第93話 ハーレムの基本編① 最も大切にすべき事
「ね~え・・・。
テ・ン・イ♪」
「ご主人様~♪」
「あ、あはは。」
私は元ジャクショウ国の第四王女、デルマ。
今日も勇者のハーレム要員として旅を続けているの。
いつも通り、聖女とクロは勇者の側で楽しそうに振る舞ってるわね。
・・・もっとも聖女の方は半分以上、打算ありきでくっ付いてるのだけれど。
そんな彼女達を私は一歩離れた場所から眺めていたわ。
これもいつも通りね。
「・・・。」
なんて考えていたら、急に勇者が私の方を振り向いて来たの。
?
「なんでしょうか?
勇者様。」
「・・・。
いや、何でもないよ。
気にしないで。」
しかし彼は軽い笑顔でそう答え、前を向く。
???
ど、どうしたのかしら?
別に私、何もしてないわよね。
「・・・。」
ついでに聖女も一瞬だけ私の方を振り向いた後、前を向く。
彼女は何故か、呆れたような目付きだったわね。
う、う~ん・・・。
勇者も聖女も何を考えているのやら。
よくわからないわ。
********
「じゃあクロ。
今日もハーレムについて、お勉強しましょうね。」
「は~い。」
いつも通り、私とクロはとある宿屋でハーレムのお勉強を行っていた。
今日は茶々を入れるのも面倒なのか、聖女が欠伸をしながらボンヤリした顔で眺めている。
「今日はハーレム要員として、一番大切な事を教えるわ。」
「大切~?」
「それはね。
『慕う』事よ。」
「え。」
・・・って、どうして聖女が驚いてるの?
「慕う~?」
「簡単に言えば、勇者と仲良くしましょうって事ね。
これはハーレム要員にとって、何よりも大切な事なの。」
例の本・・・『転移勇者との付き合い方 ~ハーレム編~』にも書いてあったわ。
ハーレム要員にとって、最も大切にすべき事は、転移勇者を慕い、愛する事。
他の全てがダメだったとしても、綺麗な女の子が一途に慕う・・・。
たったそれだけで、転移勇者と深い絆を結べるケースも少なくないと、書かれているわ。
「あたし、ご主人様とは仲良しだよ~?」
「そうね。
そう言う意味ではクロはハーレム要員として、100点満点よ。」
「やったぁ~♪」
まあ、例の本の基準で言えば、クロにはまだ足りない所があるけどね。
だって例の本には、如何に幼子と言えど、転移勇者を異性として慕い、愛すべきだって書かれてるもの。
でもクロは勇者を『異性としては』愛してはいない。
・・・そもそも今のクロは『異性として誰かを愛する気持ち』なんて、まるで理解していないわ。
勇者も勇者で、クロを『異性としては』一切意識していないのが丸わかりだし。
とは言え、勇者とクロの年齢を考えると・・・ねぇ。
今の関係が1番健全だと思うわ。
「・・・あ、あんたねぇ。
ハーレム要員は『慕う』事が大切ぅ?
何、言ってるのよ・・・。」
「別に何もおかしくはないんじゃない?
例の本の教えだけど、特に間違ってないはずよ。」
聖女や勇者は誤解していそうだけどさ。
私は例の本に書いてある事を全て正しいと思ってる訳じゃないわ。
人として受け入れてはいけない内容に関しては特にね。
例えば、例の本には『どれほど大勢の人間を殺そうが、転移勇者の正義を疑うな』なんて教えもあるけれど。
そんな考えを受け入れてしまったら、勇者自身も不幸になると思ってるわ。
けど『慕う事が大切』って教えに関しては、おかしな所なんて無いはずよ。
「そ~ね・・・。
確かに例の本にしちゃ珍しく、内容自体はまともね。
・・・けどさぁ。」
?
「王女。
じゃああんたはテンイの事、ちゃんと慕ってるの?
慕おうとしているの??」
・・・・・・・・・・・・え?
私!?
