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「…………シル……君に拒否権はないよ?」
するりと髪の毛を触りキスを落とす。
(ひぇえええええ。聞こえてんじゃねーかよ!目が……目が笑ってない………)
(まずいまずい!!次の一手を間違えれば詰む!!まずい!!)
私はこの場を納めるために頭をフル回転させる。
どうにかして、ヤンデレ野郎を納得させないと……婚約者候補どころか、どっかに拘束されかねない……
「……聞こえないって……いったから……意地悪してみたんです……」
プッと頰を膨らませて、プイッとする。
(ちょっと…臍曲げてるかんじで……)
「………あぁ……なんだぁ…。不貞腐れないでくれよ」
殿下が私の頬を人差し指でぷすっと押す。チラリと見ると.さっきまでの目の奥のドロリとした闇は無くなって、綺麗なアクアブルーの瞳が柔らかい笑みでシルリアを見ている。
(………首の皮一枚繋がった??)
いや、首の皮一枚繋がっただけでは困るのだ。
婚約者候補からなんとしても逃げなければならない。
(なんだか、すでに興味持たれてる気がするのが怖い……)
殿下は私の髪の毛でクルクルあそんでいる。
もしかして、原作補正みたいなのがあるのだろうか。それだと困る。
「あの……殿下……私……殿下のお嫁さんは荷が重いです……頭も悪くて妃教育なんてついていけません……」
か弱い不安いっぱいの女の子を演じる。涙を浮かべて上目使いも忘れない。
「…………」
殿下の顔が真顔になる。先ほど引っ込んだはずのドロリとしたものが目の奥からズルズルと這い出てくる。
「………っ!!!」
(まずい!!あざとい作戦でも厳しいのか!?!?)
シルリアは必死で考える。考えろ!考えろ!!
殿下は髪の毛で遊んでいた手を私の手に絡ませてキスを落とす。その手に込められた力がだんだん強くなっていく。
(まずい!まずい!これ誘拐されるかも!!)
ヒロインがアルド王子殿下の求婚を断り続けた場合のエンドで誘拐拘束バッドエンドがあった事を思い出した。
「……っだからっ…でっ…殿下………恋人というか………お友達から……はじめませんか!?!?」
苦肉の策である。
「………それはどうゆう意味かな……?」
手に込められた力が少し弱まった。
(凄く痛い……このクソ野郎………)
もう泣きたい………本当は友達でって言いたかったのに……それじゃ引き下がらないのは直感で分かってしまった。