第84話 不殺の剣編⑥ ワイバーン襲来!!
第12話以来、全く出番の無かったスキル『斬撃波』の活躍回です。
魔法やスキル1つ使うだけでも、一々周りを巻き込まないか気にせざるを得ないテンイも大変ですねw
・・・けどまあ、現実でも危険物を扱う際は細心の注意を払うものだし、多少はねww
「キシャアアアアアアアア!!!!!!!!」
不殺の剣を手に入れる為、小さな村へ入った私達。
けどそこで待ち構えていたのは、なんとワイバーンだったの!!
「あ、ああ・・・。」
村を壊されるのが我慢ならず、一人剣を持って待ち構えていたお爺さんもワイバーンの迫力に震えるばかり。
「・・・あれがワイバーン、か。」
「おっきい~。」
「って、のんびりしとる場合か!?
逃げろ。
早く逃げるんじゃあ!!」
それでもお爺さんは私達を逃がそうと声を荒げる。
「キシャアアアアアアアア!!!!!!!!」
でもワイバーンは無情にも私達に向かって突撃し・・・。
「フォース・バリア!!」
「ギシャ!??」
聖女お得意のランク4の防御魔法により、遮られたわ。
ワイバーンのパワーでは、ドラゴンやヒドラの猛攻をも防ぐこのバリアを破る事は出来ないでしょう。
「・・・???
娘、お主、たった一人でワイバーンの突撃を防いだの、か?」
「と~ぜん!!
なんたって私は聖女エミリーだもの。」
「聖女エミリー!?
娘、まさかあの有名な旅の聖女エミリーなのか!??
聖女の名を騙るペテン師とばかり・・・。」
「・・・ペテン師って。
あのねぇ。」
基本的に私達って、そういう風に思われる事が多いのよねぇ。
無理もない話だけど。
勇者や聖女、王女の名を騙る輩なんて、腐る程いるもの。
「って、そんな事より王女!!
私が時間を稼いでいる間に早く考えなさい。
テンイが上手い事、ワイバーンを倒す方法を。」
「そうね。
・・・その前にクロ!!
私達以外の人間、誰も傍にいないわよね?」
「ん~っとね~。
・・・・・・。
大丈夫、人の気配は感じないよ~。」
それを聞いて安心したわ。
なら、多少派手な攻撃をしても、誰も巻き添えになる事は無さそうね。
あとはどんな魔法 or スキルであれば、物理的な被害を抑えられるかだけど・・・。
「斬撃波。」
え。
「俺の斬撃波って、ふつ~に使ったら危ないけどさ。
けど上空を飛び回っているワイバーンに向けてなら、撃っても大丈夫じゃないかな?」
『斬撃波』は斬撃を飛ばし、遠くにいる相手を切り裂く両手剣スキルの1つよ。
初歩的な両手剣スキルで私辺りが使っても、岩にわずかに亀裂を入れるのがやっと。
けどチート能力でパワーが超強化されている勇者が使うと、遥か彼方に見える岩山を斬りかける程の威力になるのよね。
想定外の被害が怖くて、どうぞお使い下さいとはとても言えなかったんだけど。
「そうですね・・・。
大空にいるワイバーンに向かって撃つ分には、何かを巻き添えにする心配は無いのかもしれません。」
この世界は勇者の国と違って、空飛ぶ乗り物を使って人が移動したりはしないもの。
一応、飛行魔法で飛んでいる人もいなくはないけど、クロの索敵で近くに人がいない事は確認済。
だったら、斬撃波でワイバーンを斬るってのは理に叶ってるわ。
けど。
「珍しいですね。
勇者様が使いたいスキルをリクエストするなんて。」
普段はどんなスキルや魔法を使って戦うかなんて、それほど気にしないのに。
「・・・まあね。
だけど今回は剣技であのワイバーンを倒したいんだ。」
「わかりました。
確かに空中の敵を斬撃波で倒すのは良い選択肢だと思います。
空を見渡す限りあのワイバーン以外、誰も飛び交ってないみたいですし。」
「話し合いは終わったようね。
じゃ~準備が出来次第、バリアを解除するわよ。」
「って、こりゃ。
待たんか!!」
お爺さん?
「斬撃波でワイバーンを倒すじゃと?
ありゃランク1のスキルじゃろうが・・・。
無理に決まっとるわ。」
「だいじょ~ぶだって。
おじ~さん♪」
「・・・なんでそんな自信満々なのじゃ?」
常識から考えたらお爺さんの指摘は正しいわ。
普通ならランク1のスキルなんかじゃ、ワイバーンにかすり傷を負わせるのがやっとだもの。
けれど心配しなくても平気。
「お爺さん、信じて下さい。
俺の・・・いや。
剣の可能性を、どうか信じて下さい!!」
「坊主・・・お主。」
「じゃ、バリアを解くわよ。
テンイ!!」
勇者が剣を構えたのを確認し、聖女が防御魔法を解除する。
障害物が消えた事で、ワイバーンは嬉しそうに私達の方へと近づいて来るわ!!
