第70話 婚約破棄編⑭ 金と銀のゴーレム
逆恨み男カジリは元婚約者であるミロを殺すため、後先すら考えずに(自称)最強の魔術師を雇う。
魔術師は第1の刺客として、ストーンゴーレムを召喚するも、魔族サーラの拳により、あっけなく打ち砕かれたわ。
・・・けれど。
「いでよ、我が最強の下僕よ。
サード・ゴールドゴーレム・サモン!!」
なんと魔術師はランク3の召喚魔法を使い、金色のゴーレムを呼び寄せたの!!
「あ・・・あれはゴールドゴーレム!?
ストーンゴーレムよりもはるかに強力なモンスターよ!!」
ゴールドゴーレムは金の体を持つゴーレムで、ストーンゴーレム以上の巨体と実力を誇るわ。
ランク1~2の魔法・スキルでは、かすり傷さえ付けられないでしょう。
「やれっ。
ゴールドゴーレム!!」
「ガアアアアアアアア!!!!!!!!」
「うぉおおおおおおおお!!!!!!!!」
ゴールドゴーレムと魔族の拳がぶつかり合う。
が、二者のパワーは互角なようで、互いの体が後ろへと吹き飛ばされる。
「ちぃ・・・。
厄介な。」
魔族ですら、簡単には倒せないなんて・・・。
ゴールドゴーレム、なんて強さなのかしら。
「ど、どうしよう・・・。
ファイアでも使って、あいつを溶かすか?
・・・いや、それよりも巨大化で。」
「ダ、ダメです。
こんな場所であなたの魔法やスキルを使っては、周りに被害が・・・。」
「うっ!?」
それでも勇者が魔法やスキルを使えば、ゴールドゴーレムすら一撃で粉砕出来るでしょう。
でも彼は自分のありあまるパワーをコントロール出来ない。
迂闊に戦うと、大勢の人達を巻き込んでしまうわ。
今はサーラの力を信じるしかないのだけど・・・。
「あの魔族、思ったよりもやるなぁ。
・・・だがな、勝つのはこの俺だ。
サード・シルバーゴーレム・サモン!!」
なんですって!?
なんと魔術師はゴールドゴーレムに続いて、銀色のゴーレムを呼び寄せたの。
シルバーゴーレムは銀の体を持つゴーレムで、ゴールドゴーレムとほぼ互角の実力を誇る。
「何!?」
「殺ってしまえ・・・。
シルバーゴーレム!!」
2体のゴーレムから襲撃を受け、さしものサーラも劣勢を強いられてしまう。
一応、一度に2体以上のモンスターを召喚出来なくはないけど、そんな事をすれば、より制御が難しくなるわ。
特にゴーレム系のモンスターは自意識が無い分、スムーズに動かすのが大変だもの。
その辺は『ペーパー・サモン』で式神を召喚した時と同じね。
『最強』は盛りすぎだけど、あの魔術師は召喚魔法の使い手として、かなり優秀みたい。
「困ったわねぇ。
ああも互いの距離が近いと、防御魔法でのフォローも難しいわ。」
そうね。
接近戦の最中、変な場所に盾やバリアを出すと、邪魔になりかねないもの。
けれどサーラ1人でゴーレム2体に勝てるのかしら・・・。
「ガアアアアアアアア!!!!!!!!」
「ぐおっ!?」
私の不安は的中し、シルバーゴーレムの拳がサーラに命中してしまう・・・。
彼は地面に叩きつけられるも、当たりが浅かったおかげで致命打にはなってないようね。
「サーラ!??」
「あっ、ミロ?
行っちゃダメ!!」
でもミロはそう思わなかったようで、心配のあまりサーラの元へ駆け寄ってしまったの。
・・・聖女の制止をも振り切って。
「チャ~ンス・・・。
今だ、あの魔女をぶっ殺せ!!」
「あ~、標的はあいつだったっけな。
悪いがこれも仕事だ。
とっとと死んでしまえーーーー!!!!」
「えっ?」
唖然とするミロにゴールドゴーレムが拳を振り上げる!!
「ガアアアアアアアア!!!!!!!!」
「い、いやぁああああああああ!!!!!!!!」
まずいわ。
もう聖女の防御魔法も間に合わない!!
「お嬢様ーーーーーーーー!!!!!!!!」
しかし間一髪、サーラがミロを強引に後ろに下げ、彼女をゴールドゴーレムの拳から逃がしたわ。
「ぐぁああああああああ!!!!????」
けれど代わりにサーラがゴールドゴーレムの拳をまともに食らってしまったの。
そのまま彼は私達の方まで吹き飛ばされてしまう。
「サーラ!?」
「あっ・・・!?
