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8.始まりには暖かすぎる日である



 学校で終業式が行われ、サウナと化した体育館で行われた全校集会にて「羽目を外しすぎないように。」と、注意を受けてから、はや一週間。

 課題も順調に進み、私は個人的な課題に直面していたのだ。




 夏の醍醐味のひとつ、蝉による大合唱もピークを迎えている八月の朝。

 空には、雲が2割程ふわふわと存在しているのみで、刺されるような陽射しが降り注いでいる。

 駅前の日陰には私と同じように、それぞれの待ち人を、汗を拭いながら待っている。

 時刻は午前八時五十四分。約束の時間までは残り六分だ。

 そう。今日は、約束の花火大会の日である。元々の予定であった八月末の夏祭りと並行して行われるおまけのような花火大会ではなく、八月月始に行われる。国内屈指の大きな花火大会に向かうのである。

 今日の計画は事故と称し、少し危険な行動に出る。そこで林檎はどんな反応を起こすのか。『無敵』がこの町の中だけであるのならば、普通の人と同じ反応を示すだろうと考えたからだ。

「三分前に到着!それでも待った?金属部分が暑くなってきていたみたいで、小屋の中なのに日の当たるところでペットボトルが溶けちゃっていて焦ったよ。」

「待ってないよ。三分ほど前に来たところだから。それより、ペットボトル、危険すぎない?中身が入っていると火事の元らしいから気を付けてね。」

「虫眼鏡みたいになるやつね。あのあたり焼け野原にしたら怒られそうだもんね。」

ペットボトルの話題で彼女の持ち物をサラッと見るが飲み物を持っていそうにはない。

「電車は九時十二分発だから、駅の中のコンビニで飲み物だけ買っていこうよ。私も来るまでに減ってしまったから予備も欲しいし。」

「よしいこう!」そう言いながら彼女はウキウキで私の前を歩き出す。

 今のところでは、いつもと変化はない。彼女を知るには時間がかかりそうだ。




 電車の時間ギリギリまで空調の効いたコンビニにて時間を消費した。

 電車の中は帰省ラッシュということもあり、格安を追い求めるあまり、特急ではあるものの、自由席で、座れないという出だしは悪かった。

「ここクーラーも当たらないから、やっぱり指定席にしたらよかったね。」

「ハプニングが楽しいんだよ!」と、聞こえた所で誰かが背負っているリュックに押されて距離ができる。降りる所は二つ先の駅ではあるが、二十分離れてしまうのははぐれる可能性がある。できるだけ離れないようにと私は林檎に近づく。

 林檎の懐に侵入できたようなのでひとまず安心だ。ハプニングも楽しいことかもしれないが、ないに越したことはない。つり革がなく体勢が安定しないので、近くの座席の横にもたれかかる。

「みかん。暑い。暑い。」あれ?声が横から、聞こえてくるので、振り向くと、私は林檎にもたれかかっているようだった。

「ああっ。ごめん。」真夏に密着するのは流石の林檎も暑いらしい。良い収穫だ。

 しかし、もたれかかっていないとふらつくので

「肩、持ってもいい?」両手が荷物でふさがっている林檎に支えてくれというのはいささか問題を感じるが

「いいよ~」と、了承してくれた。

 私は林檎の肩につかまり、二つ先の駅で下車した。乗り換え先は新幹線だ。

「次は待ちに待った新幹線!」

 林檎の声が聞こえにくくなるほどの轟音で通過する新幹線を目の前に、両手を挙げている。

「そんなに珍しいもの?」私は素朴な疑問を口にする。

「私、新幹線を使うような旅行にも行ったことがないし、修学旅行に行けなかったから乗る機会を失っちゃって。」

 修学旅行に行かなかったのか、行けなかったのか分からないが、ここで理由を訊くのはこれから旅行に出るのに向かない会話であることは私でも分かる。

「修学旅行だったら今年も多分乗ると思うから今年は二度も楽しめるね。」

そして付け加える。

「指定席だけど、自由に座れるみたいだから、なんと。隣に座ることもできる。」

「わお。それは楽しみ。どこに行くのかもはっきり覚えていないけど……」

「去年と同じようならば、広島、長崎だと思うけどどうだろう。」

「発表されてからのお楽しみってやつだね。」

「ね。」

 修学旅行の楽しみが増えることは、彼女の目標達成に貢献できそうだ。

 目の前に先程よりも小さな轟音で、新幹線は停車する。

 ハイテクな扉はまるでどこかのロボットが取り出す秘密道具のようだ。

とても楽しそうに「行こう。」と一足先に電車に入った林檎が笑いかける。

「ここからが本番だよ。」

 私は新幹線の慣性に『無敵』が発動しないことを祈るが、自分で制御できるんだったっけ。と、新たな疑問を抱えながら楕円形の扉をくぐった。

まるで小学生の頃の夏休みの一課題として研究を選んだ時を思い出す。

 名前を付けるなら、林檎の観察日記となりそうなものだ。

 まるで植物研究で、林檎の木を育てているような題名になってしまったと、自分のネーミングセンスの欠落に一人笑いそうになる。

「何を笑っているの?」と、彼女は訊く

「林檎のこと。」と、おちょくってやるのだ。

 目的地まで三時間強。旅は始まったばかりだ。

忙しや忙しや……

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