第92話 チンピラ編⑤ 因縁の決着
「・・・あ、あああ。」
「グルァアアアアアアアア!!!!」
冒険者ギルドで出会ったチンピラの一人がグリズリーの餌食に!??
ま、まずいわ!!
「しょうがないわね。
サード・・・・・・。
えっ!?」
「「「「えっ!?」」」」
「やめろぉおおおおおおおお!!!!!!!!」
「グルァア!??」
勇者!?
なんと勇者が聖女が防御魔法を使う前に駆け出し、ミスリルソードでグリズリーの胸を浅く斬り裂いたの!!
予想外の反撃にグリズリーが一歩下がる。
「大丈夫か!?
さあ、今の内に逃げるんだ!!」
「お、お前は・・・テンイ?
・・・ダメだ、腰を抜かして動・・・。
って、あれぇ?」
「チンピラさんはあたしが避難させるの〜。」
そして腰を抜かして動けないチンピラは、いつの間にか勇者の側にいたクロの手で私達の方まで運ばれた。
「こらっ、クロ!!
偉いけど、ダメでしょ。」
「何が言いたいんだよ、女ぁ?」
「チンピラを助けたのは偉いけど。
勝手に危険な真似しちゃダメでしょ、って言いたいの!!」
クロはまだ子供なんだから、自分から危ない真似するのは好ましくないわ。
誰かを助けたいと思う気持ちは立派だけど・・・でもねぇ。
「平気だって〜。
気配でグリズリーがご主人様ばかり気にしてるの、わかったから〜♪」
「・・・クロ。
あなた、いつの間にそんな事まで・・・。」
クロったら、どんどん妙な方向にレベルアップしてない?
子供の成長が早いとは、よく聞くけど。
「・・・ふむふむ。
ど〜やら全員、特に大した怪我もなさそうね。
この様子なら回復魔法は不要かしら。」
一方、聖女はチンピラ共が怪我を負ってないか、確認していたわ。
彼女の言う通り、目立った外傷はないしとりあえずは大丈夫そうね。
って!!
「勇者!!
勇者は大丈夫なの!?」
グリズリー相手に剣一本で戦うなんて、危ないわ!!
魔法かスキルを使うべきだけど、なんであれば周りに被害を出さずに済むか・・・。
・・・なんて考えている間にも。
「グルァアアアアアアアア!!!!」
「・・・。」
怒り狂うグリズリーは勇者に向かって剛腕を振るい続けている。
が、勇者はフットワークを使って、相手の攻撃をかわし続けているわ。
元からチート能力無しでもかなり強かったけど、ヒーツとの一戦で更に一皮むけたみたい。
「す、すげぇ・・・。」
「テンイの奴があんなに強かったなんて。」
私も驚きよ。
もう剣技だけでも絶対、私じゃ勝てないわね。
「ハァ!!」
「グルァア!??
ガ・・・ガ・・・。」
更に勇者の一撃がグリズリーの片腕を易々と斬り飛ばした。
片腕を失い、あの凶暴なグリズリーが怯え、戸惑っている。
「今だ!!」
その隙を逃さず、勇者はグリズリーに胴斬りを放った!!
「!!??
グォ・・・ン。」
勇者の剣技とミスリルソードの攻撃力が合わさり、グリズリーの体はあっさりと真っ二つになったわ。
「・・・凄い。
これがミスリルソードの力、か。」
どうも勇者はミスリルソードの凄さに驚いてるようだけど。
私はこんなにも強くなっていた勇者にビックリしてるわ。
もう並の相手なら、魔法やスキル無しでも余裕で立ち向かっていけるかもね。
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グリズリーを倒し、チンピラ共を助け出した後・・・。
もう日も暮れるし、絶賛放心中のチンピラ共も心配だったから、一緒に山を降りる事になったの。
あともう少し歩けば、町まで戻れるわ。
「ウフフ。
グリズリーの素材までGet出来て、ラッキー♪」
「良かったね〜。
聖女様〜。」
大人しいチンピラ共を尻目に、ちゃっかりグリズリーの素材を確保した聖女とクロが呑気に会話を続けている。
ちなみにクロが言うにはあのグリズリー以外、近くに危険なモンスターの気配は無かったそうよ。
もうあの山に誰かが立ち入っても、大丈夫そうね。
「あーーーー!!!!????」
「ど、どうしたのです?
勇者様??」
急に大声出して・・・。
「チンピラを勇ましく助けてど〜するの?
チンピラはカッコ良く倒して、ナンボでしょ!?
何、やってんだ、俺ぇ・・・。」
・・・・・・。
何、その理屈?
「いや、あの・・・勇者様。
何、言ってるのですか?」
「テンイの兄貴・・・。
俺らを助けた事、後悔してるんですかい?」
兄貴!??
「いや・・・別に後悔はしてないけどさ。
極悪人でもないのに、誰かが殺される所なんか見たくないしね。
そもそも今更、君達と喧嘩するのも気が引けるしなぁ。」
「「「・・・。」」」
謎の兄貴呼ばわりは気付かなかったのかスルーし、勇者は答える。
勇者ったら、チンピラ共を助けたり、一緒に行動する内に争う気も失せたみたい。
・・・元から彼ら自身には、ちっとも腹を立ててなさそうだったけど。
「ただまあ、なんて言うか・・・。
やっぱ俺って、要領悪いよな〜って。
物語のヒーローみたいに、カッコ良く振る舞えたらい〜んだけどなぁ。」
チンピラに勝てばカッコ良く見られるなんて考えてる時点で、ズレてるよ〜な。
それとも例の本に書いてある通り、普通の女の子ならチンピラ相手に無双する男の子って、カッコ良く見えるのかしら?
全然、カッコ良く見えない私達の方が変なのかなー・・・。
「・・・やれやれ。
テンイったら。」
「え?」
聖女?
「チンピラをカッコ良く倒す男の子よりさ・・・。
チンピラでもカッコ良く助けられる男の子の方が素敵よ。
少なくとも私ならそう思うわ。」
半ば呆れながらも聖女は語る。
・・・正直、私の立場からすれば、勇者には人助けよりも自分の身の安全を優先して欲しい。
けれど。
「確かにそ〜ね。」
「うん!!
やさし〜のがご主人様のい〜ところ〜♪」
「み、みんな・・・。」
それが勇者の良い所なのかもね。
どこか不器用で、一流ヒーローのような華々しさはないけど、さ。
「「「そうですよ、兄貴!!」」」
「うわっ!?
君達・・・。」
「これからは俺達も心を入れ替えます。
自分より弱い奴にカッコ付けて勝とうとせず・・・。
自分より弱い奴をカッコ良く助けられる男を目指します!!」
あらら。
チンピラ共ったら、すっかり心を入れ替えちゃったのね〜。
「ははは、耳が痛いなぁ。
けど俺も君達の決意に負けないよう、頑張るよ。
本当の強さを身に付けるためにも、ね。」
「俺達だって負けませんよ!!」
勇者とチンピラ共が爽やかな笑顔で語り合う。
これで勇者のチンピラに対する妙な執着もなくなったみたい。
良かった、良かった。
こ〜してクエストを無事クリアした私達は町まで戻って行った。