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「追放村」領主の超開拓 ~追放者だらけの辺境村がやがて世界に覇権を唱えるようです~  作者: 福山松江


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第六話

 それはアークが黄金竜を屠った、翌朝のことだった。

 ベッドで目を覚ますと、眼前におっぱいがあった。

 巨大な生乳があった。


「ファッ!?」


 びっくりして跳び起きようとしたが、一瞬早く頭を抱えられ、思いきり抱きしめられる。

 深い谷間にアークの顔が埋まる。


(ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?)


 世の男ならば堪らないシチュエーションだが、性癖をこじらせたアークにとってはうれしくもなんともない。

 スレンダー美女の浮き出たアバラ骨なら頬ずりしたいし、口に収まる程度の「ちっぱい」なら頬張りたいが、これは違う!

 というか顔面が柔らかいお肉に完全に埋まって、息も苦しくなってくる。


(巨乳の谷間で窒息死とか、オレにとっては考え得る限りのサイアクの死に方だ!)


 なんとか顔を上げて息継ぎをしつつ、「離せ!」とわめく。

 すると、


「……ニャ? ふわぁぁ……おはようニャ、アークくん」

「おまえかミィィィィィィィィ!」


 独特の口調と声で犯人が特定でき、アークは批難で絶叫した。

 逃げ出そうにも、ミィがまるでタコのようにヌメヌメからみついてきて、脱出不能なのだ。

 如何にアークが剣聖の後継者とはいえ、既に密着状態となったこの体勢では、拳法の達人に敵う道理がない。

 だから胸の谷間であっぷあっぷしながら、口での抗議を続けるしかない。


「なんでオレのベッドに潜り込んでるわけ!?」

「? 二階の窓から、ジャンプしてだニャ」

「手段じゃなくて動機を聞いてんだよおおおおおおっ」

「それはもちろん、アークくんのことが好きになっちゃったからだニャ」

「ハアァァァァ!?」


 アークは自分がモテることに一切の疑いを持っていない男(なお実例ゼロ)ではあるが、ミィは今まで一度もそんな素振りは見せてなかったので、この急変化に驚きしかない。


「納得のいくように説明しろ!」

「も~~~、アークくんはヤボだニャ。そんなんじゃミィ以外にモテないニャ」


 とミィはぼやきつつも――惚れた男の頼みだからか――ちゃんと教えてくれる。


「ミィは師匠だったお祖父ちゃん以外に、ミィより強い男に会ったことがないニャ」

「まあ、おまえの拳法の腕前だったら、そらそうだわな」

「でも黄金竜と戦うアークくんを見て、生まれて初めて胸がドキドキしたニャ!」

「あー……そういう……」

「道理でミィはどんなイケメンを見ても、一度もグッと来なかったはずニャ。『ミィより強い男がタイプ』だったなんて、自分でも初めて知ったニャ。アークくんが教えてくれたニャ。危うく恋愛に興味がない女だって誤解し続けるところだったニャ」

「そのまま誤解しとけばよかったのに……」

「というわけでミィの求愛を受け容れて欲しいニャ!」

「オレは確かに『オレを大好きな奴』が好きだけど、そういう『好き』じゃねえんだよ!」

「だから、このままミィとイチャイチャしようニャ~。おふとんデートしようニャ~」

「せめて痩せてから出直してこい!」

「人生に大事なのはラブ&●ックスだと悟ったニャ!」

「サイテーだぞおまえっっっ」


 などと激論を交わしていると――寝室のドアがノックもなしに開いた。

 主を起こしに来た、メイリが顔を出した。

 ベッドで揉み合っている二人に気づいて、アークを見る目が軽蔑の色に染まり果てた。

 

「女なら誰でもよかったんですね――似非巨乳嫌い」

「似非巨乳嫌い!?」


 こんなにひどい誹謗中傷を受けたことが、アークの人生にあっただろうか!


