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第61話 婚約破棄編⑤ 魔族の歴史

謎の少女、ミロを助けた転移勇者一行。

そしてそのお礼なのか、私達は彼女の家で開催されるパーティに招待されたの。



********



「テンイ様・・・♪」


「ちょ、ちょっと近いよ。

 ミロさん。」


「まあ、『さん』だなんて。

 呼び捨てで構わないですわ♪」


「・・・・・・。」


勇者に助けられたミロはよほど彼の事が気に入ったのでしょう。

積極的に勇者にくっついて、スキンシップを図っているの。

聖女以上に積極的な彼女に対し、さすがの女好きの勇者も困惑してるみたい。


そしてミロに気に入られた勇者を恐ろしい形相で睨み付ける魔族サーラ。


ふ・・・不安ね。

とっても不安ね・・・。


「テンイ・・・。

 大丈夫かしら?」


聖女すら、不安そうな眼差しで勇者を見つめている。

いつもの彼女なら『正妻の座は私よ!!」な~んて言いながら、いちゃいちゃしている(?)彼らに割り込みそうなのに。


「そうね。

 ・・・魔族からあんなに恐ろしい形相で睨まれて。

 不安だわ。」


「ん・・・?

 そっち??」


いや、聖女。

『そっち』って。

あなた、一体誰を警戒してるのよ。


「って、そっか。

 普通なら魔族を警戒して当然ね・・・。

 ・・・あんたが『普通』かどうかはさておき。」


どういう意味よ!?


「私は何度か魔族と関わった事があるから、過剰に警戒しないけどさぁ。

 王女。

 やっぱあんたも魔族は危険な連中だって思ってるクチ?」


「当たり前じゃない。」


「・・・・・・。」


そんなの常識よ。

魔族は人間にとって、極めて危険な存在よ。


「王女様~・・・。

 魔族って悪い人達なの~?」



「いいえ、クロ。

 別に魔族は『悪者』ではないわ。」


「・・・・・・。

 ??????」


「そ~なの~?」


「ん″?

 ・・・王女。

 あんた、言ってる事が矛盾してない?」


特に矛盾してないはずだけど。


「危険なのに悪者じゃないの~?

 よくわかんな~い。」


「ああ。

 クロは魔族について、よく知らないのね。

 ええっと、魔族ってのはね・・・。」


魔族は亜人の一種で、角や翼を生やし、その身を漆黒に染めているの。

彼らはブラック・アイランドと呼ばれる孤島で静かに暮らしていたわ。


魔族は基本的に孤高の一族で、かなり長い間、他の種族とは良くも悪くも関わる事が無かった。

でもブラック・アイランドには他の場所では見かけない、珍しい資源がたくさんあってね。

それに魔族自身の能力や文化も魅力的に映ったのでしょう。


欲に目が眩んだ人間達が魔族を無理矢理悪者扱いし、ブラック・アイランドに侵略戦争を仕掛けたの!!


「え~~~~~~~~!??

 そ、それでどうなったの~~~~?」


「それはね・・・。」


けれど魔族は強かった。

特に魔族の王である魔王は、神々をも上回る力を持つと言われているわ。


とは言え、度重なる襲撃に魔族も小さくない被害を受けたの。

怒り狂った魔族は自分達を襲撃した者、襲撃を命じた国を決して許さず、徹底的に滅ぼし尽くしたわ。

一応、無関係な相手に手を出さないだけの理性は残っていたけどね。

それでも彼らの手により、多くの国が地図上から消滅したの。


「そ・・・そんな事があったなんて。

 いくら悪者達の自業自得とは言え、なんて恐ろしい話なんだ!!」


「ええ。

 キレた魔族って、超怖いのよ・・・。

 彼らとは何度か戦った事があるけど、もう二度と争いたくはないわね。」


さすがの人間達も魔族の恐ろしさを痛感したわ。

そして触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに、多くの国が魔族と関わる事自体を忌避するようになったの。

手出しさえしなければ、魔族に襲われる事は無いからね。


しかしそれでも、一部の愚かな連中は魔族を討伐する事で得られるお宝を諦め切れなかった。

けれど迂闊に侵略戦争を仕掛けると、返り討ちに合い、滅ぼされてしまう・・・。

だから『召喚の転移陣』を使って、異世界から強大な力を持つ人間を呼び、魔族を滅ぼそうと目論んだの!!


