4.国防
「私は、エランドルクこそ、カリヴァを使うに相応しい国と思う」
まるで、アレクゼスの内心を読んだ様に、女王が言った。
アレクゼスは、イザリアを見た。どう答えてよいか分からず、無言だった。
女王の秘書が、マシリアヌ大陸の西寄りの地図を持って戻って来た。カリヴァと引き換えにシドウェルに渡す。
シドウェルは、地図を広げながら、アレクゼスを見る。
「陛下、エランドルクは、山谷が多く、道も、狭い場所が多いです。敵が10万の大軍であろうと、彼らは、せいぜい2~3人ずつしか前に進めません。同時に100人は進めないのです」
アレクゼスは、目を見開いた。
「そういう事か」
「その2~3人ずつを崖の上から、狙い撃ちます。角度のある場所からの狙撃はこちらの安全を確保します。一度に二人しか殺せなくとも、これを繰り返せば、いつか必ず敵を殲滅することが出来ます」
殲滅―――アレクゼスが、シドウェルの口からその言葉を聞いたのは初めてだった。つまり皆殺し。こちらの損耗は無く、それが出来るという。しかし・・・。
「しかし、その戦い方は、領内深くに敵を招き入れることで成り立つ為、エランドルクの軍務大臣としては、いきなりそんなことはしたくありません」
と、シドウェルが言った。アレクゼスも同感だった。
シドウェルは、敢えて「敵」と言っていたが、想定される国はひとつしかなかった。
「キンレイは、大軍勢である為、わざわざ危険な山越えをして入って来ることは考えられず、やはり表玄関のグラブスからエランドルクに入ろうとするでしょう。しかし、国境の町、グラブスは、エランドルクにとって、国防と、経済の両面で重要な町です。ここを戦場にするのも避けたい。するともう、ここしかありません」
シドウェルは、地図のある一点を指で示した。アレクゼスは、地図に書かれたその名前を見た。
かつて、キンレイとエランドルクの戦争を停止させる為に、両国を分かつよう作られた中立地帯。やがて町ができ、行き場のない者たちが住むようになった法のない自治地域。その名前は―――
「エンドル・・・」
「ここを接収し、砦とします。どのみち、キンレイの大軍勢がここを通れば、それだけで町はめちゃくちゃになります」
大軍が通る場所を確保するために行う破壊と、食糧などの略奪。それを思えば、エランドルクが接収する方がまだましか、と、アレクゼスは思った。
シドウェルが、
「ま、押さえるのはこれからですが」
にやりとして、言った。