「大丈夫ニャ。ミィがおっぱいのよさを、これからたっぷり教えてあげるニャ」

「朝っぱらからお盛んですね。じゃ、ごゆっくり」

「助けてくれえええええっ」


 乱暴に閉められたドアに向けて、アークは虚しく手を伸ばした。


    ◇◆◇◆◇


 と――そういう事件が、半月前にあったのだ。

 アークがキレ散らかしておいたからか、あれからミィがベッドにもぐり込んできたことは、一度もない。

 でもふとした瞬間目が合うと、ウインクしてきたり、投げキッスを飛ばしてきたりと、求愛行動が続いた。

 そういう時、ミィは周りに悟られないようにこっそりやるので、なんだか秘密の関係を共有しているような背徳感があって、これは正直グッときた。

 初恋だと言っていたくせに、妙に手管に長けているのは、恋愛巧者だらけと評判の猫人(ケットシー)の血のなせる業か。

 一方で、スキンシップもあからさまに増えた。隙あらばおっぱい当ててきた。

 もしアークが本当に似非巨乳嫌いだったら、とっくに悩殺されていただろう。


「なんだか妙な関係になっちまったなあ……」

「と鼻の下を伸ばしながら仰られても」


 領主館で朝食をとりつつ、ふと漏らしたぼやきに、メイリの冤罪ツッコミが入る。

 テムリスがまともな食材をどっさり持ち帰ってくれて、久方ぶりにサロマ芋メインじゃない朝餉を有能メイドが作ってくれたというのに、これでは楽しむどころじゃない。


「いつオレがデレデレしたよ! ミィはオレの好みじゃないっつってるだろ!」

「と必死になるのが逆に怪しいわけで」

「オレは理想が高い男なの。妥協は絶対にしないの。巨乳が我慢できるなら、おまえのことだってとっくに手を出してるっつーの!」

「なんと。次は私を毒牙にかける宣言ですか。鬼畜ですね」

「……とにかく真面目な話、オレの性格はよく知ってるだろ? 押し倒してない時点で察しろ」

「とにかく真面目な話、ミィ様はステキな女性ですし。アーク様が満更でもないなら、応援いたしますけどね」

「だから満更でもあるっつーの!」


 今日も今日とてメイリとギャーギャー口喧嘩しつつ、健康的な朝餉を食べ終える。

 すると、ちょうど見計らったように来客があった。

 テッカだ。

 もう一人、快活そうなお姉さんを連れていた。

 しかも犬人(コボルト)である。

 頭からはイヌミミが生え、おしりからはふさふさの尻尾が生えている以外は、見た目はアークたちと何も変わらない亜人種。


(ただこいつもツラはいいのに、胸がデカいな……)


 また悪魔の実(サロマいも)か。まーた悪魔の実(サロマいも)の仕業か。

 決して太っているわけではないのだが、アークの好みからはかけ離れている。


(というかこんな奴、村にいたか?)


 不思議に思っていると、テッカが紹介してくれた。


「この村の近くに住むコボルト部族の巫女(シャーマン)で、シロ様と仰いますわ」

「はじめましてデス、ご領主サマ。新しくいらしたとは露知らず、ご挨拶が遅れて申し訳ありませんデス」

「へえ! 近所にそんな集落があったとは初耳だな」

「“魔の森”の中に先祖代々、穴を掘って隠れ住んでいるのデス」

「よくそんな危険な場所に住む気になったな……」

「実は“魔の森”のもっと奥には、コボルト族の地下王国があるのデス。でもアタシたちのご先祖様が追放されて、仕方なく比較的安全なこっちに引っ越してきた歴史があるのデス」

「おまえらも追放されたクチか……」


 この追放村ときたら、ご近所さんまで追放仲間だったらしい。

 またアークは「穴を掘って隠れ住んでいる」と聞いて、原始的な洞窟暮らしを想像したが、


「ちょっとした地下迷宮(ダンジョン)ですわよ。コボルトはドワーフと並ぶ生粋の鉱夫で、わたくしが鍛冶に使っている鉄鉱石も、彼らから譲ってもらっているものですわ」

「二か月に一度くらい、サロマ芋と交換でお届けに参っているのデス」

「ほーん。どっかからは入手してんだろうって思ってたが、そういうことか」


 特に訊ねる理由もなかったのだが、謎が一つ解けた。

 

「それで今日はお届けに来たのか?」

「はいデス。今、集落の男たちがテッカさんの工房に運んでますデス。新しくなってびっくりしたデス。聞いたらご領主サマが“ヌシ”を討伐したおかげだって、二度びっくりデス」

