第7話 旅立ち編① 冒険者ギルド
私、王女デルマと聖女エミリー。
そして異世界より転生されし勇者、テンイは魔王討伐の冒険へと旅立った。
・・・建前上は。
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「テンイ様~。
この国を出発する前に、冒険者ギルドの依頼をキャンセルしておきたいの。
少しだけ、お待ち頂けないかしら~♪」
「ああ、ドラゴン注意報の件ね。」
確か聖女って元々、その件でこの国に立ち寄っていたのよね。
「ド、ドラゴン注意報!?
・・・な、なんだい。それは?」
そう言えば、勇者のいた世界ってモンスターがいないんだっけ?
馴染みが無いのも無理はないのかしら。
「さっくり言えば『野良ドラゴンが近くにいるから気を付けましょう』って、注意報です。
勇者様の世界で例えるなら、台風や火山の噴火のようなものですわ。」
この世界では野良ドラゴンを筆頭に、危険なモンスター達が空中を飛び交っているの。
奴らはたまに人間の住処を襲い、大勢の命を奪ったり、破壊の限りを尽くす・・・。
だから野良ドラゴンなどが見つかったら、付近に注意報が流れるの。
そして避難や引っ越し、場合によっては生贄の準備なんかが行われる。
・・・野良ドラゴンを倒すなんて、普通の村・町や小国には無理な話だしね。
「そ、そんな自然災害みたいに言われても・・・。」
戸惑った様子の勇者だが、こっちの世界では自然災害とほぼ変わらないのよね。
頻繁には起きないものの、ドラゴン注意報なんてそこまで珍しい話でもない。
「怖がらなくても大丈夫です。
注意報が出てから被害報告は出ていませんし、もう大丈夫でしょう。
・・・それにいざとなっても聖女エミリーがいます。
聖女は性格はさておき、とても優秀なお方なのですよ。」
「『性格はさておき』って、どういう意味よ!?」
そのまんまの意味だけど。
それはともかく、聖女であればドラゴンを倒すのは叶わずとも、ドラゴンから人や住処を守る力はある。
「そっかぁ。
だったら安心かなぁ?」
もっとも、そんな聖女の力を軽々と打ち破ったお方が傍にいるんだけど。
ひょっとしなくても、ドラゴン以上に危険な人物よね・・・彼。
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そんな雑談をしている内に冒険者ギルドへと辿り着いた。
「では、ギルドマスターと話を付けてきますわ。」
「冒険者、かぁ。
・・・なんか憧れるよなぁ。
俺も冒険者になれるかな?」
え?
「ええ、ええ。
もちろんなれますとも!!
ささっ、そうと決まれば、すぐにでも登録を済ませましょう!!」
「ちょちょ、ちょっと待ってよ。
エミリー。」
・・・聖女ったら、勇者なら冒険者になって大儲け出来そうだからって。
この世界では、冒険者ギルドで少額の登録料を払えば、誰でも冒険者になる事が出来る。
冒険者達はギルドの依頼をこなしたり、ダンジョンでお宝を見つけるなどして、生計を立てているの。
1つの失敗が死を招く危険な職業だけど、一攫千金を狙って、冒険者を目指す人達は後を絶たない。
確かに勇者なら、冒険者として大成功を収めるだけの能力を秘めている。
だけど見る限り、とても冒険者向きの性格とは思えない。
もっと安全で確実な職業を探す方が良さそうだけど・・・。
う~ん。
「あの~、勇者様は元の世界で何か鍛錬を積んでいたのでしょうか?」
「鍛錬、え~と。
一応、剣道の経験はあるけど・・・。」
なんだか自信なさそうな声で応える勇者。
剣道、かぁ。
「・・・なら、大丈夫だとは思いますが。」
「ちょっと、王女。
剣道って何?
