第80話 不殺の剣編② 剣士としての覚悟
突然、剣士の風上にも置けないような男、ヒーツに勝負を挑まれた勇者。
けれど人を殺める事を恐れる余り、彼は隙を晒し、窮地に追い込まれてしまったの。
「死ねーーーー!!!!
テンイ!!」
「う、うわぁああああああああ!!!!????」
勇者!!
「サード・シールド!!」
しかしヒーツの剣が勇者に届く事はなかった。
聖女が魔法で盾を作り出し、ヒーツの剣を弾いたから。
「何っ!?」
『サード・シールド』はランク3の盾魔法よ。
並の剣、並の使い手が斬り裂けるような盾じゃないわ。
「き・・・貴様ぁ!!
って、テンイが消えた?
奴はどこだ!?」
「ご主人様をいじめないで〜!!」
そして動揺しているヒーツの隙を突き、クロが勇者を安全な場所へと避難させる。
クロったら、こういう事がどんどん上手くなっていくわね。
勇者を助け出したのは立派だけど、危険に慣れてしまわないか、不安だわ・・・。
・・・って、今はそんな事を気にしてる場合じゃないわね。
聖女とクロの活躍にヒーツは戸惑っている。
今よ!!
「サンダー!!」
「ぐわぁああああああああ!!??
お、女ぁ・・・。」
私はランク1の雷魔法を使い、ヒーツを攻撃する。
ヒーツも素人ではないから、この程度の魔法じゃ致命傷とはならないけど、それなりに効いたようね。
「・・・し、真剣勝負に水を差すとは。
卑劣なビッチどもめ!!」
「いや、卑劣って・・・。
隠れて不意打ちするような人が言う?」
ヒーツって、剣よりブーメランを使う方が得意なんじゃないかしら?
「大体、自分勝手な辻斬り野郎が『真剣勝負』ぅ?
寝言は寝て言いなさいよ!!」
「そ〜だ。
そ〜だぁ。
・・・?〜。」
ヒーツの戯言を煽る聖女と、(意味はわかってなさそうけど)便乗するクロ。
「ぐっ・・・。」
「そもそもあんたはくっだらない名声が欲しいだけでしょ?
だったら『私はテンイに勝ちました〜』って、いくらでも言えば??
一応、勝ったのは本当だから、私達も否定しないわ。」
「黙れぃ!!
私は綺麗な女を侍らせて、良い気になってるスカしたイケメン野郎をなぁ。
実力で叩きのめした後、惨めに命乞いする姿を嘲笑いながら、斬り殺したかったのだ。」
「・・・うっわぁ。
最低。」
確かに最低ね。
つまりヒーツは何もしていない勇者を勝手に嫌った挙句、殺そうとしたのだから。
でもそ〜いう動機もあるなら、茂みに隠れて奇襲を仕掛けた意味がわからないわ。
支離滅裂すぎない?
まあ、とにかく。
「どっちにしろ、テンイを殺させる訳にはいかないの。
どうしてもって言うのなら、私達が相手よ・・・。
王女!!」
「ええっ!!」
「む〜〜〜〜。
これ以上、ご主人様をいじめると怒るよ!!」
いくら剣士としての誇りが欠片も無いとは言え、ヒーツの実力は侮れない。
私1人で勝つのは難しいでしょう。
だけど強力な防御魔法が使える聖女と一緒なら、どうとでもなるでしょう。
今のヒーツは『サンダー』でそこそこのダメージは受けてるしね。
「ぐっ・・・。
止むを得まい。
ここは一旦、引くとしよう。」
ヒーツも分が悪い事はしっかり理解しているのか、素直に引き下がってくれたわ。
やっぱズル賢い男ね〜。
「だがな、テンイ。
所詮、人を斬る覚悟も無いお前は何も守れない・・・。
せいぜい、無様に女に守られる程度よ。」
「!!」
「女共もそんな男と一緒にいた所で、命を落とすのは時間の問題だ。
ならばこの私に従う方が利口ではないか?」
え、ええ〜・・・。
「いや、辻斬りに従うのはちょっと。」
「お断りよ、バカ!!」
「あたしもヤダ〜・・・。」
「・・・ふん。
まあ、良い。
テンイよ、これで終わったと思うなよ。
この傷が癒えたら、私は再びお前の前に現れる。
その時がお前の最後だと思え!!
はーっはっはっはっ。」
そう格好付けつつも、微妙にフラフラしながらヒーツは去って行った。
『サンダー』で受けたダメージの影響かしらね。
「あいつ、まだテンイの命を諦めてないの!?
追い打ちを掛けた方が良いのかしら?」
「そうね。
殺すのは嫌だけど、反省するまで痛めつけた後、お役人に引き渡した方が安全かも。」
なんかまた襲う気満々だもの。
クロがいれば奇襲を受けにくいとは言え、このままだと不安は拭えないわ。
「き、君達・・・。
台詞がちっとも女の子らしくないよ。
・・・相変わらず、たくましいね。」
「あっ、テンイ!!
今更だけど、大丈夫?
怪我はないみたいだけど、念のため回復魔法でも掛けとく??」
「・・・平気だよ。
あいつに斬られる前に君達に助けてもらったからね・・・。」
確かに声に全然元気は無いけど、特に怪我はないみたい。
「別に追い打ちなんか良いから、さ。
・・・早く旅に戻ろうよ。」
「ご主人様。
落ち込んでる〜・・・?」
「・・・・・・。」
勇者が落ち込むのはいつもの事だけど、今回はいつも以上に凹んでるようね。
・・・・・・。
********
「・・・・・・。」
こうして旅を再開した私達だけど、く・・・空気が重いわ。
「あのねぇ、テンイ。
1回や2回、負けたくらいでいつまでもクヨクヨしないの。
男の子でしょ!?」
見かねた聖女が勇者に発破を掛ける。
「エミリー。
で、でも・・・。」
「大体あなた、今までだってチンピラとかに恥を晒して来たじゃない。
今更でしょ?」
「う″っ!?
ouz」
「聖女様〜・・・。
あんまりご主人様に言葉のナイフ、投げないで〜。」
「こらこら。
聖女、クロ。」
死体蹴りするような真似、しないの。
「けど勇者様。
どうして今日はそんなに落ち込んでいるのです?
・・・得意の剣で負けた事が悔しかったのはわかりますが。」
「!!
・・・。
単純な剣技なら、俺の方が上だったと思う。」
「おそらくそうでしょうね。
ヒーツもあんな性格の割に中々の腕前でしたが、勇者様の方が強いと思いますわ。」
別にこれはお世辞ではなく、客観的に見てそう感じたわ。
なのに勇者がヒーツに負けた理由は・・・。
・・・って、まさか!?
「だけど、俺にあいつを斬る覚悟が無かったから。
人を殺す覚悟が無かったから、あいつに負けたんだ。
あいつのように剣士としての覚悟が無かったから!!」
そ、それは・・・。
「あのねぇ、勘違いしちゃダメよ。
ヒーツのあれは剣士としての覚悟じゃないわ。
単に人としての道を踏み外してるだけよ。」
そうよ、そうよ。
あれを剣士としての覚悟と解釈するのは無理があるって。
「だとしてもさ。」
「・・・ご主人様?」
「ねえ。王女、エミリー、クロ・・・。
俺もいい加減、覚悟を決める時が来たのかな?
・・・人を殺す覚悟を!!」




