第91話 チンピラ編④ チンピラAの最後?
「次はここだよ。
ここにイガルン、隠れてるよ~。」
「!!??」
冒険者ギルドでのトラブル(?)が片付いた私達は今、クエストのためにとある山でクリンの実の採集に勤しんでいた。
クリンの実はイガルンと言うモンスターから取れる木の実よ。
イガルンは小さな茶色のモンスターで、トゲだらけの体につぶらな目が2つ付いてるわ。
「OK、クロ。
じゃ、イガルンを鞘で触って・・・と。」
「!!??」
パンッ!!
そしてイガルンは非常に憶病な性格なの。
体に軽く触れられただけでショックを受け、破裂し、クリンの実を数個撒き散らすわ。
けど多少ながら自力で動けるし、隠れるのも上手いから、天然のイガルンを大量に見つけるのは意外と大変よ。
でも私達には索敵の達人、クロがいるからね。
1体でもイガルンと出会い、その気配を覚えれば、何体でも探し当ててくれるの。
凄いお子様だわ。
一応、サーチ系の魔法でも索敵は可能だけど、並の使い手じゃ人間 or 魔物の区別くらいしか出来ないからね。
索敵魔法のプロなら、クロのように対象の特定すら可能らしいけど、私も聖女もそこまでの域には達してないわ。
「大量、大量♪」
「もう数百個は集まりましたね。
日も暮れてきましたし、そろそろ撤収しません?」
「そだね。
・・・にしても他のモンスターとは、ちっとも出くわさなかったなぁ。」
確かにそうね。
たま~にホーンラビットのようなモンスターが茂みに隠れてたくらいで、全然襲われなかったわ。
受付が話していた、危険なモンスターとやらのせいかもね。
「あ。」
「ど~したんだい?
クロ。」
「ギルドで出会ったチンピラさんが、近くにいるみた~い。」
あらま。
そ~いやチンピラ共もクリンの実の採取クエスト、受けてたっけ。
「ほっときなさい。
そんなの。」
まあ、無闇に絡んでもしょ~がないしね。
私も聖女の意見に賛成よ。
「でもね。
チンピラさん、独りぼっちだよ?」
ギルドで出会った時は三人組だったのに、今は一人なの?
「仲間とはぐれたのかな?
少し様子を見に行こうか。」
「・・・まったくもう。
テンイったら、お人好しね~。」
********
「う~・・・。
あいつら、どこへ行ったんだよぅ。」
クロに案内されるがまま進むと、半泣き顔で心細そ~に歩く一人のチンピラを見つけた。
・・・なんだか少し同情を誘う姿ね。
「ど~したんだい?」
「うわぁ!??
って、テンイと連れの女共・・・。
ななな、なんだよおい、俺とやろうってかぁ!?」
「いやいや。
こんな山の中で争うのはよそ~よ。
喧嘩するならもっと安全な場所の方が良いって。」
「テンイったら、まだチンピラと喧嘩したがってるのね。」
状況を考えて、自制出来るだけマシだけどさぁ。
彼の中ではドラゴンやヒドラよりもチンピラの方が存在感、大きいのかしら?
「それよりなんであんたはこんな所で一人ぼっちなの?
他の連れはど~したのよ。」
「はぐれ・・・いやっ!!
あいつら、ちょっと目を離した隙に迷子になりやがってさ。
ったく、本当に困った奴らだ。」
「・・・あ、そう。
まあ、どっちが迷子でも良いけど。」
迷子になったのは多分、あなたの方よね。
でもそれをツッコむのも可哀想だし、聖女に倣ってスルーしましょっか。
「ど~します?
勇者様。」
「そ~だね・・・こんな山の中で一人ぼっちってのも可哀想だし。
クロ。
このチンピラさんの仲間、探してくれない?」
「い~よ。
探してみる~♪」
こういう時、索敵のあるクロは頼りになるわね。
「テ、テンイ・・・。
・・・けっ。
てめーらと慣れ合うのも今だけだからな!!」
あ。
「これが勇者の世界で言う『ツンデレ』って奴かしら?」
「チンピラのツンデレとか誰得だよ・・・。
どうせなら、可愛い女の子がツンデレな方が良いなぁ。」
例の本にも基本的にツンデレが刺さるのは異性間だって、書いてあったしね。
「あっ!?」
「クロ?
チンピラさんを見つけたのかい??」
「あっちの方からチンピラさん達の気配がするの。
・・・けどチンピラさん、強そ~なモンスターに追い掛けられてるみたい。」
「なんだと!??
くっ・・・!!」
話を聞くや否や、チンピラはクロの指さす方へ走って行く。
「ちょっと、あんた!?」
「俺達も行ってみよう!!」
まさか残りのチンピラ共、受付の話す怖いモンスターに襲われちゃったの!?
********
「「た、助けてくれーーーー!!!!」」
「グルァアアアアアアアア!!!!」
「お、お前ら・・・。」
走り出したチンピラを追い掛けると、彼の仲間二人が熊のモンスターに襲われてるのを見つけたわ。
「あれはグリズリー!!」
「王女様、グリズリーって?」
「とっても大きくて凶暴な熊のモンスターよ!!
ゴブリンやオークなんかとは、比べ物にならないくらい強いの。」
ドラゴンやヒドラほど、規格外な存在じゃないけど、中級冒険者をも殺しかねないくらいには危険よ。
・・・あのチンピラ共の実力では、絶対に敵わないでしょう。
「ギャッ!??」
「お、おい・・・!!」
しかし運悪く、チンピラの一人が躓いてしまったの。
「・・・あ、あああ。」
「グルァアアアアアアアア!!!!」
そして躓いたチンピラにグリズリーの魔の手が迫った!!