剣の修行の事なの??」
聖女が私の耳元でこそっと聞いてくる。
異世界の単語だから、聖女と言えど、よく知らないみたいね。
「ええ。聖女の言う通り、剣の修行の事よ。
だけど本物の剣は使ってないわ。竹刀で修行しているの。
この世界で例えるなら、兵士達の鍛錬と似たようなものね。」
「兵士達の鍛錬と似たようなものって・・・。
実戦で人やモンスターを斬ったりはしないの?」
「・・・してないと思うわ。
勇者達が住んでいた国って平和らしいし・・・。
モンスターなんていすらしないんだから。」
「・・・。」
平和ながら、勇者達の世界は武術がそれなりに盛んだと例の本には書かれてある。
剣道以外にも、空手やボクシングなどと言う格闘の修行も存在するそうよ。
でもどれだけ激しくても、命の取り合いにまではほぼならないみたいね。
「それって、本当に大丈夫なの?
鍛錬と実戦じゃあ、かなり違うわよ。」
聖女の意見も最もである。
とは言え・・・。
「確かにそうね。
すぐに実戦で大活躍・・・とはいかないと思うわ。
けど、そうバカにしたものでもないわよ。」
「そうなの?」
「鍛錬だとしても武術の経験がある方が、心や体が強靭な場合が多いのよ。
未経験者よりは、戦闘に馴染むのも早いし・・・。」
異世界の武術は実戦で即座に役立つようなものじゃないわ。
それでも、ロクに鍛錬を積んでいない人よりは圧倒的に強いのも事実よ。
「う~ん、つまり資格みたいなものかしら?
経験を積んでいれば就職に有利になる、みたいな。」
「そういうものかしらね。
あと剣道は竹刀を両手に持って修行しているらしいわ。
だから両手剣のスキルを身に着けやすいってのも、利点ね。」
両手で剣を持って戦う、って所は共通しているからね。
「え、そうなの!?
・・・じゃあ俺もいつか、カッコいい両手剣スキルを修得できるかな?」
「ええ、もちろん・・・って、勇者様!?
いつからお話を聞いてらっしたのですか??」
「いつからって・・・。
なんか聞かれたらマズい事、言ってたの?」
ギクッ。
「い、いえいえ。そんなまさか。
勇者様ならきっと、偉大な剣士になれるはずだとお話していたのですわ!!」
「そ、そう?
・・・それはどうも。」
勇者ったら、なんだか複雑な表情だけど、怒ってはなさそうね。
あ、危なかった・・・。
「ちょっと王女。何をそんなにビビってるのよ。
別に聞かれてマズい事なんか、何も話してなかったでしょ?」
・・・聖女ったら、転移勇者に対する認識が甘すぎるわ!!
今度こそ勇者に聞こえないよう、こそっと返事をする。
「あのね、聖女。その認識は甘すぎるわよ。
転移勇者はね、自分の特技に強い誇りを持っているの。
特技だけで世界を制圧できる、って考えている奴だっているんだからね。
『訓練だから実戦ではすぐに通用しないかも』なんて、彼らにとっては処刑も辞さないほどの暴言よ!!」
転移勇者はこちらの世界に来た瞬間、ほぼ確実に『チート能力』と呼ばれる強大な能力が付与される。
なので実際のところ、特技の有無に関係なく、大きな結果を残す事も珍しくない。
自分に絶対の自信を持っているからこそ、多少、シビアな意見を述べただけでも怒り狂うと伝えられているの。
「え~・・・テンイならあれくらいの発言でキレないでしょ。
そこまで過激な子には見えないわよ。」
「あのねぇ、聖女は大雑把に考えすぎ!!」
正直、彼が転移勇者でなければ、聖女と同意見だったでしょうね。
でも彼は巨大すぎる力を持っている。
下手すればほんの一瞬で、傲慢な破壊神へと変貌しかねない。
「大雑把って。なんか釈然としないわね・・・。
とにかく話を付けてくるわ。」
そう言って、聖女は冒険者ギルドの中に入っていった。
「あっ、待ってよ。
エミリー。」
そして聖女の後を勇者が続く。
・・・。
今回は大丈夫、よね。
召喚されたばかりの時とは違って、勇者も落ち着いているし。
ちょっとだけ暴走を心配しつつ、私は冒険者ギルドへと入っていた。