「ワハハ、その通りだ! もっとオレを褒め称えるがいいっ」

「本当にスゴいデス。魔物をお一人で斃しちゃうのだってスゴいことなのに、“ヌシ”まで斃しちゃうなんて、まさに“おひとりさまの中のおひとりさま”デス!」

「それは褒めているのか……?」


 アークは憮然となったが、シロは屈託なく「はいデス!」と断言する。

 それから急に深刻な顔つきになって、一度生ツバを呑み込む。

 アークを訪ねてきた本題を、切り出すつもりなのだろう――


「聞いたらご領主サマは、あの黄金竜さえ討ち果たしたって、びっくりしたデス」

 

 と何かすがるような目つきを、こちらを向けてくるではないか。


「ワハハ、その通りだ! もっとオレを褒め称えるがいいっ」

「本当にスゴいデス。村を豊かにするために、ドラゴンまで斃して金塊を持ち帰るなんて、ちょっとできることじゃないデス。まさに“成金(ナリキン)竜殺し”デス!」

「そこは普通に竜殺し(ドラゴンスレイヤー)でよくないか……?」


 詩文センス皆無のアークでも、“成金竜殺し”なんてダサい異名はさすがに勘弁だった。

 シロも素直に言い直して、


「その竜殺しのご領主サマに、アタシたちの集落も助けて欲しいのデス……」

「ほう。ま、話くらいは聞いてやろう」

「ありがとうデス!」


 アークが鷹揚な態度で言うと、シロは感謝感激のていで説明を始めた。


 事の起こりは六日前。

 コボルト族の日常として、集落の拡大と採掘のため、男たちが坑道を掘り進めていた。

 すると大きな地下空洞を掘り当てた。

 珍しさも相まり、冒険心を刺激された男たちが早速、内部の調査を行ったが、これが最悪の事態であることが判明した。

 地下空洞は強大な“ヌシ”である、九頭大蛇(ヒュドラ)のねぐらだったのだ。

 不幸中の幸いで、ヒュドラは睡眠中であったため、男たちは忍び足で逃げ出した。

 その後族長の判断で、シロら集落の巫女たちが集められた。

 シロたちは祈りを捧げ、大地の精霊の力を借りて、地下空洞につながる坑道を分厚い土の壁で塞いだ。

 事なきを得たと集落の皆が思った。しかし、早計だった。

 地下空洞を探索した男たちが、次々と呼吸困難に陥り、昏倒したのだ。

 ヒュドラは毒の魔物で、地下空洞の空気にその吐息(どく)が混ざっていたのだろう。男たちはそれを知らず吸ったため、肺が冒されていたのだろう。というのが族長の見立て。

 さらに族長の判断で、塞いだ穴の様子を調べにいった。

 すると案の定、土壁の汚染が始まっており、さらにヒュドラの毒が瘴気の如く、じわじわと漏れ出ていることがわかった。

 このままではいつかは、地下集落全体に毒素が行き渡ってしまうだろう。

 ならば今日まで大きくしてきた、先祖伝来の住処を捨てるしかないのか。

 あるいは元凶であるヒュドラを討伐するか。


「――いくら議論をしても、答えが出せていないのデス。でもサイト村に偉大なご領主サマがいらっしゃったとテッカさんから聞いて、お力を借りることができれば、ヒュドラ討伐ができると思って、こうしてお訪ねしたのデス」

「ううううううううううううん」


 シロの懇願に、アークは腕組みをして唸った。


(ぶっちゃけ雷獣公程度の“ヌシ”が相手だったら、ちょろっと力を貸してやって、メチャクチャ恩に着せてやるのもやぶさかじゃないんだが……)


 相手がヒュドラとなると話が変わる。

 昔読んだ文献から類推するに、アークにとっては黄金竜より相性が悪い魔物だ。

 というのも、ヒュドラは強力な毒のブレスを吐く。

 また異名通り、首が九本もある大蛇なのだ。

 そいつらが一斉にブレスを吐いてきたら、いくらアークでも回避しようがない。

 黄金竜の時のように、喉元にもぐってハイセーフ! みたいな安全地帯は存在しないと考えるべきだろう。


(コボルトどもを助けてやる義理もないしなあ。我が身が一番可愛いしなあ)


