1.マグダミア王国
頭上には美しい青空が広がっている。
冬の終わりが見え始めた頃、エランドルク王国とマグダム公国との軍事同盟が成立した。
エランドルクの国王アレクゼスと、軍務大臣のシドウェルは、マグダムの港から、マグダミアの小型の軍艦に乗り込み、海峡を渡っている。向かっているのは対岸にあるマグダミア王国である。
帆で風を捉え、潮に乗り、走るように進む。出発は朝だったが、昼前には着くだろう。
アレクゼスは、舳先近くの甲板に立って、海の向こうに見える島を見つめている。
マグダミア島。島全体がマグダミア王国である。港に大小多くの船が係留してあるのが見える。
この小型艦は、まあまあ揺れている。その割に、アレクゼスは、いつもと変わりがなかった。
変わりがあるのは、シドウェルの方で、青白い顔をしてアレクゼスより少し後ろの船端にすがって立っている。どうも彼は、乗り物に弱いようだった。
港には、海軍司令官のオーゼン公爵が待ち受けていた。アレクゼスが彼と会うのは彼の結婚式以来である。
「陛下、ようこそ、おいで下さいました」
オーゼン公は、きびきびとした気持ちの良い所作で、一礼した。
「この日に、お会いできて、とても嬉しく思います」
アレクゼスは、右手を差し出し、しっかりと握手を交わした。
用意された馬車に乗り込み、一路、マグダミア王国・イザリア女王の居城、バーミリアン城へ。国王を乗せた馬車はゆっくり走る為、着くのは夕刻前になる。シドウェルは、すでに死にそうな顔をしていた。
国王とは別の馬車に乗り込んで、シドウェルは、初めてイザリア女王に会った日の事を思い出す。同盟の交渉の為に、何度となく来ているのに、何故、今、思い出すのだろう。
公王に仕立てて貰った礼服を着て、髭を剃ったシドウェルは、あの日も、馬車に揺られて、バーミリアン城を目指していた。公王は、結局、何故女王に会わなければならないかを教えてくれなかった。ただ、会えば分かる、と。
実際に女王と会って、シドウェルの人生は変わった。
エランドルクにとっても、今日は、節目だ。