切なんだ。失うものが大きくなった時に気がついていちゃ、手遅れだからね。」

 どうしてだろう。今、私は普通の女の子と会話しているような感覚を覚えている。

 ここまで話させておいて、一緒に生きてくれると、提案はしてくれないんだな。

「そうだね。」

 まだ、出せそうにない勇気を秋風に乗せて離すのだった。

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