第79話 不殺の剣編① 辻斬りからの挑戦
私は元ジャクショウ国の第四王女、デルマ。
勇者テンイのハーレム要員(?)として、旅を続けているの。
勇者はトラブルに愛され、よく災難に巻き込まれるのだけど、今日は平和に・・・。
「( ゜д゜)ハッ!
あの先の茂みに誰か隠れてる!!
怖いよ〜・・・。」
・・・平和に過ごせる気がしないわ。
「誰か隠れてる?
クロ、またモンスターの気配でも察知したのかい??」
「モンスターじゃないよ。
隠れているのは人だよ。
けどモンスターのような、怖い感じがするの〜・・・。」
「怖い感じ?
山賊や盗賊の類かしら??
茂みに隠れて、旅人を襲うつもりだとか。」
黒猫族のクロは『索敵』の特性を持っていてね。
近くにいる人やモンスターの気配が分かるの。
しかもただ気配を掴むだけじゃなく、どれくらい強いのか、危険な存在なのか。
・・・なんかも結構、正確に把握出来るみたい。
その辺りの精度は並の索敵魔法よりも秀でてるわ。
それにしても、怖い気配を放ちながら隠れている人間、ね。
どう考えても危なそうだけど、どうしましょう?
「・・・卑劣な山賊め。
隠れてないで姿を見せろ!!」
「ちょっと勇者!?
下手に刺激しちゃ、ダメよ!!」
まだ悪人と決まった訳じゃないんだから。
真っ当な人間だって可能性は低そうだけど。
「偉そうに。
子供が知らせなければ、私が隠れていた事にすら気付けなかった癖に。」
勇者の言葉に対し、茂みから侮辱するような声が返ってきた。
と、思ったのも束の間。
なんと身を潜めていた山賊(?)が、問答無用で勇者に向かって剣を振り下ろしてきたの!!
「なっ!??」
咄嗟に剣を持ち、勇者は相手の攻撃を防ぐ。
「ほう・・・。
腐っても話題の転移勇者。
この程度は防ぐか。」
勇者から距離を置きながら、山賊が呟く。
「いきなり強襲!?
山賊って最初は脅し文句から始まるんじゃないの!??」
以前出会った山賊達はそ〜だったんだけど。
「この私を山賊とは、無知な女め。
・・・ならば教えてやろう。
最強の剣士である、ヒーツの名を!!」
誰、それ?
「ヒーツ・・・?
あっ!?
ヒーツって、確か。」
「知ってるの〜?
聖女様〜。」
「ええ。
自分の名を上げるためなら手段を選ばない、卑劣な剣士よ。
いろんな場所でそれなりに噂になってるわ。」
・・・あの男。
山賊じゃなくて、剣士だったんだ。
「卑劣・・・だと?
噂を間に受け、偉大な剣士であるこの私をそのように侮辱するとは・・・。
なんと愚かしい。」
「・・・茂みに隠れて、奇襲を目論んでたわよね。
それで卑劣じゃないつもりなの?」
「笑止・・・。
あの程度の不意打ちにも対応出来ない者が弱いだけだ!!」
い、いや。
そりゃ戦場の兵士とかならね。
あの程度の不意打ちくらい、許されるかもしれない。
けど彼は剣士として名を上げたいんでしょ?
あんなやり方で他人を討ち取ったとしても、評判なんか上がらないって。
「大体、なんでテンイを狙うの?
あんたなんかに狙われる筋合いなんて、無いわよ!!」
「・・・とぼけても無駄だ。
テンイが悪名高き山賊王、ジークを討ち取った事はあちこちで噂になっている。」
「山賊王って。
あのジークにそんなおかしな二つ名が付いてたなんて・・・。」
いくらジークでも、草葉の陰で泣き喚くんじゃないかしら?
そもそも勇者は別に彼を討ち取ってなんかいないわ。
文字通り、彼が自爆しただけよ。
「それだけではない。
野良ドラゴンやヒドラを一撃で倒した、エンシェントドラゴンを配下にした・・・。
そんな到底信じられないような噂がそこら中で広まっている。」
「あら〜・・・。
改めて聞くと、テンイの功績ってとんでもないわねぇ。」
ほぼほぼ、災難に巻き込まれた結果なんだけど。
本当、転移勇者の運命力って恐ろしすぎるわ。
「更にテンイは剣の腕も達人級と聞く。
そんな噂だけは凄いテンイを討ち取れば!!
私の剣士としての名声はより大きくなるだろう。」
「傍迷惑すぎるわよ!?」
「・・・たまにいるのよねぇ。
有名人を倒して名を上げようとか目論む連中が。
相手が悪人でもない限り、普通に犯罪なんだけど。」
そうよね。
この世界はあからさまな悪人であれば、殺しても罪に問われないの。
むしろ称賛されるくらいよ。
だけど、殺しても許されるのは悪人だけ。
なんの悪さもしてない人間を一方的に殺したりしたら、当然ながら重罪人となるわ。
「そんなもの、相手の方から襲い掛かったとでも言えば良い。
正当防衛による返り討ちは罪に問われぬからな。
それに転移勇者を討ち取る程の猛者と知れば、事情はどうあれ迎え入れる国など腐るほどあるわ!!」
「うっわ!?
汚っ!!」
「と、言うわけだ。
テンイ。
悪いが私の名声のため、死んでくれ!!」
「な、何が『と、言うわけだ。』だ〜〜〜〜!??」
こうして山賊よりも性質の悪い剣士、ヒーツが勇者に襲い掛かってきたの。
慌てふためきながらも、手に持った剣で相手の攻撃を防ぐ勇者。
「う〜ん・・・。
さすがは悪名ながらも、そこそこ有名な剣士。
剣の腕は中々のものね。」
「・・・ご主人様。
大丈夫かなぁ?」
「単純な剣技なら、勇者の方が上だと思うわ。
けど・・・。」
容赦なく剣を振るうヒーツに対し、勇者は防戦一方となっている。
けどそれは決して勇者よりヒーツの方が剣に長けているからではない。
・・・おそらく彼は。
「くっ!?
うぉおおおお!!!!」
「ぐわっ!?」
それでも身の危険を感じた勇者の剣が、ヒーツの肩を浅く斬り裂いたの。
致命傷とはほど遠いけど、痛みのせいかヒーツに隙が生じている。
このまま攻めれば、勇者はヒーツに勝てるはず。
だけど。
「あっ、あっ、あっ・・・。」
勇者は顔を真っ青にしながら、震えるばかり。
・・・やっぱり彼は。
「隙あり!!」
「なっ!?」
そんな隙だらけの勇者の剣をヒーツは弾き飛ばしてしまったわ。
「この私に一撃を入れるとは、腐っても転移勇者か。
・・・だがまさか、人を斬る度胸すら持っておらぬとは。
剣士の風上にも置けぬ、臆病者が!!」
「うっ!!
ううっ。」
「所詮、噂などこんなものよ。
もう良い。
死ね、テンイ!!」
ゑ?
なんとヒーツは剣を失い、尻餅を付いている勇者を斬ろうとしている!!
「やめなさい、ヒーツ!!
勇者は剣を弾かれたのよ。
もう勝負は付いてるはずよ!!」
「何を甘い事を・・・女。
剣の勝負は相手を斬り殺すまで、決して付かぬ。」
そんな恐ろしい事を語りながら、狂気に満ちた笑顔でヒーツは剣を振りかぶる。
ま、まずい!?
「死ねーーーー!!!!
テンイ!!」
「う、うわぁああああああああ!!!!????」
勇者!!




