謎の男 【月夜譚No.188】
不意に放たれた魔力は強力で、何もすることができなかった。彼はただ突っ立ったまま、魔力の波が通り過ぎていくまでじっと耐えるしかなかった。
そうして気がついた時には、周囲の景色は様変わりしていた。
青々としていた木々は枯れ果て、茶に染まった葉を風に揺らす。丈夫だったはずの石造りの家屋は崩れ落ちて、廃屋と化していた。
ほんの一瞬の出来事だ。それなのに、自分が別の場所に移動してしまったかのように、見えるものが先ほどとは違い過ぎていた。自分が今ここに立っていることすら、不思議なくらいだ。
彼は瞠った瞳をそのまま、正面に立つ男の方へと向けた。
男はまるで何事もなかったかのように、そこにすっと立っている。視線は中空を捉え、何を見ているのか判らない。
男が一体何者なのか、彼は知らない。しかし、あの魔力を放ったのはこの男であるということは確かだ。
彼の蟀谷を冷汗が流れる。気持ち悪いほどに鳥肌が立った腕は、身体の横に垂らしたまま動けない。
このままでいたら、きっとあの男に殺される。
自分の唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。