第72話 婚約破棄編⑯ エンシェントドラゴン
逆恨み男カジリの暴走により、ミロは命の危機に見舞われる。
そんな彼女を救うべく、勇者は召喚魔法を使って対抗する!!
けれど、何を召喚するか指定しなかったせいで、呼び出されたモンスターは・・・。
モンスターは!!
「ウォオオオオオオオオンンンンンンンン!!!!!!!!」
エ、エンシェントドラゴン!!!!????
「エ、エンシェントドラゴン?
まさかテンイ。
あのエンシェントドラゴンを召喚したの!?」
「おっき~い・・・。」
「「「あ・・・あ・・・。」」」
聖女もクロも、周りの野次馬達も開いた口が塞がらず、唖然とするばかり。
「うわぁ・・・。
綺麗なドラゴンだなぁ。」
の、呑気すぎるわよ!?
確かに眩く輝く金色の鱗は美しいけれど!!
「・・・ふむ。
嬉しい事を言ってくれるではないか。」
「しゃ、喋った!?」
こ、こらこら。
勇者!!
「ダ、ダメですよ。勇者様。
そのような口を聞いては!!
このお方は遥か太古より、神の使いとして世界を見守ってきたと伝えられている最強のドラゴン・・・。
エンシェントドラゴン様ですよ!?
伝説上の存在なのですよ!??」
「マジで!?」
ど、どれだけ危険なモンスターが召喚されると思ったら・・・。
そんな次元では済まされないようなお方を呼び出してしまうなんて。
「計り知れぬ力を秘めた異世界の勇者よ。
この我を召喚したと言う事は、とうとう世界の命運を掛けた戦いが始まったのだな・・・。」
・・・しかもとんでもない誤解をしているみたい。
そんな戦いなんて、始まる気配すらないわよ!?
「しょ、召喚魔法をバカにするなぁ!!
そんなランク1の召喚魔法で適当に呼び出したモンスターがなぁ・・・。
エンシェントドラゴンな訳、ね~だろ~がぁ!!」
「???
何を言っておるのだ?
・・・こやつは。」
「ゴールドゴーレム、シルバーゴーレム!!
そんな図体だけの似非ドラゴン、ぶっ殺してしまえ!!」
「「ガアアアアアアアア!!!!!!!!」」
主の命に従い、自我の無いゴーレム達が全力でエンシェントドラゴンを殴り付ける。
しかしどれだけ殴られてもエンシェントドラゴンは微動だにせず、一切ダメージを受けていない。
殴り続けるゴーレム達を完全に無視し、エンシェントドラゴンが勇者に向かって問い掛けた。
「異世界の勇者よ。
名はなんと言う?」
「テ、テンイと言います。」
少なくとも今は勇者がエンシェントドラゴンの主よ。
なのに彼は緊張の余り、ガチガチに固まっているわ。
・・・無理もないけど。
「ふむ・・・。
テンイよ。
我に何を望む?」
「あ、あの二体のゴーレム達を倒してください。」
「・・・なぬ?
まあ、良かろう。」
未だ健気に殴り続けるゴーレム達に向かって、エンシェントドラゴンが前足で軽く叩く。
「「ガガッ!!??」」
たったそれだけで金と銀のゴーレムはあっけなく砕け散ったの!!
「あっ、あっ、あっ・・・。」
「う、嘘だろ・・・。
ランク3の召喚魔法で生み出されたゴーレムが・・・。
こんなにもあっけなく・・・。」
カジリも魔術師もエンシェントドラゴンの圧倒的な強さを前に、ただただ震え上がるしかない。
「これで終わりか?」
「その、あの二人を気絶だけさせるとか、出来ない?」
「なるほど・・・。
最終決戦前の些事、と言った所か。
良かろう。」
勇者の頼みを聞き入れ、エンシェントドラゴンはカジリと魔術師を睨み付けた。
「「はうっ・・・。」」
一睨みでカジリと魔術師は仲良く気絶する。
って、眼力だけで人間を気絶させたの!?