「・・・それが異世界召喚・・・。」


幾多の国が何も知らない異世界人を騙し、魔王の元へ向かわせたわ。

勝てばボロ儲け、負けても無関係を装えば報復を受ける事は無い。

・・・そう思ったんでしょうね。


「王女は最初っから、魔王討伐に全然やる気を見せなかったけどさ。

 危険だから・・・得しないから・・・って、理由だけじゃなかったんだ。

 魔王討伐なんて、単なる醜いテロに過ぎないって思ってたからなんだ・・・。」


「その通りです。

 罪も無い異世界人を誘拐した挙句、騙して悪事を働かせようなどと・・・。

 そんな畜生にも劣る行為に手を染めたくはなかったので。」


多くの転移勇者が魔族に・・・魔王に戦いを挑んだわ。

だけど、圧倒的な力を持つ転移勇者でさえ、魔王には敵わなかった。

数多の転移勇者が魔王に屈服し、捕虜や配下となってしまったの。


・・・その結果、魔族はより力を増し、更に手が付けられなくなってしまったわ。


それでも転移勇者が魔族を攻め入ったせいで、彼らの被害もより大きくなった。

増々怒り狂った魔族は誰の命令で襲撃を行ったのか、転移勇者に聞き出してね。

今まで以上に残酷なやり方で報復を行ったの。


結局、転移勇者を騙して安全に魔王を倒そうだなんて目論見は上手く行かなかったみたい・・・。


度重なる一方的な襲撃に魔族の怒りも頂点に達しつつある、と言われている。

これ以上、身勝手な理由で魔族を刺激すると、人間との全面戦争になりかねないわ。

はっきり言って、世界の平和を望むなら、魔王討伐なんて行うべきじゃないのよ!!


「ね、ねえ。

 サーラ・・・。

 今のデルマの話、本当なの?」


「・・・本当です。

 身勝手な人間の襲撃に多くの魔族が怒り狂っています。

 醜い人間共が我らに手を出すのを止めなければ、いずれは・・・。」


「そんな!!」


そして少数ながらブラック・アイランド以外で魔族が姿を見せるようになった。

大抵は誘拐された魔族が逃げ出したとか、戦争に参加した魔族が帰り損ねたとか、そういう理由でね。

彼らの事ははぐれ魔族と呼ばれ、警戒されているわ。


「・・・ふ~ん。

 王女。あんた、魔族に関してはかなり正確に理解してるじゃない。

 転移勇者に関しては、偏見だらけだったのに・・・。」


「魔族に関しては、彼らについて記された本がたくさんあったからね。

 大抵は魔族を悪の権化のように扱っているけどさ。

 でも様々な情報を色々な角度から分析すれば、元は醜い人間の自業自得だって事くらい、理解出来るわ。」


「なるほどね。

 転移勇者に関しては、例の変な本しか情報が無かったせいで、偏見だらけだった、と。」


「・・・つまりその例の本のせいで、王女は俺に変な誤解を抱いてるの!?

 あんまりだぁ・・・。」


い、いやぁ・・・。

私も1つの情報を鵜呑みにするなんて、良くないと思ってるんだけどね。

いくら探しても例の本以外、異世界人に関する情報を得られなかったもんで。


それに私からすれば、魔族云々については、言っちゃなんだけど他人事に近いわ。

けれど勇者に関しては、他人事じゃ済まされない。

接し方を間違える訳にはいかない。


だから例の本に書かれている事を信じるしかなかったの。

例の本が無かったら、勇者とどう向き合えば良いかわからなかったから・・・。


「でもそこまで魔族の事情を理解してるんだったらさぁ。

 なんで危険だなんて思ってるの?

 どちらかと言えば、魔族の方が被害者なのよ。」


「だからこそよ。

 つまり魔族は人間からず~っと酷い目に合わされてきたって事でしょ?

 人間を心底憎んでいるに決まってるじゃない!!」


「ま~、多くの魔族はそ~かもしれないわね~。

 って、あんたもしかして・・・。」


聖女もなんで私が魔族を危険視しているのか、理解したみたいね。

そうよ。


「魔族は人間に対し、深い・・・深い憎しみを抱いている。

 出会ってしまったら最後、即座に殺しに掛かってもおかしくないほどに、ね。

 そんな彼らが危険じゃないわけ、ないじゃない!!」


「なんで~?

 あたし達、魔族に酷い事なんかしてないよ~。

 なのに憎まれるなんて、おかし~よ。」


「そうね、クロ・・・。

 でも魔族にとってはそんな事、言い訳にもならないの。

 人間だってだけで、強い憎しみを抱くに決まってるわ。」


「・・・王女。

 それは・・・。」


実際の所、はぐれ魔族が人に危害を加える事も少なくない。

逆に人間の方からはぐれ魔族を排除せんと、危害を加える事も多い。

今までも・・・きっとこれからもそんな事が繰り返される。


いくら人間が悪で、彼らが被害者だったとしてもさ・・・。


「魔族は人間に深い憎しみを抱いている。

 憎しみを抱いている相手を信用する事なんて、出来る訳ないのよ。

 人間と魔族は・・・決して分かり合えないのよ。」





「勝手に決めつけるな!!!!」





!!??


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読んで頂き、ありがとうございました。

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