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コンコン

「失礼します」

紅茶を一杯飲み終わり一息ついたタイミングでメイドが戻ってきた。

嗅ぎ慣れた香ばしい香りがする。

時間にして5分も経ってないと思うが…仕事が早いメイドである。


「お待たせしましたお嬢様。申し訳ございません。キッチンで他の紅茶を探しましたがお嬢様が求められる紅茶がございませんでした。

代わりと言ってはなんですが珈琲をお持ちしました。」


全然待ってないから、頭は下げなくていいのだが……

目の前に珈琲が置かれる。


「お昼までには新しい紅茶をご準備いたします。

料理長に確認したところお嬢様は、まだ珈琲は飲まれた事がないとの事でしたので、気分を変えたいとのご要望はこちらでも叶うかと思いお持ちしました。

初めての珈琲を飲みやすくするためミルクをお入れしてもよろしいでしょうか?」


前世で飲み慣れた珈琲なのでブラックでも正直大丈夫なのだが……

(気遣いを無碍にはしたくないわ)


こくんと頷くとメイドは珈琲カップを持ち上げミルクを注いだ。

(わざわざ持ち上げたと言う事は…)


「わぁーーー!!!」

思わず心が躍って声が出てしまう。あっという間にハートのラテアートを作ってしまったのである。

一口飲むとなめらかなミルクと珈琲の相性もバッチリ。珈琲が身体に染み渡る。前世であらゆる珈琲店を巡ってきたが上位にランクインする出来栄えだ。


(ヤバい。この珈琲毎日でも飲みたいわ)

思わず笑みが溢れる。


「………っ……お、お嬢様。あと、もう一つ紅茶の辞典もお持ち致しました。あまりお詳しくないと仰っておられましたので、伯爵様にも許可をもらいまして、蔵書の一つをお嬢様に差し上げるとのことです。」


珈琲の味に感動をしていたところに、もう一つ嬉しい事をこのメイドはしてくれる。


(このメイド仕事できるわね。確かにたくさんの紅茶を飲もうと思っていたけど、私そんなに詳しくないのよね。)


本をペラペラとめくる。主にこの国で流通している紅茶の種類がイラスト付きで書かれてある。地方でよく飲まれるかどうかまで細かく書かれている。この辞書は使えそうだ。


「ありがとう。ちょうど頼みたいと思ってたのよ。助かったわ」


「………っ………ありがとうございます!!」


すごい勢いでお礼を言われた気がする……大袈裟な……ちょっと苦笑いしてしまう。

でもたった5分でこれだけの仕事ができてしまうとは化物ではないか……お父様に話をつけるだけでも時間はかかるだろうに……

恐ろしいメイドである。


「………ねぇ、……ちょっとおかしな事聞くけど……その……私貴方の事何て呼んでたかしら?」


「……っ……」

あ、メイドが泣きそう……そりゃそーだよね。忘れられたらショックよね……

いや………全然思い出せないんだもん……


「お嬢様が私の名前を伺って下さったのは初めてでございますっ!!」

もう感激のあまり声量がすごい。


(ええ………私……酷いご主人だったのかしら……)

ヒロインと仲良くなれるのだから悪役令嬢ではないと記憶していたのだが……


「私の名前はリリーでございます。気軽にリリーとお呼びください。」

手を握り締めて自己紹介された。嬉し涙が溢れているのがわかる。

(私今まで使用人にどんな扱いしてきたのよ……)


「えっと……ごめんねリリー……私が毎日飲んでいる紅茶はどれかしら……」

「……っはい!はい!いつもの紅茶はですねっ」

「お嬢様!!!!!大変です!!!」


リリーが説明しようとした瞬間大声でまた1人メイドが入ってきた。


「……っ!今は私の時間ですわよ!!」

リリーがすごい剣幕で怒る。

「分かってるわよ!!そんな怒らないで!!緊急事態なのよ!アルド王子殿下が来られたの!」


「「はぁーーー!?」」

私とリリーが叫ぶ。

「事前に知らせはなかったわよね!?なんで急に」

リリーが慌てる。

「リリー!!私お腹痛いわ!!ね!!殿下にはおかえりいただきましょう!!」

私がリリーに懇願する。

「あぁ、何て素敵な我儘なのでしょう。ええ、おかえりいただきましょう!!」

リリーがキラキラと輝く。


「できるわけないでしょう!!リリー!!」

もう1人のメイドが止める。

「うん。できるわけないよね。シルリア嬢。」


「「………」」

わたしとリリーの動きが止まる……男性の声がした。

いや、空耳かもしれない。その声の主は応接室あたりで待ってるはずだから……


「申し訳ございません。お嬢様。アルド王子殿下をおとめできませんでした。」

別のメイドが申し訳なさそうに後ろからしずしずでてくる。


(おーのー………。このヤンデレ野郎。なぜ私の部屋をしっていやがる……)


「昨日ぶりだね。シルリア嬢。遊びにきたよ」

とても爽やかに、なんて事ないように言う。


「……すぐ準備して応接室に参ります。身支度をしますこで少しお待ちいただけますでしょうか?」

何せ普段着である。王子殿下の前にしてはラフすぎる服装である。


「ん?僕はそのままでも充分可愛いとおもうよ?このまま応接室まで僕がエスコートするよ。とっておきの紅茶を持ってきたんだ」


手の甲にキスを落とす。

(ぎょえええええええ!!!)

全身から鳥肌がたつ。

(無理無理無理無理。私にとってはコイツは死神よ!何しにきたのよ。この変態サイコパスヤンデレ野郎!!)

笑顔がひきつる。

そのまま、エスコートされ応接室に連れて行かれる。


(リリー!!!!助けて!!!)


思わずリリーを見る。


「とっておきの紅茶でございますか!?それはありがたいです!!いつも飲まれている紅茶に飽きられたみたいで……すぐご準備いたしますね!」


(リリーーーー!!ちがぁーーう!!確かに珍しい紅茶が飲みたいけど、優先順位がちがぁーう!!!)

リリーは王子殿下に救世主の様な眼差しを送っている。

そして、私にはウインクして立ち去っていった。




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