第5話 序章⑤ 旅の始まり
・・・・・・。
・・・。
あ、あれ?
ここは・・・書庫?
あ!?
私、つい寝ちゃって・・・毛布?
誰が掛けてくれたのかしら??
!!
い、いけない。
今日は勇者の今後について、王の間で話があるんだったわ。
急がないと!!
********
「勇者よ、改めてお主に命じる。
聖女と共に魔王討伐へと向かうのじゃ!!」
「・・・。
かしこまりました。」
「ひ、ひぇ。
た、頼んだぞ。」
こうして勇者は王より魔王討伐の旅を命じられた。
・・・理不尽な命令に、勇者ったら射殺すような目で王を睨みつけていたけど。
とは言え、勇者もここに残ってもロクな目に合わないだろうって事は理解しているみたい。
とりあえずは王の命令に従っていたわ。
「あのぅ、ジャクショウ王。
その支度金などは・・・。」
聖女が恐る恐る、支度金について問い掛ける。
「支度金など、用意しておらぬ。
・・・聖女は偉大なる使命にそんなものを求めるのか?
世界平和のための戦いに金を求めるなど、所詮は落ちぶれ貴族よのぅ。」
う、うわぁ。
なんて、どうしようもない発言を・・・。
本当に魔王討伐を実現しようとすれば、少なからずお金は必要になるわ。
それが現実。
だから本気で魔王を倒して欲しいなら、支度金を惜しむべきではないのよ。
・・・こればっかりは、闇聖女よりも父上の方が外道ね。
「!!
・・・わ、わかりました。
愚かな発言をお許しください。」
「うむ。」
けどまあ、勇者と聖女のためを思うなら、支度金など出ない方が良いわ。
なぜなら支度金が出れば、命令を無視した際に処罰されても文句を言えないから・・・。
でも逆に支度金すら出ないのであれば、このような王命に従う義務など一切無い。
金の切れ目が縁の切れ目とは、よく言ったものね。
だから、黙っておきましょうか。
「では行くのじゃ、勇者達よ!!」
王の命を受け、怒りを抑えながら城外へと出ていく聖女。
そして勇者は・・・ん?
私の方に向かっ、て??
ま、まさか私が元の世界へ帰す方法、発見できなくてキレている?
ご、ごめんなさい。
早いとこ見つけて、すぐにでも伝えに向かうから!!
・・・って、私、勇者に元の世界へ帰す方法を探す~なんて、宣言したっけ?
よく覚えてないわ。
「デルマ王女。」
「ど、どうしたのです?
勇者様。」
なんだかモジモジした様子の勇者に戸惑う私。
怒ってはなさそうだけど、どうしたのかしら?
「あの、王女も、俺と一緒に・・・。
・・・いや、やっぱり危険。
でも、けど・・・俺は。」
・・・。
えっと、まさか旅に付いてきて欲しい。とか?
なんでまた・・・。
!!
や、やっぱり、誘拐犯である父への報復目的で私を道連れにしようと!?
・・・けど、そんな風にも見えないわね。
でもじゃあ、どんな意図があるのかしら。
「おお、勇者はデルマ王女と共に旅をしたいか。
うむ、よかろう。
デルマ王女よ、そなたも勇者や聖女と共に魔王討伐へと向かうのじゃ!!」
は、はぁああ!??
何言ってるのよ、このくそじじぃ?
こんな危険な子と一緒にいろって言うの?
冗談じゃないわよ!!
・・・それにねぇ。
自慢じゃないけど私、大して強くないのよ。
勇者云々は抜きにしても、魔王討伐に行けだなんて、死ねって言ってるようなものだわ!!
「ジャクショウ王よ。
お言葉ですが、私の力など勇者様や聖女様の足元にも及びませぬ。
旅へ同行などすれば、足を引っ張ってしまうだけでしょう・・・。」
「な~に、心配いらぬ。
勇者や聖女の力があれば、そなたが足手纏いでも問題あるまい。」
じ、事実だけどムカつく。
勇者には悪いけど、魔王討伐の旅なんて付き合ってられ・・・。
「・・・デルマ王女。」
うっ、勇者!?
なんで、捨てられた子犬のような目で見つめてくるの?
いくらイケメンでも、こんなヤバい力を持った子と一緒なんて嫌よ。
けど、そんな目で見つめられると、誘拐犯の娘としての罪悪感がぁ・・・。
それに離れ離れだと、仮に元の世界へ帰す方法を見つけても、それをどうやって伝えるんだって問題が発生するし。
はぁ。
「・・・わかりました。勇者様。
私も魔王討伐の旅に参加させて頂きます。
足を引っ張らぬよう努力します故、よろしくお願いします・・・。」
「デルマ王女!!」
な、なんでそんなに嬉しそうなのかしら?
普通、誘拐犯の娘なんて、近づいて欲しくもないでしょうに。
・・・理解できない。
「デルマ王女よ。
何があっても、魔王討伐の使命を果たすのじゃ。
見事、魔王を打ち倒し時、再びこの城へ戻る事を許そう。」
つまり、魔王を倒すまで帰って来るなってわけね・・・。
上等じゃない、このくそ親父!!
「王よ、それはさすがに・・・。」
「わかりました!!