 よしサクッと断ろう! とアークは決断しかけた。

 ところがテッカが、シロに入れ知恵した。


「ほら、先ほど申し上げたでしょう? アーク様は『ご自身を大好きな人々』が、お好きなのですわ」

「もしご領主サマがヒュドラを討ってくださったら、救世主としてみんなで崇めるデス! 永遠に語り継ぐデス!」

「……テッカよお。おまえ、オレのことおだてれば木に登る、チョロい男だって思ってねえ?」

「滅相もございませんわ。困難を打開する実力と、民を慈しむ器量をお持ちの、偉大なご主君だと思っておりますもの。少々、お口が悪いだけで」

「チッ。言ってろ」


 テッカがおべんちゃらで言ってるようには見えず、アークは舌打ち一つで許してやった。

 一方、シロの方に向き直って、


「オレがヒュドラを斃してやったら、おまえら全員、一生恩に着るんだな?」

「もちろんデス! コボルトは人をだましたりしない、朴訥な種族デス」

「その点、わたくしも請け合いますわ」

「ちなみにオレはスレンダーで綺麗なお姉さんが好きだ。それを侍らせるのが目下の野望だ」

「承知したデス! 集落で一番の娘を見繕って、お側仕えさせると約束するデス」

「いいだろう。そこまで言うならオレがヒュドラをぶっ殺してやる」


 そしてイヌミミのスレンダーお姉さんをハーレムの一人目として迎え、よちよちしてもらうのだ!


「ところで、別におまえらのことは戦力としてアテにしてないが、コボルトの巫女(シャーマン)ってどんなことができるんだ? 一応、聞いときたい」


 コボルト族は人間種族と全く交流がないため、文献にも詳しくない。


「大地の精霊にお願いして、地面の形を変えることができるデス。ただ大地の精霊は遥か地の底にいるので、お祈りするのが地表に近いところほど、届くまで時間がかかるデス」

「それは戦闘中にお祈りして、ヒュドラの足元にいきなりでっかい落とし穴を作るとか、そんな都合のいい力じゃないって感じか?」

「無理デス。直接戦闘ではまずお役に立てないデス。巫女はそういう仕事じゃないデス。ただ傷を治すのは得意デスので、お怪我があっても安心デス」

「ほう。試しにやってもらおうか」


 そう言ってアークは両手をシロに向ける。

 黄金竜を討つために、〈華々しき稲妻の魔剣〉を最大出力で抜刀したため、アークまで火傷を負ってしまったのだ。

 あれから半月以上経ってだいぶん癒えてはいるが、まだ少し痛む。


「はい、診せてくださいデス!」


 シロはいそいそと傍までやってくると、まずアークの右手をとった。

 そして、いきなり火傷痕をペロペロと舐め始めた。


「くすぐったいだろ!?」

「でもコボルトの巫女はこうやって、傷口を舐めて治すのデス」


 びっくりしたアークにシロはそう説明し、また治療(ペロペロ)を再開する。

 仕方なくアークは好きにさせる。

 最初はムズムズして堪らなかったが、我慢しているとだんだんとそれが気持ちよくなって、癖になる。

 そしてシロが口を離すと、右手の火傷が綺麗さっぱり完治していた。


「次は左手を診るデス!」

「頼んだ」


 こちらも最初はくすぐったかったが、それもすぐに快感に変わる。

 いっそ怪我をしてないところも治療(ペロペロ)してもらおうかな――などと邪しまなことを考えていたら、ちょうどお客に紅茶を淹れてきたメイリに見つかり、白い目を向けられる。


猫人(ケットシー)の次は犬人(コボルト)ですか。見境ないですね」

「オレを色魔みたいに言うなっ」


 アークは抗議したが、日ごろから「スレンダー美女を侍らせたい」と公言して憚らない男が言っても説得力はなかった。


 ともあれコボルトの巫女の治癒能力は大したもので、火傷は嘘のようになくなった。


(ただなあ、これも戦闘中に使える力じゃないなあ)


 悠長にペロペロされている間に、殺されるのがオチだ。

 もちろん、戦いに勝ちさえすれば、負傷のことを考えずにすむ利点は大きいけれど。

 

(ヒュドラを狩るのにコボルトどもの力は全くアテにできんな)


 ならば毒のブレスをどう処理するか。

 アークには一つアイデアがあって――


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