2.イザリア
マグダミア王国の首都・サンヴィエルに入ると、中心に向かって、道が緩やかな坂になっているのが分かる。
街を縦横に走る石畳の細い道は、放射状に網の目の様になっている。本通りは比較的道幅が広いが、真っ直ぐに城へ繋がっていると思いきや、時々、角を曲がる。防御に固い古い街並みが今だ息づいている。
目の前にバーミリアン城が見えて来た。女王の居城にしては、いかつい印象の石造りの城である。
到着した一行は、衛兵と女王の補佐官に先導され、政務棟の中へと入る。高い天井と、幾つもの柱の並ぶ廊下を女王の待つ、小広間へ向かって歩く。
「陛下」
アレクゼスの右後ろを歩いていたシドウェルが声を掛けて来た。
アレクゼスは、正面を向いたまま、
「何だい?」
と、応える。
「後ほど、お話があるのですが」
「今では駄目なの?」
「少々、話しづらいことでして」
と、シドウェルの苦笑交じりの声が聞こえた。いつもより控えめな声なのは、響く廊下で気を遣っているのと、体調が、万全ではないからだろう。
アレクゼスは、内容も気にはなったが、シドウェルにも話しづらい、という事があるのかと思うと少し安心した。
「分かった」
小広間の前で、衛兵が壁際に退いた。補佐官が中を手で示し、アレクゼスと、シドウェルが入って行く。
中は、晩餐会が開ける程、広かった。窓は無く、高い天井から下がる二基の吊り下げ型の燭台には、日没を前に既に火が灯されており、昼間の様に明るかった。
入って右側の会議用のテーブルの近くに、女王はいた。癖のある長い金髪を深紅に染めた絹の細い帯でまとめて頭の後ろで垂らしている。ドレスではなく縦襟の黒い礼服に身を包み、さながら男装の麗人である。白いシャツの袖には琥珀の留め具が付いており、女王のこだわりが見えた。
女王の在位は、アレクゼスの倍の十年である。アレクゼスは自分から女王に歩み寄り、挨拶する。
「今日は、バーミリアン城へお招き頂き、ありがとうございます」
女王は微笑んで応える。
「こちらこそ、今日を待っていたわ」
侍従官が椅子を引き、アレクゼスに手で示した。
アレクゼスとイザリアが椅子に座ると、書類とペンとインク壷が運ばれてきた。
二人の王は、署名した。
エランドルク王国とマグダミア王国の軍事同盟がここに成立した。