「い・・・いや、私は仕方ないわよ。
聖女だって私の事情くらい、知ってるでしょ?」
元々、私は王である父から魔王討伐の命を受け、勇者と旅をする事になった。
けどそんな従う価値も無い命令は皆、完全に無視してるわ。
今の私の目的は被害者でしかない勇者を元の世界へ帰し、彼への罪を償う事よ。
私がハーレム要員を演じているのも、本当に彼のハーレムの一人になりたいからじゃない。
元の世界に帰れず、悲しい思いをしている勇者を少しでも慰めるためよ。
けれど私がどう思おうとね。
彼にとって私が、自分を誘拐した男の娘であるのには変わらないわ。
「でも、あんたさぁ。
自分で言ってたでしょ?
『ハーレム要員にとって一番大切なのは相手を慕う事』ってさ。」
「う″!?
け、けど私に慕われて、勇者が喜ぶ訳ないじゃない。
むしろ『誘拐犯の娘の分際で、馴れ馴れしいんだよ!!』って、不快に感じるわ。」
・・・彼のイメージからはかなり離れるけどね。
だけど事情を考えたら極々当たり前の反応よ。
「・・・ふ~ん。
じゃ、ど~してテンイは王女と旅する事を受け入れてるの?
馴れ馴れしくされるのが嫌なら、おかしな話よね??」
「それは・・・他に頼れる相手が聖女くらいしかいないからでしょ?
クロも勇者にとって掛け替えのない仲間だけど『頼れる』とまでは・・・。」
今の勇者には無条件で頼れる相手がほとんどいないわ。
だったら私程度でも、いないよりはマシと考えるのは決しておかしな話じゃない。
「なるほど。
そ~いう風に思い込んでるのね。」
「い、いや。
思い込みじゃなくてね。」
客観的に見た事実だってば。
「仕方ないよ、聖女様・・・。
だって王女様、まだ呪われてるんでしょ?
呪いのせいでご主人様から嫌われてるって、思ってるんでしょ??」
「ちょっと、クロぉ!?
まだそんな戯言、忘れてなかったの?」
聖女ったら、クロに私が『ヒガイモウソウ』って呪いに掛かってる~。
な~んて、下らない嘘を吹き込んじゃってさぁ。
そんな戯言をいつまでも信じるクロもど~かと思うけど、聖女にも困ったものだわ。
「戯言って、9割方事実でしょうが。」
「んな訳、ないでしょ!!」
ど~して聖女がそういう結論になるのか、ちっとも理解出来ない。
「・・・あんたさぁ。
一応、ライバルである私が言うのも何だけどね。
真面目にハーレム要員として振る舞う気、あるの?」
「え、え~っと。」
「まだクロの方がハーレム要員として立派ね。」
ううっ・・・。
私はハーレム要員として、クロ以下。
・・・お子様以下ouz
い、いやいや!!
ダメよ。
弱気になっちゃ。
確かにクロは将来、聖女に負けないくらい美少女になりそうだけど。
私は姉上達から『身分の低い醜女』と言われ続けたけれど・・・。
それでも私はクロにとっては、ハーレム要員として先輩よ!!
お子様のクロに、ハーレム要員として負ける訳にはいかないわ。
「・・・わかったわ。
私だってハーレム要員として立派に振る舞えるんだ、って所を見せてあげる。
勇者を慕い、愛する事くらい、ちょちょいのちょいよ!!」
当然ながら、勇者『に』慕われ、愛されるのは決して簡単な事じゃない。
いえ。
勇者に限らず、他人に慕われ、愛されるなんて、場合によっては無理難題に等しい。
でもね。
私『が』勇者を慕い、愛するなんて、簡単な事よ。
だってその気になれば良いだけだもの。
「お~。
王女様、燃えてる~。」
「ま、頑張ってね~。」
ただ私がそう決意したのは、決して聖女やクロへの対抗心だけが理由じゃない。
昼間の勇者の態度・・・。
あれはもしかしたら、無言の非難かもしれない。
ハーレム要員としての役目を全うしていない私への非難かもしれない。
ダメよ。
『いつも通り』に慣れて、責務を怠るなんて。
私は誰よりも素晴らしいハーレム要員として振る舞う義務があるんだから。
勇者への罪を償うため。
果たすべき使命を全うするため。
私は諸々の事情を一旦棚に上げ、勇者を慕い、愛する事を決意した!!
でも人を慕い、愛するって、ど~すれば良いのかしら?
・・・。
まあ、例の本を読めば人の愛し方くらい、すぐにマスター出来るわよね♪