魔王を倒すその日まで、この城へは戻らぬ覚悟でいます故!!」
「・・・デルマ王女。
もしかして家出・・・ひぇ!?」
余計な発言を行おうとしたノマール王子を一睨みで黙らせる。
父上である王は私の考えに気付いていないようね。
どうせ私の事なんて、生贄もしくは見張り役程度に考えているのでしょう。
甘いわ!!
「では、参りましょうか。
勇者様。」
「う、うん・・・。」
こうして私、王女デルマも魔王討伐の旅へと出発した。
・・・建前上は。
********
「何よ、あのクソじじぃ。
タダで魔王を討伐して来いなんて、信じられない。
・・・テンイが魔力を暴走させた時、助けずに見殺しにすれば良かった!!」
怖い独り言を呟く聖女の元に、私と勇者は駆け寄る。
「あっ、テンイ様~・・・お待ちしておりましたぁ。
・・・・・・と、デルマ王女?
なんであなたがこんな所にいるのよ??」
「かくかくしかじかで、私も魔王討伐の旅に出る事になったの。」
「あらそう、災難ねぇ。
だけどタダで魔王を倒せなんて言われても、やる気出ないわ・・・。」
なんとも聖女らしくない台詞だけど、こればっかりは彼女の意見が正論よ。
強欲な人間は醜い、でも無償を強要する人間は強欲者以上に醜いものだから。
けれど。
「やる気出ないんなら、魔王討伐の命令なんて無視すれば?
素直に従うメリットなんか0だし。」
「「ええっ!?」」
私の言葉に驚く聖女と勇者。
勇者はともかく聖女まで・・・あの娘、闇聖女の癖に中途半端に生真面目ね。
「け、けど、良いのかい?
命令を無視すれば、さすがのジャクショウ王も黙っていないんじゃ・・・。」
「この国から離れれば大丈夫です。
私達がどこで何をしているかすら、把握できなくなるはず・・・。
・・・そもそもよその国まで私達を裁きに行くような余力、ジャクショウ国にはありませんし。」
むしろ禁忌に近い勇者召喚を行った挙句、無償で命令を下しているのよ。
そんな事がバレたら、裁きを受けるのはジャクショウ国の方だわ。
「あ、あなたは国に戻れなくて良いの?」
「どうせ魔王討伐を命じられた時点で、死んでも構わないって思われてる証拠よ。
もう完全に愛想なんか尽かしたわ。
ジャクショウ国の王女に戻れなくても全然平気!!」
「思った以上に豪胆ねぇ、あなた。」
聖女にそんな事を言われる筋合いはないんだけど。
「じゃあ、これからどうするつもりだい?」
そうね。
せっかくこんな事になったんだから・・・。
「まずは早めにこの国から離れるべきだと思います。
なので、チュウオウ国へ目指しませんか?」
「チュウオウ国と言えば、この世界の中心とも呼ばれる大国ね。」
「ええ。その通りよ、聖女。
チュウオウ国に着いた後、あなた様が元の世界へ帰れる方法を探そうと思います。
・・・けれど、その方法がすぐに見つかるとは限りません。」
勇者を元の世界へ帰すと聞いて、聖女が少し嫌そうな表情を見せる。
彼女からすれば、そんな事はされたくはないでしょうしね。
とは言え、事情を知っているが故に堂々と反対する事もできないみたい。
「だから帰る方法が見つかるまでは、あなた様がこの世界で楽しく暮らせるよう、力を尽くしたいと思います。
金銭を稼ぎ、衣食住を整え、充実した日々を過ごせるようになれば・・・と。」
きっと、勇者をすぐに元の世界へと帰すのは難しい。
なのでまずは生活の基盤を作るべきだと思うの。
・・・生活が安定しないと私達も困るし、勇者の精神だって壊れてしまうかもしれない。
そうなれば彼は悪の道に走り、この世界に災厄をもたらす可能性さえある。
それだけは防がなければ、ね。
もっとも勇者なら、力のコントロールさえ出来れば、生活費を稼ぐ程度は造作もないはずよ。
「王女様の言う通りですわ♪」
あっ、聖女ったら生活の基盤を作るのには賛成なのね。
まあ、上手くいけば大儲けできるかもしれないしねぇ。
「この世界で・・・充実した日々を過ごす。」
「ええ。この世界も醜いところばかりではありません。
楽しいもの、心躍らせるような美しいものもたくさんあるのです。
・・・私もあなた様が充実した日々を過ごせるよう、微力ながらお手伝いさせて頂きますわ!!」
勇者の生活が充実し、心満たされれば、悪い意味で力を暴走させる確率はグッと減るはず。
そして私自身、彼が満足すれば罪の意識も和らぐ。
うん、誰にとっても良い事だわ!!
「・・・王女、わかったよ。
俺、元の世界へ帰れる日まで、この異世界で充実した日々を過ごせるよう、努力するから!!」
うんうん、勇者も前向きになって良かった。
「話はまとまったかしら。
じゃあ勇者様、デルマ王女、参りましょう。
魔王討伐・・・の振りをした、道楽の旅へと!!」
道楽て・・・まっ、良いか。
「おうっ。」
「ええ。」
こうして私達三人は、ジャクショウ城を後にした。
そんな私達にはどんな運命が待ち受けているのかしらね。