第73話 婚約破棄編⑰ アビス
今更ながら、婚約破棄物の王族・貴族ってど~して愛が冷めたからって、ややこしい立場の女を『婚約破棄』したがるのでしょうね?
王族・貴族の場合、(子孫残さないといけない都合上)一夫一妻を正とする方が無茶なんだし、新たに惚れた女が出来たとしても、婚約破棄なんかせずに二人目の妻として迎えた方が手っ取り早い気がする。
・・・『例え王族だろうが重婚禁止』みたいな法律があるって設定なんかもしれませんがw
ひょんな事から知り合ったお嬢様ミロが、逆恨み男カジリのテロ行為により大ピンチ!?
けれど勇者が偶然召喚した古代竜、エンシェントドラゴンが全てを解決してくれたわ。
しかしエンシェントドラゴンが割と寛容な性格だったから、良かったようなものの・・・。
下手すれば、カジリのテロ行為以上の被害が出てもおかしくなかったわ。
・・・今後は誤って危険なモンスターを召喚しないよう、注意しなければ。
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「『サモン』の前に呼び出したいモンスターの指定が必要!?」
「そうです。
『サモン』だけでは誰が召喚されるかわかりません。
けれど例えばの話、ゴブリンをイメージしながら『ゴブリン・サモン』と唱えれば、確実にゴブリンを召喚出来ます。」
しかし特定のモンスターを呼び出したいのであれば、あらかじめ知識として知っておく必要があるわ。
・・・じゃないと、イメージ出来ないからね。
「ごめんね、王女。
俺、焦り過ぎて、また力を暴走させちゃったみたい。」
「いえ・・・私の方こそ、使うべき魔法のチョイスや、説明の仕方などが悪かったのです。
けれど勇者様は今、召喚魔法のルールを覚えました。
もう、誤ってエンシェントドラゴン様を呼び出すような事態にはならないでしょう。」
「そうだね!!
次からは『ゴブリン・サモン』とか『コボルト・サモン』とかって、唱えれば良いんだよね?
そうすれば、間違ってエンシェントドラゴン様を召喚しなくて済むよね!!」
そうそう♪
力が強すぎて危なっかしい勇者でも、召喚魔法を上手く使いこなせれば・・・。
この世界でも要領よく立ち回れるようになるわ。
「そう我を邪険にしないでくれるか?
・・・さすがに少し悲しくなるのだが。」
「「いえ、別にそう言うつもりでは・・・。」」
し、しまった。
変な誤解、されちゃった!?
別に邪険にしている訳じゃないの。
エンシェントドラゴンは神の使いとも呼ばれるようなお方。
私達の都合でポンポン召喚するなんて、無礼過ぎると思っただけで・・・。
「それにテンイよ。
『ゴブリン・サモン』や『コボルト・サモン』なぞ、使わぬ方が良い。
お主の力では一国をも滅ぼすゴブリンや、神々よりも強いコボルトが召喚されるやも知れぬ。」
嘘!?
「あ、あの~・・・。
そのようなゴブリンやコボルトなんて、さすがに存在しないのでは?」
「同じ人間でさえ、犬・猫より弱い者もいれば、ドラゴンより強い者もいる。
ならば、理から外れたゴブリンやコボルトがいたとしても、なんらおかしくはあるまい。」
そ・・・それは確かに。
勇者と私だって強さだけで言えば、別の生物だと言われてもおかしくない程の差があるもの。
「仮に召喚対象を指定しようが、テンイの魔力が強大である事には変わらぬ。
で、あればむしろ『エンシェントドラゴン・サモン』と唱え、我を呼ぶと良い。
この世界にエンシェントドラゴンは我しかおらぬからな。」
「え~っとですね・・・。
エンシェントドラゴン様って、神の使いなんでしょ?
そんな凄いお方を召喚魔法で呼んで命令するなんて、失礼じゃないかな?」
「遠慮せずとも良い。
明らかに間違った命令で無い限り、全て従ってやろう・・・。」
そんな事を言われても。
とは言え、エンシェントドラゴン以外の召喚を目論み、理から外れた化物が呼び出されでもしたら・・・。
うっ!?
・・・頭が。
「案外、太っ腹ねぇ。」
「テンイは転移勇者として、突出した力を秘めている。
神々をも上回るパワーを持ちながら、しかしその心は普通の人間と変わらぬ。
故に世界を救う救世主にも、破滅に導く破壊神にもなりゆる。」
「いやいや!?