「斬撃波!!」
そんなワイバーンに向かって、勇者は強大な斬撃を飛ばしたの。
ランク5のスキルをも上回るパワーがワイバーンに迫り・・・。
「キシャアアアアアアアア!!!!????」
哀れ、ワイバーンは真っ二つに斬り裂かれたの。
ワイバーンを斬り裂いてなお、放たれた斬撃は空に打ち上がり続けたけど。
しばらくすると勢いも萎み、斬撃は消滅したわ。
その様子を見る限り、空中へ放つ分には目に見える範囲で誰もいなければ大丈夫そうね。
勇者は剣技が一番好きみたいだし、空を飛ぶ敵には『斬撃波』で戦ってもらおうかしら。
「やったぁ。
ワイバーンの素材、Get~♪」
あ。
欲望塗れの聖女が嬉々として、ワイバーンの死骸に向かって走り出しちゃった。
・・・ま~た素材集めのようね。
相変わらず、抜け目がないわ。
まっ、いつもの事だし、彼女は一旦放っておくとして、と。
「ではお爺さん。
約束通り、不殺の剣を譲って頂けないでしょうか?」
「あ・・・ああ。
わかっとるわい。」
勇者の非常識な剣技に半ば放心しつつ、不殺の剣を取りに道場の中へと入っていくお爺さん。
とりあえず約束は守ってくれるようで安心したわ。
「!!!!
ああああああああ!!??」
勇者?
どうしたの!?
急に悲鳴なんか上げて。
「俺の、剣が・・・。
王女からもらった鉄の剣が壊れちゃった!!
うっ、うう。」
「・・・なんだ、そんな事でしたか。
安物の剣ですし、そこまで悲しまなくても良いじゃないですか。」
「けどさ。
この剣、俺にとっては異世界で初めての剣だからさ。
それが壊れちゃったって思うと、なんだか悲しくなって・・・。」
「勇者様は本当に剣に対する思い入れが強いですねぇ。」
私は呆れ半分、関心半分に呟く。
「仕方ありませんよ。
強いスキルを使い続ければ、それだけ剣の負担も大きくなり、壊れやすくなります。
むしろあのような鉄の剣でよくぞ、あそこまで持ちこたえたと思いますわ。」
それは勇者が剣を大切にし、かつ扱いが上手かった証拠かもしれない。
「しかし不殺の剣を貰えたとしても、あれは魔物を倒す用途には向きません。
あとで予備の鉄の剣をお渡ししますね。」
「・・・うん。」
とは言ったものの、壊れやすい安物の剣を勇者に持たせ続けるのも好ましくないわね。
戦闘中に剣が壊れたりしたら、危険すぎるもの。
どこかで良い剣を売ってる店を見つけたら、購入を検討しましょうか。
「ご主人様~、王女様~。
お爺ちゃん、戻って来たよ~。」
あら。
「坊主・・・確かテンイと言ったな。
村を救ってくれた礼として、不殺の剣を何本かやろう。
予備に取っておいたやつじゃから新品じゃぞ。」
「ありがとうございます!!
・・・これが不殺の剣かぁ。
見た目は木刀と似てるね。」
「ですね。
けどそれでも魔法剣の一つですから、耐久力はかなりのものです。
並の剣に斬り飛ばされる事はないでしょう。」
そういう所も木刀には無い長所よ。
「ちょっと待たんかい!!
そりゃ不殺の剣でも一応、真剣と結び合えなくはないがの。
まさか鍛錬や試合のためではなく、護身用の剣として使う気か!?」
「そうですけど。」
「護身のための剣なぞ、普通の剣で十分じゃろが!!
ってお主、もしかして人を斬りたくないから、不殺の剣を欲して・・・。」
「はい。」
「この愚か者め!!
人を殺す覚悟もない者に剣士なぞ務まるはずなかろう!?」
確かにこの世界では特に珍しくもない考え方でしょうね。
前に聖女が話していたけど、冒険者や剣士と呼ばれる人の中にも積極的に人を殺したがらない人は少なくない。
けどそういった人達でも大抵は、自衛のためなら仕方なくながら人に手を掛けるわ。
身勝手な悪人の命と自分の命、どっちを大切にすべきかなんて考えるまでもないから、それを責める事は誰にも出来ないけれど。
「・・・そうですね。
この異世界ではそれが剣士として、正しい在り方かもしれません。
けど俺は人を殺めない剣士を目指していくつもりです。
それが元の世界で身に付けた剣士としての生き方ですから。」
お爺さんに対し、勇者は自分なりの剣の道を語る。
それが剣士として本当に正しいかはわからない。
けど、彼なりの信念である事には変わりないわ。
「テンイ・・・お主。」
「!??
ご主人様、気を付けて・・・。
あいつが、来たの!!」
そんな事を話していると、クロが突然大声を出し、勇者に注意を促したの。
あいつって、まさか!?
「まさかこのような村にいたとはな・・・。
探したぞ、テンイ!!」