・・・う、うう。」
さしものサーラもかなり大きなダメージを受けてしまったわ。
この様子では戦うどころか、命だって危ない。
「そ、そんな・・・。
サーラ!!」
「自滅しやがったか、バカな魔族め。
これで邪魔者は消えた・・・。
全員、まとめて死んでしまえぇええええええええ!!!!!!!!」
「「ガアアアアアアアア!!!!!!!!」」
金と銀のゴーレムが私達ごとミロを殺さんと襲い掛かったの。
だけど。
「フォース・バリア!!」
聖女がランク4の防御魔法を使い、ゴーレム達の拳を完全にガードする。
「なんだと!?
ゴールドゴーレム達の攻撃を・・・!!」
「ちぃい・・・。
ま~たあの女か!!
あんなバリア、ぶっ壊してしまえ!!」
金と銀のゴーレムが拳を何度も叩きつけるも、バリアにはヒビ一つ入らない。
いくらゴールドゴーレムやシルバーゴーレムと言えど、聖女のバリアは打ち破れないようね。
「何故だ!?
どうしてあんな華奢な女が使うバリアすら、壊せないのだ?」
「ふんっ。
聖女であるこの私の防御魔法を、甘く見てもらっては困るわ。
ドラゴンやヒドラの襲撃だって、防げるんだから!!」
「聖女・・・だと?
まさかお前、あの聖女エミリーなのか!?
くっ。」
ようやく彼女の正体に気付いたようで、ゴーレム達の攻撃が更に加熱する。
しかしそれでもバリアにはヒビ一つ、入らない。
「そ、そんな・・・。
俺の作った最強のゴーレムでさえ、聖女のバリアは壊せないのか!?」
「残念だけど、そ~いう事ね。
わかったら、早く諦めてお家に帰りなさい!!」
「く・・・くそぉおおおお!!!!」
不敵な笑みを浮かべながら挑発を繰り返す聖女だけど、頬に一筋の汗が流れているのがわかる。
彼女も理解しているみたいね。
追い詰められているのは未だ、私達の方である事を。
確かにゴールドゴーレムやシルバーゴーレムでは、いくら攻撃しようと聖女のバリアを壊せない。
けれど今のままでは、『私達だけは』大丈夫だったとしても・・・。
カジリや魔術師が何も気付かずに、撤退してくれれば良いのだけれど。
「あ、あの・・・。
エミリー。」
「安心しなさい。
乗り掛かった船よ。
あなたやサーラも一緒に守ってあげるわ。」
「け、けど・・・。
バリアの外にいる人達はどうなるのです?
私の両親や、ダンスパーティに来ている人達は!!」
あっ!?
「や、や~ね~。
ミロってば。
そんな事は気付いても知らない振りするべきよ♪」
「そそそ、そうね・・・。
ほら、ミロ。
些事に拘って、聖女の邪魔をするのも良くないわ。」
私達はこれ以上、ミロが余計な事を喋らないよう、説得を試みた。
・・・だけど。
「些事って何よ!!
もし、あいつらが周りの人達を襲い始めたらどうするの!?」
ダ、ダメぇ・・・。
そんな大声で叫んだらさぁ。
「なるほどなぁ・・・。
ミロは随分とお優しい性格みたいだなぁ。
だったらあんなバリア、壊すまでもない。
周りの連中を人質に取ろうぜぇ。」
「おっ、ナイスアイデア!!」
あいつらが人質を取ってしまえって、考えちゃうじゃない。
「あちゃ~・・・。
もう。ミロったら、困った子ねぇ。
自分がやって欲しくない事を大声で叫んでど~するの!?」
「あ。」
だから私も聖女も黙るよう、促したのに・・・。
今の状況では、周りの人達全員をバリアで守るなんて絶対に無理なの。
敵が懐に入ってしまっている上、守るべき陣地が点在してるもの・・・。
故にどれだけ上手に防御魔法を使おうと、どうしても守れない場所が出来てしまう。
・・・物語のヒロインのように、他人を気遣う心は美しいわ。
けれど場合によっては薄情に振る舞う方が、不要なトラブルを避けられるものよ。
「み、みんな~。
人がいっぱい、集まって来てるの~・・・。」
えっ。
「いやぁああああああああ!!!!????」
「な、なんだ・・・あの怪物は???」
「あれはカジリ。どうしてこんな所に・・・。」
しまった!!
・・・いつの間にか野次馬達がこんなに。
「なあ、聖女さ~ん?
今すぐその忌々しいバリアを解いて、ミロを渡してくれよぅ。
じゃないと、あいつらを・・・殺すぞ!!」




