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マカロンにくしゃみを添えて

「落ち着いたか」

「余は満足じゃ。衛兵。ほめてつかわす」


 魔女狩りさんのおかげで「こわかったろう」とタナトスはいっぱいおごってくれた。

 こういう気遣いはできるのに女心にははてさてあやしき。


「ミクにもおみやげ! おみやげ!」

「はいはい。くっそうおれの貴重な非番が」

 彼はカラ財布を未練たらしく振っている。


 たとえタナトスの財布が空になってもかっぱらったアクセサリーの持ち主である同居人の機嫌をとるのは忘れるべきでない。

 寒風の中こんな美少女がフリントマッチ片手にいやいうまい。


 ぶらんでぃおいちかった。


「だから早いって言っただろう……」

 ふみゅ。よはまんぞくじゃー。


「立って歩いて一気に来たな……」

「休んでいくの」


 ここはえっちな宿屋がいっぱいある区域だ。


「兵舎はこっちな」

「ああん。いぢわるぅ」


 父の家業を嫌々継いだやり手の女性議員さんは娼館だったそれらの施設を女の子用のカフェなど多彩な業務転換を行うことによって『従業員』を保護しようとしているのだ。


 その中の一つに『安いのにやたら綺麗で、何故か泊まり原則禁止な宿』がある。

 休憩してお茶とお菓子を食べるならさておき泊まる時は貴族様料金だ。



「入ったことないけど内装かわいくてお菓子が食べ放題らしいよ。ね、ね、いこいこ」

「いいか、無視しているんだから頼むから令状なしで入らせないでくれ。ギロチンや決闘騒ぎは減ったとはいえ治安はまだ良いとはいえない。食い詰めてろくなことしないならまだモグリの……」

 ふみゅ。ながいはなしはしんどい……。



「ほら、肩かせ。ちゃんと歩け」

「やだぁ。だっこだっこ」


 さっきのお茶、甘くていい匂いだった。

 なんかほわほわする。


「非番でも兵士が不用意に他人の胸とか尻とかに触れると始末書なんだよ」

 むぅ。


「おまえら親子で何やってるんだ」

「あ、ジムだ。だれがおやこらーこんにゃろー」

 ジムも女好きだがこんなところにはそぐわない。


「……呑んだな。くせえぞ」

「女の子に臭いっていった! せくはらー!」


 彼は青い制服に樹脂鎧。

 典型的な定期巡回の姿だ。


「カフェでブランデー入りにするって五月蝿くてな」

「魔女の13歳はおとななのら!」


「大人は酔っぱらって兵隊さんに迷惑かけねえよ」

 それは嘘だけど言いたいことはわかる。


 でも二人してリトルグレイとかいう怪物みたいに両手を引いて歩くのはやめてほしい。めちゃくちゃ恥ずかしい。


「そしてかわいいアクセサリーをかっぱらいもしない」


 振り解いたついでに露店からかっばらったことをタナトスはいとも簡単に見抜いてわたしのお尻のポケットから露店のおじさんにそれを返す。


 ばっきゃろー。今お尻に触ったぞ。匂い梟かえせー。


 匂いとともにくるくる言う仕掛けのかわいい根付は薬入れとセットだ。



「すまんな店主。常習犯なんだ。叱っているんだが」

「兵隊さんおつかれさん。あんたたちには感謝しているよ。先先代の隊長さんにも伝えておくれ」


 タナトスがちょっとだまる。

 ふに?


「ところで、魔女狩りについて教えて欲しい」

「……この子、魔女だよね?」


 ふみゅ?


「こんな状態だし、気にするな」

「まぁ……介抱お疲れ様です。ひどいもんですよ教会のやつら調子に乗りやがって。前々から異教徒にはうるさかったけど例えばくしゃみをする薬作ったところでなんになるってんですかい。俺の産婆さんだって魔女でしたよ」


「こんなろーばかにすんなー。家伝の魔法だぞー」

「?」


 うえっぷ。

「すまん、水をもらえるか」

 泥水なんかのまねーのら。うえっ。



 私は薬を飲んでしのぐ。

「はっくしゅ」

 タナトスは拍手して一言。

 「À tes (願いが)souhaits !(叶うように)

 二回目はちょっと大きめ。

 ジムが拍手して一言。

「À tes vos amours ! 」

 へへ。ありがとう。


 本格的にむずむずしてきた。


「ふぁーっくしゅー!!」

Que dieu(神のご加護が) te vous(貴女様に) bénisse ! (ありますように)


 店のおじさん含めて3人一緒に拍手してくれた。

 merci。


 くしゃみは体温をあげる。

 鼻の中のゴミを飛ばすだけではない。


 酔いが覚めてよくまわりを見るとなんかタナトスとジムが私を連行している。

 なんで? どして?



「え。何しているの」

「酔っ払ってアクセサリーを露店から盗んだ現行犯」

「品物は根付。薬入れをベルトにとめる道具。うごかすとくるくる言うと共にいい香りをだす匂いふくろう。君には取り調べを受けるにあたり弁護士を呼ぶ権利がある」



 そうなんだ。なんか気分よかったし。

 え、おじさん店主だって。ごめんなさい。


「こんな手癖の悪い魔女さんは困るよ」

「いつも言って聞かせているんですけど」「いやほんと申し訳ない」


 なんか私の代わりに謝っているし、保護者気取りだ。つまんなし(はらたつ)



 ところでここだけの話。

 魔女が好きになる男は決まっている。


 能力者でないこと。

 真面目であること。


 一途であること。

 あとやさしいこと。



 え、そうそういないって?

 そうなのだ。そんなひと、まほうより魔法だよね。



「酔ったふりしないで歩け現行犯A!」

「じむが横暴だー。早くわたしを快適な牢屋にいれろーたなとすー」

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