俺は救世主にも破壊神にもなるつもりはないから!!」
その通りよ。
そうなる前に私が勇者を元の故郷に帰してみせるわ!!
それまでは決して危ない目には合わせない・・・。
・・・ってのは、少し諦め気味だけど。
彼ってば端麗な容姿なせいか、女の子だけでなく、トラブルにも愛されているから。
「・・・今はそれで良い。
娘達よ。
テンイが道を踏み外さぬよう、しっかり見ておくのだぞ。」
「?~。
どういう事~?」
「そんなに難しく考えなくても良いわ、クロ。
エンシェントドラゴン様はね。
今まで通り『悪い事はせずに、皆で楽しく過ごしましょう』って、言ってるの。」
「わかった~♪」
「・・・まあ、間違ってはおらぬ。
のかな?」
悪い事をせずに、楽しく過ごす。
それさえ守っていれば早々、道を踏み外したりしないわ。
「さて、と。
もう用は済んだであろう。
であれば、我を元の場所へ戻してくれぬか?」
「あの~、王女・・・。
召喚したエンシェントドラゴン様って、どうやって帰せば良いの?」
「!??
そんな事も知らぬ者が我を呼べたのか!?
・・・信じられぬ。」
確かに基礎知識も理解せずに最強のドラゴンを召喚出来るなんて、滅茶苦茶よね。
でも確かに、勇者に召喚したモンスターを戻す方法は教えてなかったわ。
「エンシェントドラゴン様。
少々お待ちを・・・。
今から勇者にあなた様を帰す方法をお伝えしますので。」
「今から伝えるだと!?」
「勇者様、別にそれほど難しい事ではありません。
召喚した対象に対し、元の場所に帰るよう、念じるだけで良いのです。
今からやって見せますね。」
私は召喚したまま、ほったらかしにしていたホーンラビットに向かって、元の場所に帰るよう念じる。
するとエンシェントドラゴンの登場により、すっかり萎縮していたホーンラビットが安堵の表情を浮かべながら消え去った。
召喚者と召喚したモンスターは特殊な魔力で繋がっているの。
だから、こんな事も出来るのよね。
「うん、わかった!!
意外と簡単そうだね。」
「・・・いくら基礎技術とは言え、たった一目で理解したのか!?
もしやテンイは『スキルコピー』の特性を・・・。
しかし召喚魔法を『スキルコピー』で身に付けたのであれば、元の場所へ戻す方法など、教えるまでもないはず。
・・・まさか単純な見様見真似で!?」
エンシェントドラゴンったら、何やらぶつぶつ呟いてるわね。
気持ちはわからなくもないけど・・・。
勇者はチート能力だけが常識外れな訳じゃないもの。
「じゃあ、エンシェントドラゴン様。
今日は色々、ありがとう!!」
「う、うむ・・・。
・・・。
・・・アビス。」
「アビス?」
あっ?
「エンシェントドラゴン様の名前よ。
本に書いてあったわ。」
『エンシェントドラゴン』はあくまで種族名だからね。
「うむ。
一々『エンシェントドラゴン』と呼ぶのも長かろう。
今後は『アビス』と呼ぶが良い。」
「うん、わかった。
アビス様。」
「『様』もいらぬぞ?
テンイは我の主だからな。」
エンシェントドラゴンに主として認められるなんて・・・。
勇者は私の予想を遥かに超えた存在なんでしょうね。
そして勇者が念じる事でアビス様の体が徐々に薄れていく。
「ではまた会おう。
異世界の勇者とその仲間達よ。」
こうしてアビス様は元の場所へと帰って行った。
一応、アビス様は明らかに間違った命令以外なら従うと約束してくれたわ。
そして今回のお願い程度なら『間違った命令』だとは思われてないはず。
だったら、これからの災難のほとんどをアビス様任せにするのも手だけど・・・。
「ああ言ってはくださいましたが、あまりアビス様を軽々しく呼んではいけませんよ?」
「ですよね~・・・。
神の使いだもんね。
残念だけど、アビスの召喚は本当に困った時だけにするか。」
「それが良いと思います。
本当にアビス様の力が必要になったら、その時は遠慮なく頼りましょう。
・・・これ以上、そんな事態に遭遇したくありませんが。」
気軽にアビス様に頼れない以上、勇者はまだまだ自分の力に振り回されそうね。
「サーラ・・・。
サーラ!!」
あっ!?




