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7.エンドルからの使者

 翌朝。


 イザリア女王は、朝食も用意してくれていた。言うに及ばず、昨夜は寝床も用意してくれた。


 朝の女王は、長袖の、ゆったりとした緑色のドレスを着ていた。

 三人は、夕食の時と同じく、共に食事をしたが、女王は、アレクゼスとシドウェルの間に、不思議な緊張感があることを敏感に感じ取っていた。


 当のシドウェルの懸念は、これから船に乗る、という所に注がれていた。女王の用意してくれた食事を残すのは失礼と思いながらも、あまりみっともない所を国王に見せる訳にもいかないと、半分残した。


 食事が終わり、シドウェルは、女王に呼び止められた。国王は先に部屋へ戻った。

「申し訳ありません。残してしまって・・」

「じゃなくて、貴方たち、大丈夫?来た時より、仲が悪くなってるわよ。あの話したの?」

 シドウェルは、どきりとして、口を閉ざした。

 イザリアは、溜息をつく。

「そんなに言いづらいなら、無理に言わなくてもいいんじゃない?大体、貴方、今それどころじゃないでしょ」

 シドウェルは、申し訳なく微笑む。

「ですが、お伝えしたいのです」

 イザリアは、黙り込んだ。身長差のあるシドウェルの顔を見上げ、ふいに困った様に苦笑を浮かべる。右手を伸ばし、彼の頬に触れ、

「どんな答えを出しても、貴方は私の息子よ」

と、言い、彼の頭に手を回し、軽く抱き寄せた。

 シドウェルは、女王のされるがままに体を傾け、ひっそりと微笑んだ。


 アレクゼスと、シドウェルを乗せた小型艦がマグダムの港に着いたのは、丁度夕刻であった。二人は公王の官邸に入り、カリヴァの取り扱い訓練の為、場所と指導者の提供を求め、公王の了承を得た。

 話が終わった頃にはすっかり暗くなっていた。同盟宣誓書の署名があった前々日に続き、今夜も公王に公邸の客室を提供してもらった。当然夕食にも招待された。


 夕食の際、公王は、水の様に酒を飲んだ。この男、実は、いくら酒を飲んでも全く酔わない体質だった。

 一杯で、ぼんやりなってしまうアレクゼスは、公王がとても男らしく見え、羨ましかった。ところで、シドウェルは欠席した。もはや、何も口に出来ない状態だったからであった。シドウェルは、国王の体質を羨ましく思った。



 翌早朝。

 公王の官邸に、思いもかけない人物からの使者が現れた。

 中立地帯・エンドルの()、オルヴァニオンの、それである。


 使者は、公王と、エランドルク王の二人との面会を希望した。 


 知らせは、すぐにアレクゼスの居る客室に届いた。アレクゼスは既に身支度を整えていた。


 シドウェルが、間も無く国王の部屋に駆け付けた。彼はもう、髭を剃っていなかった。あくまでも女王対応だった。

 いつもの、貫禄のあるシドウェルの顔を見て、アレクゼスは安心したように微笑んだ。


 おおらかな公王は、人と会う時は応接室を使っていたが、()の者はもう少し広い小広間で待たせた。目的が分からなかったからである。

 公王は、控えの間でアレクゼスに改めて警告した。

「無理に会う事はない」

 あちらがアレクゼスの居場所を知っていた事を考えると、用心して当然だった。

 しかし、アレクゼスは、どのみちエンドルの主と会わねばならないのだから、やはり使者と会う、と答えた。シドウェルは、黙って二人のやり取りを見ていた。どちらの言っている事も間違ってはいない。


 まず警備兵が入り、次に公王が、最後にアレクゼスが入った。小広間の外にも警備兵が立っている。

 使者は部屋の後方に立ち、頭を垂れていた。

「面を上げよ」

公王の声に、使者は顔を上げた。その瞬間、アレクゼスは心臓が止まりそうになった。動揺を抑えたつもりだったが、公王は気付いた。

 使者は、しわがれた低い声で、恭しく挨拶する。

「この度は、公王陛下並びに国王陛下のご尊顔を拝し、恐悦至極に存じ奉ります」

「用件を聞こう」

何事もなかったように、公王が訊いた。

 使者は、満足気に微笑む。

「私は、主の名代として参りました。早速ですが、ここで主の言葉を申し伝えさせて頂きます」

使者はそう言って、細い目をアレクゼスに向ける。

「エランドルク王国アレクゼス国王におかれましては、速やかに我が館へおいで下さいます様、宜しくお願い申し上げます」

 アレクゼスは、まるで地獄に招待された気分だった。努めて、冷静に応える。

「お招き、感謝致します。近々(きんきん)に、お伺いするつもりで居ましたので、手間が省けました。すぐ参りますと、オルヴァニオン殿に、お伝えください」

「承りました。もし宜しければ、外に陛下の為の馬車を待たせてあります。乗って行かれませんか?乗り心地は抜群ですよ」

「それは結構な事です。私の部下は、揺れるのが駄目でして、後日、その馬車の作り方を教えて頂きたく思います。今日の所は、自分の乗って来た馬車がありますので、そちらを使います。お心遣い、重ねて感謝致します」

 使者の細い目が、うっすら開いた。灰色の瞳が、笑顔の中から鋭くエランドルク王を見つめる。

 アレクゼスは、息をするのも忘れ、使者を見つめ返した。


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