ど・・・どれだけでたらめなドラゴンなのよ・・・。
「さて、些事は終わった。
ついに世界の命運を掛けた戦いに挑むのだな?」
「・・・これで終わりです。」
「・・・・・・。
ん″!?」
圧倒的な存在感を誇るエンシェントドラゴンが訝し気に声を唸らせる。
「す、すみませんでしたーーーー!!!!
ランク1の召喚魔法を使ったら、たまたまあなたが召喚されたんですぅーーーー・・・・・・。」
「なんだと!?」
「も、申し訳ありませんでしたーーーー!!!!
召喚したいモンスターを指定しなければいけない事を伝え損ねまして・・・。
それで偶然、あなたが呼び出されてしまっただけなんです・・・・・・。」
「い、いやいや。
いやいやいやいや!!」
勇者と私はエンシェントドラゴンに対し、無礼を謝罪したの。
けれどエンシェントドラゴンもどうしてか、混乱し始めたわ。
「ま、まあ、些事で我を呼び出した事は構わぬ。
召喚魔法で呼び出された者は、よほど理不尽なものでない限り、主の命令に従うのが道理だからな。
しかし先ほどの男も言っておったが、ランク1の召喚魔法で我を呼び出しただと?
しかも召喚したい対象の指定すら行わなかっただと??
ありえぬ・・・。
ありえぬわ!!」
エンシェントドラゴンなんて、ランク5の召喚魔法ですら、呼び出せるか怪しいもの。
おっしゃる通り、ランク1の召喚魔法で呼び出せるようなお方ではない。
・・・普通なら。
「えーっと、勇者様はですね。
チート能力により、魔法やスキルの威力を通常の数十倍、数百倍にしているのです。
だから・・・。」
「そんなバカな?
しかし我がテンイに召喚されたのは紛れもない事実・・・。
・・・む、むむむ。」
エ、エンシェントドラゴンすら混乱させるとは。
それだけ勇者のチート能力が前代未聞なのかもしれない。
「では、こうしよう。
何でも良い。ランク1の魔法かスキルを使い、そなたの力を証明してみせよ。
ならば、些事で我を召喚した事は水に流そう・・・。」
「さっきは『些事で我を呼び出した事は構わぬ』って、言ってたじゃない・・・。」
「・・・知らぬな。」
「意外と俗っぽい性格ねぇ。
テンイの力が気になるのはわかるけど。」
よ、良かったわ。
とにかく勇者の力を見せつければ、うっかり召喚してしまった事は見逃してくれそうね。
「けど、迂闊に魔法やスキルを使ったら危ないしなぁ・・・。」
「こんな時こそ『巨大化』ですよ!!
あれが一番、見せ物用のスキルとしては便利ですから。」
「そっか!!
そうだね。」
単に剣を大きくするだけだもの。
下手に振り回さなければ、全く危険が無いのが『巨大化』の大きな長所よ。
彼は剣を空高く掲げ、そして・・・。
「巨大化!!」
ランク1のスキル『巨大化』を発動。
勇者の構えた剣がエンシェントドラゴンさえ、一刀両断出来そうな程、大きくなったわ。
「な・・・なんと!?
そなたの言った事は本当だったのか。」
「「「な・・・な・・・な・・・。」」」
エンシェントドラゴンも周りの野次馬達も勇者のチート能力に唖然としている。
「じゃあ、戻しますね。」
巨大化を解除し、剣を元の大きさへと戻す勇者。
「テンイよ・・・。
先ほどの非礼は詫びよう。
・・・そなたこそ、この世界を救う救世主かもしれぬ。」
「い、いえ・・・そんな大層なものでは。
悪しき王の手により、強引にこの世界へと連れて来られただけです。」
「・・・ふむ。
勇者召喚に偶然、巻き込まれてしまったのだな。
しかし、これもまた運命か・・・。」
今回は幸運にも、誰の犠牲を出さずにトラブルが解決したわ。
けれど一歩間違えれば、より悲惨な事態に発展していたかもしれない。
転移勇者を正しく導くのって、本当に難しいわねぇ。




